モバイルフィルタリング問題をめぐる関係者の思惑--これまでの経緯を振り返る - (page 3)

永井美智子(編集部)2008年03月31日 12時37分

フィルタリングの仕組みとは

 ここで携帯電話のフィルタリングの仕組みについて確認しておこう。フィルタリングサービスとは、設定に応じて特定のサイトを閲覧できなくする機能のことだ。

 PC向けの場合、PCにフィルタリングソフトをインストールして、閲覧したいサイト、もしくはしたくないサイトを個別に設定するのが一般的だ。ただし携帯電話の場合、端末にフィルタリングソフトをインストールするのは難しいとして、携帯電話事業者は自社のネットワークのゲートウェイで、一律にフィルタリングをかけている。

 現在、携帯電話事業者が提供しているフィルタリングサービスは大きく2種類ある。1つは「ホワイトリスト方式」と呼ばれる、携帯電話事業者が認めたサイトだけにアクセスできる方式。もう1つは、「ブラックリスト方式」と呼ばれる、携帯電話事業者が「アクセスすべきではない」と判断したものだけアクセスできないようブロックする方式だ。

ホワイトリストブラックリスト
NTTドコモキッズ iモードフィルタiモードフィルタ
auEZ安心アクセスサービス特定カテゴリ制限コース
ソフトバンクモバイルYahoo!きっずウェブ利用制限
ウィルコム有害サイトアクセス制限サービス
4キャリアが提供するフィルタリングサービス

 現在、NTTドコモとauは、未成年者がホワイトリスト方式のフィルタリングサービスに加入するような措置をしている。具体的には、「公式サイト」と呼ばれる、携帯電話事業者が公認したサイトにのみ、青少年がアクセスできる形にしているのだ(なお、公式サイトであってもコミュニティサイトなどはアクセスできないようにしている)。

 しかし、これについてはコンテンツプロバイダーから強い反対の声が上がっている。もともと公式サイトは、携帯電話事業者の利益に沿うサイトが中心となって構成されている。このため、たとえば携帯電話事業者の公式メニューと競合するようなポータルサイトなどは、公式サイトとして認められることが難しかった(ただし、最近では検索サイトが公式サービスとして採用されるなど、状況は変化してきている)。

 もちろん携帯電話事業者は、利用者が安全に使えるサイトというのを公式サイトの認定基準の1つに入れている。しかし、公式サイトしかアクセスできないようにするというのは、不当に競争を排除しているのではないかという声が上がっているのだ。総務省でもこの点については懸念しており、検討会「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」にて「ブラックリスト方式を原則とするのが望ましい」との考えを示している。

コミュニティサイトは一律NG

 ただし、ブラックリストであれば問題がないのか、といえばそうでもない。膨大なモバイルサイトの中から、どのサイトはアクセスしてよいか、悪いかというのを区分するのは大変な作業になる。そこで各社は、第三者が提供するモバイルサイトのリストを利用して、フィルタリングをかけている。現在のところ、4キャリアともネットスターというフィルタリングソフト会社の作成したリストを採用している。

 ネットスターはモバイルサイトを、その内容によって「不法(違法と思われる行為、違法と思われる薬物、不適切な薬物利用)」「アダルト(性行為、ヌード画像、性風俗アダルト検索・リンク集)」などのカテゴリに区分している。携帯電話事業者はこの中からいくつかのカテゴリを選び、そのカテゴリに入るサイトはすべてアクセスできないようにしている。

 この「アクセスできないカテゴリ」には、「コミュニケーション(ウェブチャット、掲示板、IT掲示板)」や「宗教(伝統的な宗教、宗教一般)」「政治活動・政党(政治活動・政党)」といったカテゴリも選ばれている。前出のモバゲータウンや魔法のiらんどはユーザー同士がサイト上でコミュニケーションをする機能が盛り込まれているため、コミュニケーションカテゴリのサイトとしてアクセスできなくなるのだ。

 インターネットの大きな利点の1つは、コミュニケーションコストを下げることにある。ソーシャルネットワーキングサービスで古い友だちと再び連絡を取り合ったり、ブログを通じて趣味や考え方の似た人と知り合った経験を持つ人も多いだろう。現状のフィルタリングサービスでは、これらのサービスへのアクセスを一律的に規制してしまう。

 携帯電話事業者としては、性犯罪につながるようなやりとりを青少年が携帯電話上で行うことや、掲示板などがいじめ等に使われることを懸念し、このような措置をとっている。

 しかしこれでは、「監視体制をきちんと整えている企業と、そうでない企業が同等に扱われている」(ディー・エヌ・エー代表取締役社長の南場智子氏)ことになる。このため、コンテンツプロバイダーによる団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」が、健全なモバイルサイトを認定する第三者機関「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構」を設立することで対応しようとしている。トラブルが起きないようにきちんと監視しているなど、いくつかの基準をクリアしたサイトを健全サイトとして認定し、この認定を受けたサイトはフィルタリングの対象から外すように、携帯電話事業者に働きかけているのだ。

 2007年12月に総務省から出された要請により、親権者が「フィルタリングサービスを利用しない」という明確な意思を示さない限り、青少年は一部のサイトしか見られない状態になる。その範囲は当初、一部の公式サイトのみになると見られていたが、コンテンツプロバイダーの働きかけにより、一般サイトやコミュニケーションサイトであっても閲覧可能になりそうだ。しかし、コンテンツプロバイダーの中には、そもそもフィルタリングサービスを原則適用させること自体に反対だという声もある。そこで次回は、コンテンツプロバイダーに対して行ったアンケートの結果を見ながら、この問題が抱える課題を見ていくこととする。

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