富士通研究所は7月15日、100kpbsでデータ伝送が可能な量子暗号技術を、東京大学生産技術研究所ナノエレクトロニクス連携研究センターと共同で開発したと発表した。これまでの技術では数百bpsでしか伝送できなかった。今回の技術により量子暗号通信が実用化に向けて一歩踏み出したことになる。
量子暗号とは、1個の光の粒子(光子)に暗号の秘密鍵情報を載せて伝送する技術。1つの光子はそれ以上分割することができないため、盗聴者がデータを盗もうとすると受信者には光子が消失/変化した状態で伝わり、盗聴が確実に検知できる。このため、「究極の暗号技術」などとも呼ばれている。
東京大学教授の荒川恭彦氏 |
これまでの量子暗号技術では一般的にレーザー光源を使っていたが、1パルスに2個以上の光子が含まれ、盗聴を防げない可能性があった。これを避けるため光の強度を弱めて光子を1つにする方法があるが、長距離での通信速度が数百bpsしか出せないという課題があった。
今回富士通研と東京大学先端科学技術研究センター・生産技術研究所ナノエレクトロニクス連携研究センター センター長 教授である荒川恭彦氏のグループは、光ファイバ通信に用いられる波長帯(1.3〜1.55μm)において、光子1個(単一光子)だけを発生・計測する技術を開発した。具体的には、量子ドットと呼ばれるナノメートルサイズの構造から効率よく光子を発生させる半導体素子を設計した。両者によると通信波長帯における単一光子の発生は「世界初」という。
富士通研究所ナノテクノロジー研究センター センター長の横山直樹氏 |
また、開発した半導体素子から出る光を集めて、量子ドットから出た光だけを光ファイバに送る単一光子送信システムや、単一光子であることを証明する単一光子受信システムも開発した。荒川氏は「いままでは単一光子の検出機の感度に課題があった。ここを乗り越えたことが大きい」と話す。
今回の技術を利用すれば、100キロメートル程度の伝送距離でも100kbpsの通信が可能となる。「最終的には1Gbpsくらいまで可能ではないか」(荒川氏)
今後の事業展開について富士通研究所ナノテクノロジー研究センター センター長 フェローの横山直樹氏は、「盗聴を完全に防ぎたいというニーズがどこにあるのかははっきりしていないのが現状」としながらも、「今後、官公庁や金融機関などを中心に要望が出てくるのではないか。ニーズが生まれたときにすぐ対応できるよう、基礎技術を今のうちに固めておく」と語る。2007年頃の実用化に向けて研究開発を進めていく方針という。
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