しかしこの競争でどこが勝者になろうと、失われるのは匿名性である。この種の認証方法を採用するサイトでは、ユーザーは他人に嫌がらせをしたり、子どもじみたコメントを残したりするための、使い捨てのユーザー名やパスワードを作ることができなくなる。オンライン上でも利用者は利用者自身であり、現実の公共の場で出会ったときと同じ基準に従い行動することになる。
MySpaceがサポートを約束した理想主義的な計画「OpenID」については、GoogleやMicrosoft、Yahooといった企業のみならず、米国のObama次期大統領も歓迎している。IDが統一されることにより、インターネット上のいたるところで一式の信用証明書を使用でき、数百件ものサイトにアクセスすることができる。一般のコンピュータユーザーがOpenIDの専門的な側面を知らなくとも、その心理的な影響は次第に現れてくるだろう。
技術的なことが分からない人でも、自分は多数のサイトにわたって一式の信用証明書と1つのユーザー名を使用する、1人の人間であるというコンセプトに触れれば、自分たちの行動が追跡可能となり、それが真実であるかどうかにかわりなく、これまでのように匿名の存在ではなくなるのではないかと考え始めるはずだ。
最後にGoogleだが、われわれは同社が「新しい支配者」であるというジョークを紹介してきた。現実には、気の利いたテーマの無料ウェブメールやさくさく動くウェブ検索サービス、無料の分析ツールなどと交換する形で、人々は自分のアイデンティティを大量にGoogleに送ってきた。先週末にAllen Stern氏が述べたように、「 Googleは私の居場所も、何をやっているかもすべて知っている」のだ(この「ウサギの穴」の奥まで知りたいなら、「Google’s User Data Empire」を詳細に見ることをお勧めする)。
George Orwellが著書の「1984年」で描いた恐るべき未来像はとっくに超えてしまった。テレビ画面からわれわれを見つめる「ビッグブラザー」など問題ではない。自分たちは信頼に値する企業だと約束するだけの株式公開企業に、個人データやアイデンティティを盲目的に喜んで差し出すような世界になったのだ。また、H.G. Wellsの「タイム・マシン」に出てくるエロイ族のように、われわれは必要とするものをすべて与えられながら、やがては地下にひそむ邪悪な種族の餌食にされるのである。
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