NTTは「未来の衝撃」からいかに立ち直るのか

 NTTグループの中期経営戦略が発表された(関連記事)。そこでは、アナログ加入電話のサービス=東西地域電話会社+長距離国際電話会社の体制はそのままに、インターネット関連サービスに焦点をあててレイヤ別に機能再編を実現するという玉虫色の解決を図ったようにみえる。だが、本来、あるべき軌道に戻っただけという理解もできる。

さらに急変する通信事業者を取り囲む環境

 アナログ固定電話網と光ファイバの整備と提供を行うという地域電話会社の目的特定と、ネット系事業を一括して行う事業会社の成立という今回のNTTの選択は、極めて理にかなったものだろう。正直、ここまでなぜ状況への対応が遅れたのか、客観的に見ると不思議という感すらある。前世紀末に「光ファイバ公社を作るべき」と主張していた僕にとってはそう見える。

 というのは、アナログ加入電話(固定電話)の劣勢は誰の目からも明らかだからだ。世の中の通話のうち、かなりの部分は携帯電話間やPC上のソフトフォン同士でなされるようになっている。そして、それを後押しするように、総務省は既存3社に加えて携帯電話事業者免許を新たにソフトバンク・グループのBBモバイル、イー・アクセス子会社のイー・モバイル、そしてマルチメディア総合研究所系列のアイピーモバイルの3社に付与することを決定した(関連記事)。2006年には新たな選択肢が携帯電話に増えることになるという。

 また、今、携帯電話サービスで最も勢いがあるauを擁するKDDIは、東京電力系通信事業者のパワードコムとの合併を実現し(関連記事)、ついに光ファイバインフラを手中に収めることになった。ソフトバンク・グループはすでにADSLを用いた接続サービスと検索ポータルでインターネット領域では圧倒的な優位を築き、日本テレコムの買収、ボーダフォンとの提携交渉、加えて自社での携帯電話事業免許をついに勝ち得た。この2社は、依然として巨大ではあるものの会社法などの縛りのあるNTTグループと見比べても決して見劣りしない状況を実現しつつある。

 加えて、放送と通信の融合は、今後急速に進展する可能性を見せ始めている。例えば、USENグループが提供するGyaOのように、放送事業者とは異なる形で同様の価値を提供するプレイヤーが出現してきた。 明らかに、6年前の再編時とはNTTグループを取り囲む環境が異なってきているのだ。しかも、WiMAXという高速無線通信のような「破壊的」なイノベーションが市場への投入を列をなして待っている状態にある。

「未来の衝撃」と「イノベーションのジレンマ」

 とはいえ、2000年の長距離通信会社の選択サービス「マイライン(電話会社事前登録制度)」の導入を背景に実現された1999年のNTT分割が、すでに消えゆく運命が確定していたアナログ加入電話サービスを前提としたこと自体が間違いではあった。

 すでに、固定(世帯)から移動(個人)へと通信利用者の単位がなだれをうって移行しはじめていたのは、世界的な状況を見ても明らかであった。また、これまでの交換機を用いた通信とは本質的に「似て非なる」コネクションレス通信(=パケット通信)のインターネットが勃興し急速に普及しだしていたことは、移動体通信への加速度的な移行と合わせて、レガシーな元官営通信事業者にとって「未来の衝撃」以外の何者でもなかったに違いない。

 「第三の波」の著者として知られる未来学者の故アルビン・トフラーは、早すぎるテクノロジーの進展に社会や個人の行動や規範の変化が追いつかず、取り残され、その衝撃波に心理的に打ちのめされて、一時的に麻痺状態に陥った状態を「未来の衝撃」という言葉を使って表現した。その著書の中で、トフラーは「未来の衝撃」によって、本来とるべき判断や行動を誤るケースが多く現れるであろうという警鐘も鳴らしていた。

 そんな「未来の衝撃」にさらされたとき、一部の柔軟な人たち(大体において、社会的制約に縛られることのない裕福層や、そもそも逸脱をよしとしたアーティスティックな志向を持つイノベーター層)を除き、現状の文化や既存の制度を過剰に庇護しようとする行動に出やすい。本来ならば、避けることのできない衝撃波に全体をいかに対応させるか=ソフト・ランディングの実現が望ましいのは明らかだ。しかし、全体よりも目先の顧客や体制の維持=変化への耐性を備えようとする、すなわち「過剰な慣性」が生まれる傾向が強い。結果として、ハード・ランディングが生ずるのだ。

 このことを、経営学の視点から企業行動と経営戦略の領域でとらえたのが、ハーバードビジネススクール教授であるクレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ(原題は「イノベーターのジレンマ」)」であろう。

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