まさにそのとおり。たとえばKDDIは先頃、絵文字互換サービスにiPhone 3Gへの対応を追加しました。でもiPhone 3Gが絵文字に対応したのは2008年の11月のことです。いくら他社との互換サービスとはいえ、どうして開始から3カ月も遅れたタイミングになったのかといえば、ここまで説明した変換方式の複雑さと無関係ではないはずです。
とはいえ現実には「中心となる仮想的な文字コード」(全社共通の符号表)(図5)を作成することは、大変な困難をともないます。各社の絵文字は同じようで、ちょっとずつ違うからです。これを一つずつ同定するのは考えただけで頭が痛くなる。しかしどんなに苦労しても一旦それを作りさえすれば、変換先をいくらでも増やせ、また将来的にシフトJISよりも利便性の高い文字コード(たとえばUnicode)に移行することも簡単になります。制限の多いシフトJISの実装を永遠に続けるわけにはいきません。未来を見据えればおのずと選択は明らかでした。しかし、残念なことにキャリア各社は困難だけど確かな未来より、簡単だけど未来のない現実を選択してしまったのです。
もう1つ指摘できることがあります。じつは絵文字のUnicode符号化とは、この「中心となる仮想的な文字コード」を作ることに他ならないということです。つまり絵文字がUnicodeに収録されて標準が定まれば、キャリア各社の絵文字はUnicodeを経由することで他社の絵文字に変換することが可能になります。これにより絵文字そのものの利便性が飛躍的に増加し、開発のハードルを下げ、新しい市場を産み出すでしょう。次回に紹介しますが、まさにこの点にこそGoogleの狙いはあります。
同時にすこし穿った見方をすると、キャリア各社は自分たち以外に変換表の作成をゆだねることで、絵文字実装の主導権をGoogleに奪われたと見ることもできます。振り返れば、おそらく2006年の絵文字変換サービスにあたっては、キャリア同士の突っ込んだ話し合いがあったでしょう。だとすれば、じつはその時こそは自分たちが今まで育ててきた絵文字の未来を、自分たち自身で決める絶好の、そして最後のチャンスだったことになります。
俗に「幸運の女神に後ろ髪はない」と言いますが、それと知ったときにはもう遅い。つまりキャリア各社にとって今回のUnicode符号化プロジェクトというのは、今まで矛盾を知りつつ無理矢理フタをしていた「パンドラの箱」を、突然よそ者のGoogleがやって来てパーンと開け放ってしまったようなもの……というと、すこし意地が悪すぎるでしょうか。
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