新たな携帯番号「060」追加へ、少子化で人口も減るのになぜ?--使える番号の残りは(石川温)

 総務省は10月2日、携帯電話の電話番号として新たに「060」で始まる11桁を割り当てると発表した。

「060」で始まる11桁の割り当てを発表 「060」で始まる11桁の割り当てを発表
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 現在、音声通話ができる携帯電話には「090」「080」「070」で始まる番号が割り当てられており、容量としては2億7000万個が使えることになっている。しかし、070番号で残っているのは530万個しかなく、今後、足りなくなる恐れが出てきたのだ。

 今回、「060」を追加すると総数は3億6000万個に拡大されるため、一気に余裕が出てくるというわけだ。

これまでの推移と、070で新規に割り当て可能な番号の残数 これまでの推移と、070で新規に割り当て可能な番号の残数
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 しかし、そもそも、今の日本は「少子高齢化」が叫ばれており、人口は減少傾向にある。IoTとして機械に通信機器をつけるようなソリューションが増えているが、IoT向けのデータ通信専用の通信には全く別の番号を割り当てることが可能なため、「090」「080」「070」が足りなくなるという理由にはならない。

 なぜ、総務省は焦って「060」の追加を決めたのだろうか。

人口を遥かに超える2億7000万番号でも足りない背景

 ひとつにはここ最近、「携帯電話回線を使った固定電話サービス」が増えつつあるということがある。このサービスでは固定電話として使うのだが、携帯電話番号も割り当てるため、どうしても携帯電話番号が必要になるというわけだ。

 また、最近では店舗や事務所など固定電話をひかずに携帯電話を代表番号とするところも増えつつある。さらに企業では内線電話を置かずに、社員に携帯電話を持たせることで、内線電話の代わりのように使うようになってきた。

 一人のユーザーが「プライベート用と仕事用」という「2回線持ち」が増えてくる中、人口を遥かに超える「2億7000万個の番号」でも足りなくなりつつあるというわけだ。

 各キャリアにとって「契約者数のさらなる増加」は経営課題であることは間違いない。

 特に第4のキャリアとして新規参入した楽天にとってはグループ全体の足を引っ張っているモバイル事業の黒字化がマストであるため、なんとしてでも新規契約で回線数をできるだけ増やしたいと闘志に燃えている。

 実際、楽天モバイルが黒字化をするには契約数は800万から1000万回線、一人あたりの通信料収入は2500〜3000円を達成しなければならないとされている。

 契約者数は9月12日現在、785万契約と、目標数をクリアしそうな勢いだ。

 今後、楽天モバイルが黒字化するだけでなく、安定的な経営に移行できるようになるには、さらなる回線数が必要だ。このままの勢いが続けば「070の530万個じゃ足りない」なんてこともあり得るため、総務省としては060の割り当てを急いだのだろう。

楽天モバイル
楽天モバイル

 通常、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクやMVNOなどを契約しているユーザーが、自分が所有している携帯電話番号を持って、MNPで楽天モバイルに移行するという人が多ければ、新たに「060」という携帯電話番号付与は必要ないのかも知れない。

 ただ、ソフトバンクの宮川潤一社長は「(楽天モバイルの純増は)当社に影響があるかといえばほとんどない。楽天モバイルの純増数がどこから湧いてでているのか、僕からは見えていないマーケットがあるのかも知れない」と語っていた。つまり、MNPで他社から楽天モバイルに移行するというよりも、新たに楽天モバイルを契約する人が多いというわけで、やはり「いずれ電話番号が足りなくなる」という事態を招きそうなのだ。

ソフトバンクで代表取締役社長執行役員兼CEOを務める宮川潤一氏
ソフトバンクで代表取締役社長執行役員兼CEOを務める宮川潤一氏

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「副回線」需要の掘り起こしも呼び水に

 もうひとつ、携帯電話番号が足りなくなりそうになる背景にあるのが「副回線需要の掘り起こし」だ。

 

 2022年にKDDIが大規模な通信障害を起こしたあと、いざと言う時にも通信や通話ができるようにするため、各社で「副回線サービス」というのが立ち上がった。

 スマートフォンのなかに、例えば、KDDIとNTTドコモという2つの回線を入れておくことで、どちらかの回線が通信障害でダウンしてしまっても、もう1回線で音声通話や通信が使えるようにしておくというものだ。

 一方、総務省では大規模通信障害に備えて、ローミングを提供できるよう、各キャリアと準備を進めている。例えば、KDDIが大規模通信障害を起こし、通信ができなくなった場合、ユーザーはNTTドコモやソフトバンクなど別のネットワークに「ローミング」として接続できれば、通信や通話が使い続けられるというものだ。

 ただ、このローミングに対して、あるキャリアの幹部は「技術的なハードルが高く、また設備投資がかさむので、正直言ってやりたくない。副回線サービスを積極的に展開する方が現実的だ」と本音を漏らした。

 副回線サービスを契約してくれれば、月々数百円とわずかばかりではあるが、毎月、通信料収入が見込める。キャリアとしてはローミングよりも副回線サービスのほうが売りたいわけで、今後、副回線サービスが一般的になっていけば、当然、携帯電話番号は足りなくなるというわけだ。

 また、これとは別に「データ容量が足りないときの副回線」という需要を掘り起こそうとしているのがKDDIが提供する「povo」だ。

 KDDIは三菱商事と共にコンビニ大手「ローソン」の経営に参加したが、今後、ローソン店内で「povo」を積極的に販売するようになっていく。ローソンでpovoのカードを購入すれば、その場でeSIMが発行されて、データ通信が利用可能となる。この際、本人確認は不要で、しかも、現金をレジで支払えばデータ容量のチャージができてしまう。

 povoとしては、月末にデータ容量が足りなくなってしまった、クレジットカードを持てない学生などをターゲットにしている。

ローソンに来店でpovoのデータ容量が回復する取り組みも ローソンに来店でpovoのデータ容量が回復する取り組みも
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 メイン回線は親に支払ってもらっているが、データ容量がなくなれば、自分のお小遣いからpovoに現金チャージで、データ容量を追加する。こうした使い方をする人が増えてくれば、「1人で2回線」が当たり前となり、やはり携帯電話番号が足りなくなってくるというわけだ。

 060の追加はまさに「1人で2回線」時代が本格化する前の準備といえそうだ。

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