先ごろ、「ツイッターは、株式市場に向けた企業情報の伝播に効果が高い」と指摘する研究論文が発表され、世界各地のIR/コミュニケーション関係者の間で大きな話題になっている。
2010年5月にシカゴ大学の3人の研究者による「今日、企業は自社情報の仲介者として行動できるか―企業ニュースを伝播するダイレクト・アクセス情報技術(DAITs)が果たす役割―」という論文に登場する。
この論文は、ツイッターやRSS、IRメールなど、企業がリアルタイムで広範な投資家にダイレクト・アクセスする新たなテクノロジを対象にし、とりわけツイッタ―が情報伝播でどのような役割を果たしているかを検証している。
これによれば、ツイッターにアカウントをもつテクノロジ企業の場合、(1)ポスティング(ツィート)の数は、その企業が発信するニュースイベントの前後に大きく増加すること、(2)この増加はハイパーリンク付きのツイートによって引き起こされること、(3)イベント期間中のツィーティングの増加は株式の売買スプレッド(買値と売値の値幅)の縮小に結びついていることが判明したという。
また、こうした傾向は、時価総額が小さく、アナリストカバレッジが弱く、株主も少ない企業など市場であまり目立たない中堅企業ではさらに顕著になるという。
2009年1月、同じシカゴ大学で、2001年1月から6年間にわたる約930万の新聞記事を分析し、「ニュースが広まれば広まるほど、売買スプレッドは縮小し、株式の売買高は増加し、企業固有のボラティリティは低下する」とする論文が発表された。
その時も企業情報に関係する業界人は「口には出さないが、そうだろうと思っていたことが、この研究で数量的に明らかになった」と内心ほくそ笑んだものだった。
確かに、企業のニュースが広まるほど、以前にはその企業をよく知らなかった投資家の関心を引くため、投資家層が広がりやすくなる。投資家に情報が広がると、そのニュースに気づく投資家の数も増えるからだ。その結果、企業ニュースの広がりは企業と投資家の情報ギャップを埋める。そうなると、企業の売買スプレッドが縮小する、との仮説は成立する。
ただし、これは新聞記事を対象とした論文だった。現実の情報の伝搬は、週刊誌や月刊誌、それにテレビやラジオもある。そしてなんといってもインターネットを駆け巡る情報空間を無視することはできない。そこに、今回、ツイッタ―をテーマに「株式市場に向けた企業情報の伝播に効果が高い」とする論文が登場した。
「素晴らしい研究だ」「この論文で、これからのIR活動はツイッターなしではやっていけないことが分かった」など高く評価する賛辞が聞こえる一方で、「企業のEメールやRSSについても、それなりの検証がほしかった」ともっと突っ込んだ検証を期待する声もあった。
これからますます、各社のIR担当者は、こうしたダイレクト・アクセス情報テクノロジ(DAITs)がもつ利用効果から目を離すわけにはいかなくなる。
◇ライタプロフィール
米山 徹幸(よねやま てつゆき)
IRウオッチャー、埼玉学園大学教授。最近の寄稿に「ロンドン証券取引所が仕掛けるアナリストカバレッジ拡大」(宣伝会議「広報会議」10年8 月号)など。
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