今こそ光ファイバならではのメリットを考えるとき - (page 2)

光は全国をほぼカバーするが

  具体的には、NTTなど光ファイバ事業者のインセンティブを高め、それが適用できない地域に対しては自治体と国、そして民間事業者が連携して、全国津々浦々に光ファイバーを張り巡らすことになる。そして、誰でも望めば、放送と通信の融合した新たなるサービスの基盤となる光ファイバーインフラを利用できるようになるというのだが・・・。

 総務省発表によると平成17年度末(2006年3月末)の固定系通信の加入者回線数は6677万7161回線となっている。うち光ファイバの加入数は386万9306回線であり、全体の5.8%を占めている。これは前年比較で倍近く(16年度末は3.3%)の世帯や営業所が光ファイバになったということになる。DSLから光ファイバへの移行は現実になっているといっていい。

 しかし、たった5.8%なんだ、という直感も捨てきれない。

 そこには、わざわざ「光」にする必然性を感じないという庶民としての経済感覚があるのではないか。せいぜいADSLで十分といったような。もしそうであるとしたら、今後のIT大国化への展開で疑問が生じざるを得ない・・・。

 例えば、僕の父が1人で生活する中部地区にある実家では、フレッツADSLを利用している。NTT西日本の加入電話の基本料金が月額1785円で、フレッツADSL(8Mプラン:2381.4円)とADSLモデム(514.5円)と屋内配線利用料(63円)で計約4744円となる。

 実家のエリアでは、地域ケーブル会社が提供するケーブルインターネットとNTT西のBフレッツが利用可能だ。単純な足し算引き算で考えても、ケーブルによるトリプルプレー(ケーブル基本料金(税込み)で合計8064円:ケーブルテレビのデジタル最低基本料金が2625円、ケーブルインターネット30Mbpsコース4620円、IP電話基本料金525円、アダプタレンタル料294円)、あるいはひかり電話(NTTのIP電話)を含めたBフレッツは税込み5743.5円(NTT西のBフレッツ・ファミリー100は4063.5円で、これにひかり電話(基本プラン525円)や屋内配線利用料(210円)、回線終端装置利用料(945円)などが必要)となる。

 ケーブルテレビ料金をとりあえず比較のために差し引いても、ADSL+加入電話が4744円、ケーブルインターネット+IP電話が5439円、Bフレッツ+ひかり電話が5743.5円となり、700円から1000円の月額差が生じることになる(実際には、ADSLやBフレッツではISP料金が必要だが、これは僕の家族割引で直接父親は支払っていない。それを考慮しても、光が最も価格的に高いものになることには変わりがない)。加えて、移行のための工事料などが1回限りであっても必要となる。

 そして、たかが1000円の価格差というなかれ。それほどのネットジャンキーでもない父親は、この簡単な比較の結果、経済的にメリットがないと即座に判断をして光への移行を断ったという。ほかの多くの人々が同じ感覚を持っていないとはいえないのだ。

何のための光なのか

 当然、ADSLなど高速常時接続インターネット接続を早期に導入したITリテラシーの比 較的高いアーリーアダプター層は、「より速く!」を求めて光に移行している。また、逆にこれからインターネットというマス層も、「どうせなら」という感覚で光を選ぶ傾向が強い(NTTなど光サービス提供者が積極的にキャンペーンを行っていることも大きく影響しているだろう)。

 しかし、光ネットワークのメリットとはなんだろう?みなしユニバーサルサービスとしての意味合いをいまや与えられているブロードバンドサービスだが、その具体的な生活への見返り=訴求価値がはっきりしていないのではないか。

 時折メールやウェブブラウジングを行って、ちょっとした買い物をオンラインでする、あるいは海外のラジオ番組を楽しむというのであれば、ADSLのような常時接続サービスで十分すぎる利用が可能になっている。光というと、映像や音声などの、いわゆるリッチコンテンツ系といったファイル容量の大きなものや高速ストリーミングなどの利用がすぐに思いつくが、現在、ネット利用を積極的に行っていない人たちが多いエリアに光が来たといっても、リッチコンテンツ系のサービスでご利益がすぐに生じるものではなかろう。

 もちろん、僕個人は光ネットワークの価値を十分に享受させてもらっているし、誰もがどこでも光サービス(正確には、光とは限らず、WiMAXなど無線ネットワークとのハイブリットも含めたすべてのブロードバンド)を利用できる意義もわかっているつもりだ。しかし、現在、ブロードバンドゼロ地域にいる人たちが本当に光ファイバによる超高速インターネットを自ら求めるインセンティブがいまひとつはっきりしないと思うのは僕だけだろうか。

 光ネットワークを経由して、例えば、広くテレビ番組が再送信されるのであれば、現在も依然として問題になっている、そして形式的には解決したことになっている中継塔や第二東京タワーのような発信設備の建設に費用を投じる必要性はなくなる・・・。

 こういった誰もが考えられる光ならではのメリットをあまり訴求できない現在、ただただブロードバンドインフラ大国を目指せ!という掛け声だけでは、何かむなしい気がする。今回のブロードバンド戦略2010でも一部言及されているが、ブロードバンドによって築かれる豊かな世界とは何かを改めて問い、地域や特定の興味を持った人たち、そして起業家たちがさらに自らの肌感覚でよりフィットしたサービスを開発していく良循環をこそ作り出すきっかけが必要となっている。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]