2021年8月25日から5週間にわたって開催されたオンラインカンファレンス「CNET Japan 不動産テック オンラインカンファレンス2021」。不動産テックのなかでも特にスマートシティをメインテーマに据え、「一歩先ゆくスマートな街・移動・暮らし」と題して、街や住まいに関わる最新の取り組みを紹介した。
最終日となる9月22日の前半のプログラムは、不動産デベロッパーである三菱地所と、同社とタッグを組んでフードトラック事業などを展開しているMellowのパネルディスカッション。新しい観点の街づくりの手法に止まらず、大企業とスタートアップが互いにどのような意識で協業していくべきなのか、という点においても興味深い内容となった。
三菱地所からは、スタートアップなど外部企業とのアライアンス構築や社内新事業提案制度「MEIC」の運営などを手がける、新事業創造部の橋本雄太氏が登壇。同氏は大手新聞社や鉄道会社などを経て2021年に三菱地所に転職したという、“レガシー”企業を渡り歩いてきた人物だ。「いわゆる大企業の中で、いかにイノベーションを起こしていけるか、そのために人や組織を変革していくことが個人的なミッション」(橋本氏)と捉えてキャリアを重ねているという。
オフィスビルの賃貸などを中心とするコマーシャル不動産事業が、現在の営業利益の7割以上を占める三菱地所。しかしながら、「ライフスタイルの多様化や社会のデジタル化が急速に進行しており、従来の不動産事業のみで成長を描くことは難しく、中長期的なビジネスモデルの革新が必要」(橋本氏)だとして、同社は“デジタル”と“オープンイノベーション”という2つの軸でビジネスモデル変革を模索しているという。働き方や暮らし方のニーズが変化する中で、従来の不動産アセットの提供に留まらず、デジタルを活用した新たなサービスやコンテンツを提供するノンアセット型の事業創出が急務というわけだ。
そのなかでも、「革新的なビジネスを生み出すスタートアップが世界中で続々と誕生しており、次の産業創出の中核になっている」(橋本氏)状況を踏まえ、三菱地所では、国内外のスタートアップとのオープンイノベーションを重視し、革新的なテクノロジーやビジネスモデルを展開するスタートアップに対する積極的な投資や業務提携、アクセラレータープログラムの運営などを通じた事業共創を進めているという。
ほかにも、同社がスマートシティ化を進めている丸の内エリアを、スタートアップが開発するサービスの社会実装の場として提供する活動や、コワーキングスペースの整備や運営を通じて、国内外の知の集積を図り、エリア・エコシステムの形成を進めている。
“スタートアップと手を携えて、次の産業を作っていく”ことにフォーカスする同氏だが、日本にはスタートアップ自体がまだまだ少ないことに課題に感じているという。とりわけスマートシティ、不動産テックの領域は、スタートアップ単体で完成できる世界観ではなく、三菱地所のようなリアルなアセットをもつ大企業とのオープンイノベーションの加速が産業化のカギになると見ている。
もう1人の登壇者であるMellow代表取締役社長の森口拓也氏は、大学在学中に創業を経験し、23歳で現在のMellowの立ち上げに参画。26歳で現職に就き、その1年後に5億円の資金調達を行うなど、自身、会社ともに急成長を遂げてきた。同社は、キッチンカーをはじめとする店舗型モビリティと、不動産の空きスペースをマッチングして、“街の豊かさ、賑わいを創出する”「SHOP STOP」というサービスを主に手がけている。
三菱地所のような不動産デベロッパーが管理するスペースに、キッチンカーを配車し、その場所で得た売り上げの一部をロイヤルティとして回収し、不動産デベロッパーに還元する、というのが大まかなビジネスの流れとなる。SHOP STOPのアプリを用いたキッチンカーの事前オーダーやデリバリーサービス、キッチンカー開業希望者向けに、車両・保険・出店場所などをワンパッケージにして定額で提供するサブスク事業なども展開している。
キッチンカーによるビジネスは競合他社も少なくない。その中で、同社の強みは「ソフトウェアを軸にした成長戦略を持ち、テクノロジー投資が非常に重要な成長ドライバーとなっている」(森口氏)こと。単独のキッチンカーだと、街の賑わいを創出するには至らないうえに、店舗事業者の都合に左右されやすく、毎日安定して出店できるとは限らない。1台当たりの販売額も大きなものにはなりにくいため、台数規模が小さいと決済システムを含め管理コストが割高になってしまう課題もある。
対してMellowは、およそ1300台という多数の店舗事業者を束ねて管理しており、1つのエリアにおいて入れ替わりで数十台を派遣するケースもある。森口氏は、「競合の多くは小規模なオーナー企業。(システムは)人力で、労働集約的にやっている」ことから、「我々のような規模になれる会社がそもそもほかにいない」と自負する。賑わいの創出はもちろん、スペースを提供している企業への信用面でも、店舗利用者に向けた“飽きない場づくり”という意味でも、Mellowには大きなアドバンテージがあると言える。
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