ニューヨークのミッドタウンにあるオフィスで、いつもかけているメガネの上からスマートグラスを装着すると、見慣れた光景が見えた。目の前に浮かんだワイドディスプレイに、スマートグラスと有線でつながれたMacのデスクトップが見える。頭を動かしてディスプレイの大きさを確認する。皮肉なことに、MacとつながっているのはApple純正のヘッドセット「Vision Pro」ではなく、XREALの「XREAL One」だ。この最新のスマートグラスは、Vision Proよりも大きなディスプレイを空間に投影して、固定できる。しかも、USB-C経由でのビデオ出力が可能であれば、ノートPCからスマートフォン、ゲーム機まで、あらゆるデバイスの映像を映し出せる。
Metaの「Orion」プロジェクトが数年以内にワイドスクリーンのARグラスを実現すると約束し、Snapがバッテリー内蔵のスマートグラス「Spectacles」で3D体験を模索するなか、手頃な価格でありながら高い性能を発揮するスマートグラスも続々と登場しつつある。例えばMetaの「Ray-Ban Metaスマートグラス」を筆頭に、オーディオとカメラを内蔵したスマートグラスにはAIアシスタントが搭載されはじめた。ディスプレイグラスの進化も著しい。XREALは長年、ディスプレイグラスを開発しているが、最新作のXREAL Oneはディスプレイ周りの機能が強化され、未来のARグラスを予感させる一本となっている。
例えば、PCと接続したときのワイドスクリーンモードは非常に良い。実際、この記事はこの機能を使って、自宅の「MacBook」を空間に投影して書いたものだ。やや湾曲したバーチャルモニターに、開いているすべてのウィンドウが表示される。視野は全体を見渡せるほどには広くなかったが、AppleのVision Proや特別なソフトウェアを使わなくても、見たいウィンドウに焦点を合わせたまま、頭を動かして他のウィンドウを眺めることができた。
仕組みを説明しよう。XREAL One(日本では12月11日から予約受付中)と「XREAL One Pro」(日本での販売については不明)には、XREALが独自に設計したチップ「XREAL X1」が搭載されており、これによって画像を空間に固定したまま頭を動かせるようになった。Boseとの提携により、どちらのモデルでもオーディオが強化された。視野角は50度(Proの場合は57度)。米国では、別売のAI対応カメラも装着できる。XREAL Oneは、XREALが過去に開発したどのスマートグラスよりも高性能のようだ。
この1年間、筆者はVRヘッドセットを仕事に積極的に活用してきた。環境音、画角の広いカメラ、XREALなどの場合はディスプレイの携帯性など、スマートグラスを使う理由はさまざまだ。しかし実際に使ってみると、ディスプレイグラスはVRヘッドセットには及ばないとも感じた。視野が狭く、ディスプレイが目に「接着」され、視線を動かすと画面も一緒に動いてしまうからだ。VRヘッドセットの場合は画面を空間に固定できるので、頭を動かしてもディスプレイが自分と一緒に動いているとは感じない。
そのため、仕事用にバーチャルモニターを使うときはVision Proを使うことが多かったが、XREAL Oneであれば、同じことができる。使用感も快適で、XREAL Oneだけでもいいかもしれないと思うほどだ(視力矯正用のインサートが手に入れば、本当にそうするかもしれない)。
スマートグラスが接続できるデバイスはどんどん増えており、XREALのディスプレイグラスも徐々に進化している。しかしXREALの創業者で最高経営責任者(CEO)のChi Xu氏と最近の新製品や今後の方向性について話を聞いたところ、同社のシンプルなディスプレイグラスは今後「スマート化」していく計画であることが分かった。具体的には、AIの導入、ディスプレイのカスタマイズ性能の強化、そして独自開発チップの搭載だ。これは幅広いデバイスとの連携に向けた最初の一歩となるかもしれない。
「XREAL Oneは、(ビデオシースルー)体験の80%を実現しつつ、価格や重さなどの面ではコストを20%に抑えた」とChi氏は米CNETの独占インタビューで語った。「特に大きなブレークスルーとなったのが新チップの搭載だ。この種の汎用的な(3軸の自由度)機能をあらゆるホスティングデバイスで実現する方法はないか考えたが、既存のソリューションはなかったため、ゼロから作りあげる必要があった」
XREAL Oneを初めて装着したときは、過去のモデルとあまり変わらない気がした。iPhoneにつないだときも、何か新しいことが始まったようには感じられなかった。目の前に映し出された「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」の巨大な映像も既視感があった。「Steam Deck」に接続したときは、美麗な大画面でゲームをプレイできた。ノートPCに接続すると、湾曲したモニターが周囲に広がった。どれも2024年にVR空間や、XREALの旧型ディスプレイグラスと「画面のないノートPC」のコンセプト機をつないで試したものによく似ていた。
しかし決定的に違うのは、このすべてをXREAL Oneは単体で実現できるということだ。しかも、画質や操作感もこれまでで一番いい。価格もXREAL Oneが499ドル(日本では税込6万9980円)、XREAL One Proが599ドル(約9万1000円)だ。時々、ARグラスや携帯型のMRゴーグルをつけている気分になる。XREALのスマートグラスはARに対応しているが、現在は幅広いデバイスと接続できる優秀な携帯用ディスプレイとして人気を集めており、機能は向上し続けている。
マイクロOLEDディスプレイの視野角も広がり、XREAL Oneは50度(Proは57度)、解像度は1080p、リフレッシュレートは120Hz、輝度は600ニト(Proは700ニト)だ。Boseとの提携で音質も向上した。しかし、目立たないが何よりも重要な進化は、ディスプレイをユーザーの動きに合わせて少しずつ移動させたり、特定の場所に固定したりすることが可能になったことだ。これまでは「Beam」や「Beam Pro」のような周辺機器を使わなければディスプレイを固定できなかったが、XREAL Oneでは単体で可能になり、しかもPCからMac、Steam Deck、タブレット、スマートフォンまで、あらゆるデバイスに対応した。
デバイス上でカスタマイズできる設定の幅も広がった。例えばポップアップメニューで仮想ディスプレイのサイズやディスプレイとの仮想距離(4〜10m)を調整したり、PCやMacと接続した際はウルトラワイドモードに切り替えたりできるようになった。設定を変えたいときはメニューを開いて、ボタンや音量調節ボタンを使って行う。画面の明るさは「XREAL Air 2 Pro」と同様に3段階から選択できる。メニューをいじっていると、まるでXREAL Oneが顔につけるスマートテレビのように思えてくる。
XREAL Oneの視野角は、依然としてMetaのスマートグラス「Orion」の試作機(視野角70度)に及ばない。VRヘッドセットの一般的な視野角(90度以上)よりも狭い。しかしChi氏によれば、この点は改良を進めており、理想的な視野角を実現できていないことは認識しているという
「近い将来に視野角は70度、最終的には80度を超えるはずだ」とChi氏は予想する。「今後2、3年の間に実現できると思う。特に空間コンピューティングに関しては、視野角は最低でも70度はなければ本格的な体験は得られない。しかし空間ディスプレイ用グラスとしては、視野角50度、57度はかなりいい方だ」
XREAL Oneは、引き続き角度のついたプリズムのような「バードバス」方式のレンズを採用している。このレンズのおかげで、ディスプレイを現実の世界に浮かび上がらせることができるが、グラス自体の厚みも増す。XREAL One Proの場合はもう少し薄いが、それでもインナーフレームから飛び出していることに変わりはない。普通のメガネやRay-Ban Metaに比べると、顔に装着したときの「でっぱり感」はぬぐえない。「一般的なメガネを置き換えるレベルのものが登場するのは、あと5年から10年先だろう」とChi氏は言う。「しかし、常に持ち歩けるサングラスタイプのデバイスを今すぐに欲しいなら、XREAL Oneはかなり良い選択肢になるはずだ」
XREAL OneとXREAL One Proにカメラは内蔵されていないが、米国では別売で小型の単眼カメラが用意されており、鼻の「ブリッジ」部分に外向きに取り付けるようになっている。このカメラは、将来のAI連携のために用意されているものだ(MetaのRay-BanやSnapの開発者向けARグラスSpectaclesに組み込まれているOpenAIの機能をイメージしてほしい)。
最近、市場ではカメラ駆動型のAIが話題を集めており、AppleやGoogleはすでにスマートフォンでの実験を始めている。Chi氏によれば、AIはXREALの将来計画にも大きく関わっているという。
「AIはARグラスを補完する重要な存在となるだろう」とChi氏は語る。「AIを活用することで、ARグラスのインターフェースを大幅に効率化できる。また(今から)5年後、10年後を見据えると、ARグラスはAIの普及を促進する最良のプラットフォームとなるはずだ。AIがユーザーの見ている世界を認識し、フィードバックを得るようになる」
XREALの初期の製品「NREAL Light」は、「Magic Leap 1」がARのコンセプトを打ち出して話題を集めた時代に携帯型ARグラスとして設計されたものだ。NREAL Lightは3D映像を投影し、内蔵カメラで室内の動きを追跡できた。その後、XREALはより実用的な領域にシフトし、主にスマートディスプレイに注力するようになった。しかし、こうしたスマートグラス、特にXREAL Oneには今後、AR的な機能が少しずつ追加されていくはずだ。その兆候は、すでにはっきりと現れ始めている。
そのためには新しい入力方法を考える必要がある。AppleのVision Pro、MetaのQuestシリーズ、SnapのSpectacles、MetaのOrion(試作機)など、他のMR・ARグラスはどれもハンドトラッキング機能を備えている。Vision ProとOrionにはさらにアイトラッキング機能もあり、Orionに至っては独自のEMG(筋電位)リストバンドを使って、神経入力センサーによるハンドジェスチャーでの入力も可能だ。しかしXREAL Oneにはまだ入力機能がない。
XREALはさまざまな方法を検討しているが、Chi氏はどの入力方法もまだ完璧ではないという。「2Dから3Dでの操作に移行しつつあるが、それに伴って複雑さも増している」とChi氏は語る。「むしろ、効率は下がっている。目標は、多様な入力ツールを開発することではなく、より直感的で効率的だと感じられるシステムを開発することだ。まだ良い方法を模索している段階だが、我々はこの難問に単独で取り組んでいるわけではない。さまざまなパートナーと協力しながら進めている。近い将来、これはと思える答えに到達できるはずだ」
とはいえChi氏はこれが長い道のりになることも理解している。今のところ、XREALのスマートグラスは短時間の利用を想定しており、ワイヤレスでもない。Metaが2024年に発表した非常に高額だが薄型レンズを採用した試作機Orionや、Snapが開発者向けに提供している実験的なARグラス、Spectaclesと異なり、XREAL Oneはすでに実用化されている。しかし今後はバージョンアップを重ねながら、段階的にARグラスに進化していくのかもしれない。XREALによれば、この長期的な移行の鍵を握っているのが独自開発の新チップであるX1だ。
「これは非常に重要な転換点だ。今後はグラス本体でさまざまな処理をこなせるようになる」とChi氏は言う。「現在は(3自由度のトラッキング)モーションが可能だが、今後は(6自由度のトラッキングに加えて)ハンドジェスチャーにも対応し、さらにAI機能もこのチップ上で実行できるようになるかもしれない。最終的にケーブルは不要になる。それがポイントだ」
その日が来るまでは、XREAL OneとXREAL One Proが現時点での最新版として活躍するだろう。確かにケーブルは必要だが、筆者が所有しているあらゆるデバイスと接続できる。筆者は、XREAL Oneを優秀な携帯型ディスプレイとして、すでに仕事にも活用しており、どこにでも持ち運びたいと思えるだけの実用性を感じている。ARグラスはまだ発展途上であることを考えれば、これは決して小さいことではないはずだ。
XREAL One(公式)この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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