昨年11月、スウェーデンのウェブコンサルタント、ハルワーソン&ハルワーソン(H&H)が発表した「2009年欧州企業ウェブランキング500」は、昨年に続き、今年もトップにイタリアのエネルギー大手ENIを選出した。
トップのENIに対するいちばんの評価は、動画やリポートのダウンロードをはじめ、財務報告やニュース発表と同時にコンテンツを更新するなど高いユーザビリティにある。多くのIR関係者から「すばらしい。ENIのIRサイトは、ウィジェットを使って見たいコンテンツをカスタマイズできる」とベタ褒めされている。ウィジェットは常時更新された情報をミニウインドウで表示する。同時的で双方向的なウェブサイト。これが2年連続でトップとなる高い評価をもたらしたといっていい。
双方向性といえば、主な財務データをグラフにする仕掛けも登場している。H&Hのウェブランキングの対象外であるが、欧州を代表する宇宙航空・防衛関連大手EADSの「インタラクティブ・チャート・ジェネレーター」にアクセスしてみよう。EBIT(支払利息および税金控除前利益)、純利益、1株当り利益(EPS)、1株当り配当金、フリー・キャッシュ・フロー、研究開発費用(R&D)などの財務データが、カット&ペーストやダウンロードすることもなく、エクセルシートの操作もせずに、ただマウスを数回クリックするだけで、即グラフに作成できる。
ところでこの数年、自宅やオフィスばかりでなく、移動中でも携帯電話やPDAでIR情報にアクセスすることが当たり前になってきた。これに向けて自社のIRサイトを用意する企業も少なくない。例えば、英大手保険AVIVA。その「Stay in touch」ではRSSリーダー、Eメール更新、モバイル・サイトが用意され、これをクリックすると、それぞれのコンテンツが分かる。H&Hのウェブランキングでは35位と、英国企業で世界的タバコ大手BAT(31位)に続いた。
H&H のランキングで2位を占めたイタリア有力金融グループのユニクレジット。そのIRサイトも決算発表などのプレスリリースはPDF版で、関連する部門別データはエクセルシートで、そしてプレゼンテーションの説明資料のパワーポイントはPDF版で、それぞれ用意される。カンファレンス・コールの「オーディオ・ウェブキャスティング」をクリックすれば、説明資料のパワーポイントと同期した音声配信で説明会の模様が再現される。ここまでは日本企業でもおなじみだ。ところが、ユニクレジットのIRサイトは、説明会のテープがmp3でダウンロードできるのだ。適当な機会に再生すればいい。
こうしてみると、欧州の代表的な企業のIRサイトは、双方向性や同時性、あるいは移動中の場面に配慮していることが分かる。ウィジェットといい、mp3といい、毎日の暮らしで見かけるソフトだが、日本企業のIRサイトでは見かけたことがない。
欧州企業のIRサイトに学ぶことはまだまだありそうだ。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやま てつゆき)
大和総研・経営戦略研究所客員研究員。最近の寄稿に「〜英国、日本、米国〜アニュアルリポートをどのように評価するか」(「月刊エネルギー」2010年3月号)など。「日経マネー」(日経BP)に「個人投資家のための企業IR透視術」を連載中。
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