三菱電機、日本電気(NEC)、東京大学生産技術研究所(東大生研)は5月12日、量子暗号システムの相互接続実験に国内で初めて成功したと発表した。今回の成功によって、安全な中継点を置くことで複数人利用や量子暗号の通信距離の問題を解決でき、また中継点を網の目のように結んだ量子暗号ネットワークへの展開も可能であることを実証したという。
この量子暗号システムの相互接続実験は、情報通信研究機構(NICT)の委託研究「量子暗号技術の研究開発」プロジェクトにおいて、三菱電機とNECがそれぞれに開発した量子暗号システムをベースとして、改良を加えたシステムによって実現されたもの。2種の異なる量子暗号システムの相互接続については、海外でも例がないという。
量子暗号は、現在使われているアルゴリズムベースの暗号技術にとって変わることを期待されている次世代の暗号技術。アルゴリズムベースの暗号技術は、解読のために膨大な計算時間が必要であることを安全性の根拠としているが、将来的に超高速なコンピュータが開発された場合には、この計算量的安全性が脅かされることが指摘されている。
一方の量子暗号は、光子の量子状態を利用してデータを送るもので、量子力学の不確定性原理に基づいて盗聴の有無を確実に検出できる。そのため、安全であることが物理的に証明された究極の暗号技術と呼ばれる。
現在、量子暗号技術においては、暗号アルゴリズムの詳細や通信に必要な光学機器などの構成が標準化されていないため、異なるシステム間を相互接続した例はなく、多者間通信ネットワークの構築が課題だったという。
今回の研究では、三菱電機、NECの両社が量子暗号システムを相互に接続するインターフェース機能と暗号鍵を共有する機能を新たに開発し、その方式を用いて両社の端末間で相互通信する実証実験を行って、複数の量子暗号システム間で利用可能なことを確認したという。実験はNICTが有する研究開発テストベッドネットワークJGN2秋葉原アクセスポイントにおいて行われた。
今回の実証実験において、相互接続システムの安全性について検証を行った東大生研の前教授である今井秀樹氏(現中央大学)は、「量子暗号はすでに未来の技術ではない。今回の成果によって、ハイセキュリティネットワークの実現に日本が大きく一歩を踏み出したと言える」と、成果を評した。
今後は、関係機関で連携をとりつつ相互接続可能な量子暗号システムの研究に取り組み、5年後を目標に量子暗号ネットワークの実用化を目指すとしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」