ドイツのソフトウェア大手SAPは、一連の新しいデータ統合技術を今月末までにリリースする計画を進めている。この技術の登場で、同社は互換性のないソフトウェア同士を接続する技術の分野で、他社と衝突する可能性がある。
SAPの重役会メンバーであるShai AgassiがCNET News.comに先週語ったところによると、同社はこれまで1年以上をかけて開発を進めてきた「NetWeaver 2004」と呼ばれる新しいパッケージプログラムを3月31日までにリリースするという。SAPはドイツで開催されるCeBitコンピュータカンファレンス会期中の3月18日に、このリリースの詳細を明らかにする予定だと同氏は語った。
NetWeaverは、SAPの人気の高いアプリケーションプログラム群向けの新たな技術基盤。同社のアプリケーションは、全世界で数千社の大企業が製造、会計、営業、人事などの社内業務合理化のために採用している。
アナリストによると、この新アーキテクチャによって、SAPはIBMやMicrosoftとの衝突が避けられなくなるという。この2社が販売する相互運用性(実現)ツールやコンピューティングインフラ用プログラムの多くを、NetWeaverでも採り入れているというのがその理由だ。同製品は特に、IBMのWebSphereやMicrosoftのBizTalk Server製品をはじめとして、他の小規模ベンダー各社のソフトウェアとも競合することを狙ったもの。SAPによると、同製品はシステム統合を専門にするAccentureやIBMのGlobal Servicesといったコンサルティング企業に対する挑戦でもあるという。
より高いレベルから眺めれば、SAPの方向性は、ベンダー各社が力をつけてきており、不規則に広がる企業ネットワークの個々の部品を統合し、1つのシステムとして機能させられることを浮き彫りにしている。
Enterprise Applications Consultingのアナリスト、Joshua Greenbaumは、「これはどうしても譲れない戦いだ。これらの企業は法人クライアントと小さいビジネスをすることは望んでいない。各社は次のレベルの技術革新を定義し、またそれを実現したいと考えている。支配権を握れば膨大な利益が転がり込んでくるのだ」と語った。
複数の世代にまたがる互換性のないソフトウェアを抱え込む多くの大企業にとって、ソフトウェアの統合は最優先課題の1つとして浮上している。各業務用システムが強力に連携していなければ、企業はさまざまなシステムに格納されたデータに容易にアクセスすることができず、重要な情報が絶たれてしまう。
SAPのAgassiは、同社のNetWeaver構想が長年のパートナーであるAccenture、IBM、Microsoftなどの各社との関係悪化を招くのではとの見方を一蹴した。結局のところ、同社は自社システムを機能させるために、コンサルティングや技術分野の提携企業に依存しているためだ。しかし同氏は、名指しを避けながらも対立の可能性があることは認めた。Agassiによると、NetWeaverは「各種の統合用プラットフォームを破壊するもの」だという。
しかし、SAPも競争の緊張を和らげるべく処置を講じ、NetWeaverにIBMやMicrosoftの技術との互換性を持たせている。同社はまたNetWeaverの販売先として、業界全体ではなく自社の顧客ベースに重点を置く可能性が高いと、Forresterのアナリスト、Byron Millerは述べている。
「(SAPにとっては)既に優位な部分からアプリケーション統合分野のシェアを獲得していくことが主な戦略になる」(Miller)
壁を切り崩す
SAPが2年近く前から公の場で言及し始めたこの新アーキテクチャには、複数のシステムを連携させるためのウェブサービスと呼ばれる一連の標準が組み込まれている。
SAPなどの各社は、これらの新しい標準について、コストのかかる膨大な数のコンサルタントや、細心の注意を要し保守の難しいカスタムソフトウェアを利用せずに、非互換業務システム同士がコミュニケーションを取れるようにする、ベンダーに依存しない手法として、大々的に宣伝している。Agassiは、先週カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたSand Hill Group主催のSoftware 2004カンファレンスの講演の中で、「ドイツ企業のわれわれが言うのもおかしいが、(システム同士を分断している)壁を崩さなくてはならない」と語っている。
NetWeaver 2004は、新製品や改良した製品を集めて1台のサーバ上で動作するようにしたものだ。アナリストによると、同プログラムの以前のバージョンでは別々のサーバと異なる基盤技術が必要で、これが原因となり多くの顧客は購入に踏み切らなかったという。Agassiによると、2004年バージョンには、SAPのポータルソフトウェア、アプリケーションサーバプログラム、統合ツール、データ解析システム、ワークフロープログラム、そしてモバイルコンピューティングインフラが含まれているという。
Greenbaumによると、同製品ではWebMethodsやSeeBeyondなどが販売する相互運用性プログラムと連動するよう設計されているという。SAPは今のところNetWeaverの価格を明らかにしていないが、アナリストらによると、いくつかのコンポーネントはSAPのアプリケーションセットとは別売になるという。そのうちの1つがSAPマスターデータ管理と呼ばれるプログラムで、これは異なるアプリケーション間でデータを同期するものだ。
SAPによると、NetWeaverに組み込まれたようなウェブサービスは、企業を効率を高めるが、同社はほかのメリットも意識しているという。企業はSAPやライバル企業からソフトウェアを購入した場合、通常はアプリケーション自体の3〜5倍の金額をコンサルティングサービスや他のソフトウェア開発ツールに費やすという。
「どのアプリケーションベンダーも、過去2年ほどは、そうした話を耳にしてきている」とMiller。「大型契約を次々と獲得できる時代は終わった。各ベンダーはいま規模の小さな契約を積み重ねている。そんななかで、自社を成長させ続けるにはどうするか?答えは、新たな分野へのビジネス拡大だ」(Miller)
アプリケーションの相互運用性を売り物にしているのは、SAPだけではない。Siebel Systems、Oracle、Microsoftなど、どのベンダーもWebサービスに基づいたビジネスアプリケーションの統合を売り込んでいる。Siebelの取り組みはUniversal Applications Networkと呼ばれ、他のソフトウェアメーカーの開発ツールを取り込むものだ。Microsoftはこの分野でBizTalk Serverという製品を発売しており、またOracleもつい先頃Customer Data Hubと呼ぶプログラムを通じて、独自の製品を発売したところだ。
Agassiは、メーカー各社が新しいソフトウェアアーキテクチャに磨きをかけるのに、あと1〜3年はかかると予想。そして、この技術が企業の主流に追いつくまでにさらに3〜6年はかかると、同氏は述べた。
いっぽう、SAPの今年度の最重要課題は、NetWeaverの新しい顧客を増やすことで、同社ではこの新たな顧客を照会先として利用し、さらに多くの新規顧客を獲得できるとAgassiは述べている。SAPはまた、数千社の顧客に対して、新しいソフトウェアにアップグレードするよう密かに働きかけており、NetWeaverとうまく連動しない古いソフトウェアのサポートは停止しようとしている。同社では、1990年代の主力製品であったR/3への標準サポートを、今後4、5年をかけて徐々に取りやめる計画だ。
顧客を新しいソフトウェアに移行させることは、SAPが乗り越えるべき最大のハードルになる可能性があると、Millerは述べている。「(SAP製品のような)システムは顧客企業にしてみれば非常に大規模な投資であり、特に高度に手を加えたシステムを利用する企業を新しいバージョンに移行させるのは、常に難しいものだ」(Miller)
「SAPの顧客は大企業中の大企業だ。このことが意味するのは、そうした顧客がSAPの今後の行方に非常に大きな関心を抱き、そしてすぐにもそうした方向へ進むかどうかに関しては概して保守的な態度を示すことになるということだ」とMillerは語った。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向け に編集したものです。
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