Richard Nixon氏は1952年の共和党副大統領指名選挙で、同氏の娘が飼うコッカースパニエル犬「チェッカーズ」について演説で触れるという、いささか情緒的なパフォーマンスをテレビで見せることで下降気味だった人気を取り戻した。このときの演説は、「チェッカーズ・スピーチ」として今日まで語り継がれている。
HPの最高経営責任者(CEO)Mark Hurd氏が白と黒のブチの犬を連れて記者会見の大舞台に登場していたら、今回のHPでの社内秘密調査疑惑をめぐる騒ぎを緩和できたかもしれない。
しかし、実際にはそうはいかなかった。Hurd氏は米国時間9月22日午後、この老舗企業を揺るがすプリテキスティング騒動に関して、最もまずい方法で自己の過失を認めた。彼は、台本どおりのパフォーマンスを演じたのである。そう、まさにすべてがパフォーマンスだった。本来記者会見として用意された場だったが質問は許可されず、Hurd氏のそっけない言葉はさらなる疑問を生んだ。
そして、Hurd氏の会見は、HPの重役らが自分の役割をこなしたにすぎないという、皆がひそかに思っていたこと確かにしただけだった。
まったくHurd氏らしからぬ発言だ。
2006年2月、Hurd氏は、HP社内の情報提供者を突きとめる意図でCNET News.comの記者に偽の電子メールを送信してその反応を見るというばかげた手段がとられたことを許可した。しかし、恐らくやり手の弁護士からの入れ知恵だろうが、追跡技術の使用については見たことも認めたことも思い出せないと言っている。まあ、いいだろう。しかし、クルーゾー警部ばりのこの愚かな行為について、もう少しまともな判断は下せなかったのだろうか。
もっと奇妙なのは、部下から送られてきた、HP内で実施された調査結果を報告するメモをHurd氏が読み損ねたと言っている点だ。「読み損ねた」とはどういうことか。ゴルフのトーナメントが開催されていて注意をそがれたとでも言うつもりだろうか。CEOのCは「chief」の略だ。Merriam-Webster's Collegiate Dictionaryで「chief」を引いてみると「複数の人からなる集合体あるいは組織の長」と定義されている。探偵まがいの調査方法の詳細など知る価値はないとHurd氏が思っているなら、今回のような件が起こったときに手に負えなくても驚くべきではない。
ウォール街は、今回の件ができるかぎり早く収束することを心の底から願っている。当然だ。彼らの興味は企業倫理の問題などではなく、マネー製造機たる企業につつがなく経営を維持させることだからである。しかしHPは、優秀とはいえない経営陣のために、自ら収拾のつかない状態に陥っている。
2005年の初めにCarly Fiorina氏に代わってCEOに任命されて以来、Hurd氏は外部と良好な関係を維持してきた。Hurd氏について書かれた彼を賞賛するプロフィール記事によると、彼は細部にもぬかりない精力的な働き手として通っている。だから、取締役が機密情報を社外に漏らしたことを知ったら彼が怒り狂うのも理解できる。しかし、その情報提供者を突き止めるために使った方法に注意を払っていないというのは、われわれが聞かされているMark Hurd氏のイメージと一致しない。
Patricia Dunn氏が犠牲になって会長職を辞任させられた件についてもそうだ。誰かが犠牲になる必要があった。彼女はその候補であることは明白だった(これで今回の件を「パトリシアゲート事件」と呼べなくなるのは残念だ)。彼女は辞表に、部下にはがっかりさせられたとして、責任を転嫁するような内容を書いている。「今回の社内調査を実行した人たちはわたしが選んだわけではない。調査は取締役会の承認を得て実行されたものだ」(Dunn氏)
そう、彼女は、「責任は転嫁しない」をモットーとしたHarry Truman元大統領ではない。この騒動がDunn氏にとって最高の日々をもたらすものではないことは確かだが、Hurd氏と同じように適切な判断を下せずにいることには、あきれてものも言えない。Dunn氏とHurd氏には、必要ならアリバイはいくらでもある。しかし、両者とも新人社員などではない。情報提供者を突き止めるための調査を命令したあと、もう少し注意を払うべきだった。特に、調査手法の一部を知らされたあとに注意を払っていればこんなことにはならなかったはずだ。
以上のことは、当事者でないからと片付けられてしまうことを覚悟で言っている。その一方で、わたしは、米国で最も伝統のあるテクノロジ企業の命運を導くことで多額の報酬を得ているというわけでもない。
ただ、彼らはどうかしているとしか思えない。
著者紹介
Charler Cooper
CNET News.comの解説記事担当編集責任者
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