11月になると、各界でなにかと表彰が話題になりがちだ。IR業界も多くの表彰イベントが用意され、その評価に各社のIRサイトのパフォーマンスが引用される場合も少なくない。
ところで、有力誌「IRマガジン」が世界各地で開催する「IR賞」に、この1、2年、その「ベストウェブサイト」の部門賞が見当たらない。
取引所や金融メディアなど広く市場関係者の注目を集めるイベントだけに気になるではないか―。
「米国IR賞」では06年まで毎年「ベストウェブサイト賞」が用意されてきた。
この賞にはIT先進企業のマイクロソフト(99年、2000年)やシスコ・システムズ(03年、06年)、通信大手のEMC(01年)やべライゾン(02年)、ネットオークション大手Eベイ(05年)の名前があるのは当然だが、小売大手リミテッド・ブランズ(04年)やレストランのチーコズ・FASスミスフィールド・フーズ(05年)も選出され、IRサイトの業種を超えた浸透ぶりを示していた。
この「米国IR賞」で、人口520万人のフィンランドが誇る通信機器大手のノキアは、99年から08年まで、05年を除いて毎年「ベスト欧州企業賞」を受賞してきた。
欧州北端に位置するノキアが米預託証券(ADR)によるニューヨーク証券取引所に上場して以来、国外の株主・投資家に対するIR活動をウェブサイトに集中した成果だ。「米国でIR活動を展開するベスト欧州企業」の地歩を占めているのは、そのIRサイトの効用による。
01年に始まった「北欧IR賞」はノキアも対象にする。もちろん、ノキアは「ベストウェブサイト賞」の常連だった。さらに具体的なカンフェランスに踏み込んだ評価を問う「ベスト・バーチャル・カンフェランス活用賞」を、04年を除いて(受賞はパルプ大手のストラエンソ)、毎年のように受賞してきた。
その「北欧IR賞」に07年、08年と「ベストウェブサイト賞」の部門が見当たらなくなった。代わって「IR向けテクノロジーベスト活用賞」が登場。この2年ともデンマークの銀行大手ダンスケが連続受賞した。
また03年に始まった「欧州IR賞」にも「ベストウェブサイト賞」がなく、代わって「ベストインターネット活用賞」や「ベスト・バーチャル・カンフェランス活用賞」が用意され、ノキア(03年、04年)が2つとも受賞していたこともある。
08年には「IR向けベストテクノロジー活用賞」が初めて登場し、ドイツの大手エネルギーE.ONが受賞した。
07年の「米国IR賞」には「ベストウェブサイト賞」は用意されなかった。
もっとも、04年から「ベストテクノロジー活用賞」があり、アパレル大手コロンビア・スポーツウェア(04年)、通信大手べライゾン(05年)、金融大手ハートフォード・ファイナンシャル(06年)、GE(07年)が受賞してきた。
思えば3〜4年ほど前から、各社ともポッドキャスティングも当たり前になり、ブログやRSSリーダー、フラッシュを使った映像展開など、いわゆる「ウェブ2.0」が現実になった。
そのため、各社のサイトに何を掲載してリッチなコンテンツを作成するのかを論じる時代はもう後方に過ぎていったのだ。欧米の「IR賞」の部門賞から「ベストウェブサイト賞」は退場したのも時代の流れだ。
言い換えれば、いまはサイトの「テクノロジー活用」がIR活動の成否を分けるキーワードなのだ。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやま てつゆき)
大和インベスター・リレーションズ(大和証券グループ)海外IR部長。近書に「大買収時代の企業情報〜ホームページに『宝』がある」(朝日新聞社)など。最近の論文に「市場の大混乱にIRはどう動くか」(『PRIR』08年12月号)「ショートポジションが『報告義務』に」(「月間エネルギー」08年11月号)など。
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