ソフトバンクモバイルの顧客管理システムダウンという、まさしく「予想外」でスタートを切った番号ポータビリティ(MNP)商戦。だが、その翌週の11月初めの連休を経て、ひとまずの傾向が確認された。MNP利用/非利用の両方を含む利用者数の異動を示す端末販売数を調べたGfKによれば、NTTドコモのシェア低下(4%減の47%へ)に対して、auは予想通りの純増(34%から35%の1%増)、ソフトバンクが健闘(3%増の18%)という状況だ。MNP開始の直前に形成された下馬評にほぼ沿うものとなっているのではないか。
どこまで汎用性があるかは問わないとして、僕のオフィスのメンバーなどに訊くとMNPを利用する意図のあるなしにかかわらず、新機種発表を受け端末変更を漠然と考え、先の連休に量販店などへ足を運んだ人は多いようだ。発表機種数が多かったものの、実際に購入可能な機種数が限られていたドコモは見栄えがしなかったという印象が強く、ラインナップの多さで匹敵するauとソフトバンクとでは端末自体の魅力で迷った、という感想がいくつか聞こえた。
その会話から見つけられたのは、「店頭での品揃え」という基本的なポイントに加えて、端末というハード自体の魅力が依然として大きなケータイキャリアの選択に寄与しているということ。そして、そのラインナップの傾向(デザインや大きさ、目玉とする機能など)からうかがわれる各キャリアの重視する提供価値がキャリアのブランドやイメージを規定し、個別の端末そのものよりも全体としてのイメージが最終的な決定要素になるということだ。
同時にこれまで通り「最新機種には新しい機能がたくさん付いてくる」ことが、どうやら必ずしも売りにはならなくなっているという印象も得た。機能が削ぎ落とされているという価値が、デザインフォームの洗練や「薄さ」などという物理的な容量の圧縮で表現されていれば、それは十分な選択要因になる。すなわち、機能的に下位であるからといって、先行的なユーザーが目もくれないという状況ではなくなったことになる。この点で、「苦し紛れ」とまでいわれたソフトバンクのラインナップが必ずしも見劣りしないということになっているようだ。
これまではキャリア間でのイメージ比較をする思考実験まででおしまいだったが、MNPが導入され、「じゃあキャリア変更をしようか」と具体的なステップに踏み出すきっかけが確実に提供されたことになる。そして、そんなきっかけを利用する人は必ずしも少なくなさそうだ。
たった10日あまりではあるものの、差分で1社あたり最大4%のシェア変動がみられたのは、一部でささやかれた「MNPはあまり利用されないであろう」という予測には沿わないものではないか。もちろん、早々に結論付けるわけにはいくまい。しかしながら、この連休には売り場に足を運ばなかった人たちであっても、量販店のようにキャリア間での比較を容易にした店舗であればなおさら、機能そのものよりも前述のとおり身につける親密な「道具」としてのケータイ端末の価値を重視する人にとっては、キャリア変更も含めた選択範囲が明らかに広がっている。そして、そういった価値を持つ人の層は決して少なくない。
いずれにしても、MNPの導入は、先に大きなキャンペーンが展開された通り、全体的な料金の引き下げが多様な割引制度の整備によって実現された(それでも、基本料金そのものは高止まりしており、ソフトバンク孫社長の指摘通り、そして当のソフトバンクモバイルも含めて、キャリアは巨額の利益を出し続けている)。これまで以上の選択肢を利用者に提供したという点で、十分な意味があるということはできるのではないか。
短期的にはMNP導入によってこれまでとは異なる状況へと突入したケータイ市場だが、もう少し長い目で見ると、その本質的な価値についての変化も訪れつつある。
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