携帯4社とそのグループの決算が出揃った。ネットワークとサービスの両面で競合に出遅れるNTTドコモは社長交代で挽回を図る一方、KDDIとソフトバンクは事業自体は好調ながら、想定外の国際問題に悩まされている様子だ。楽天モバイルもようやく黒字化の兆しが見えてきたが、売り上げを増やすにはまだ課題が少なからずある。携帯4社の決算を改めて振り返ってみよう。
まずは各社の決算を振り返ると、携帯大手3社はいずれも通期決算となり、NTTドコモの2023年度通期決算は売上高が前年度比1.3%増の6兆1400億円、営業利益が前年度比4.6%増の1兆1444億円と増収増益を達成している。だが他の2社は、いずれも減益の決算となっている。
実際にKDDIの2024年度決算は、売上高が前年度比1.5%増の5兆7540億円、営業利益が前年度比10.7%減の9616億円。ソフトバンクの2024年3月期決算は、売上高が前年度比2.9%増の6兆840億円、営業利益が前年度比17.4%減の8760億円と、軒並み2桁の大幅減益を記録している。
両社ともに事業自体は好調なのだが、各社固有の問題が業績の足を引っ張ったようだ。KDDIの場合は住友商事と合弁企業を設立し、ミャンマー国営郵便・電気通信事業体(MPT)と共同で事業展開している携帯電話事業が大きな影響を受けている。
その理由は、ミャンマーが2021年のクーデターで軍事政権となったことで、国営のMPTの事業に大きな影響が出ているため。今回の決算ではMPTに対するドル建てリース債権の回収に遅れが生じ、合弁会社で1050億円の貸倒引当金を計上したことが、大幅減益へとつながり中期経営戦略の期間を1年延長するに至った。
KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、ミャンマーでの事業は継続する意向を示すとともに債権回収にも意欲を見せるが、大きな成長を見込んでいたミャンマーでの事業が非常に難しいものとなってしまったことも確かだ。それだけに高橋氏は、政情が不安定になりやすい新興国への投資は「なかなかやっぱり難しい」とも話している。
一方のソフトバンクは、前年度にPayPayを子会社化したことで2948億円の再測定益が発生したことから、その影響がなくなった今期は減益になったとのこと。PayPayの影響を除けば14%の増益となるなど事業は順調だというが、同社にはそれとは異なる新たな問題が発生している。
それは子会社のLINEヤフーが相次いで起こしている個人情報漏洩問題だ。一連の問題を受けてLINEヤフーは総務省から行政指導を何度か受けているのだが、総務省は情報漏洩の主因が韓国ネイバーとLINEヤフーとの主従関係にあるとし、セキュリティガバナンス確保のため資本関係も含めたネイバーとの関係見直しを求めている。
LINEヤフーは現在、ソフトバンクとネイバーが株式を50%持ち合っており、双方が対等な立場で親会社となっている。しかしそれだけに、資本を1%でも減らせばネイバーが経営の主導権を失ってしまう。そうしたことから一連の総務省の対応が、韓国企業から経営権を奪うものだとして韓国政府内から遺憾の意を表明する動きが出てくるなど、韓国内で大きな反発が起きているようだ。
それゆえソフトバンクはある意味、LINEヤフーを巡ってネイバーとの関係見直しを求める日本政府と、資本見直しに反発する韓国の政府や世論との板挟みという、非常に難しい立場に立たされたともいえる。同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、LINEヤフーからの強い要請を受けてネイバーと資本関係の見直しに関する議論を進めているというが、「まとまることも非常に難易度が高い」とも話しており、自体の解決は長期化の様相を呈している。
では、増収増益のドコモは好調なのかというとそうとは言い難く、事業面では競合他社に対する出遅れが目立つ。
主力の通信事業に関して言えば、2023年に大きな問題となった通信品質の急低下で、これまでに一定の策を講じて解決は進めてきたものの、今なお同社のネットワークに対する不満の声が少なからず挙がっており、品質面で競合に差を付けられているのが実情だ。
また、政府の携帯電話料金引き下げ要請の影響を長らく受けてきたモバイル通信のARPUに関しても、競合2社が2023年にほぼ回復、反転の様相を見せているのに対し、ドコモだけは回復が遅れている。同社の代表取締役社長である井伊基之氏によると、その理由は2023年に提供開始した低価格の料金プラン「irumo」が非常に好調なことにあるという。
井伊氏は、irumoの提供は顧客基盤の獲得につながっており、今後他のサービスを利用してもらうことなどで売り上げが増える機会を増やしていきたいとしている。ただその影響もあってARPUは「数十円下げるのがあと1、2年くらい続く」としており、回復にはまだ時間がかかるとの認識を示していた。
もう1つ、ドコモの出遅れが目立っているのがいわゆる「経済圏ビジネス」である。楽天モバイルを有する楽天グループをはじめとして、携帯各社は複数の自社サービスで顧客を囲い込む経済圏ビジネスに力を入れているが、ドコモはこの分野でも出遅れ感が目立つ。
それだけに同社は2023年のマネックス証券に続いて、2024年にはオリックス・クレジットを子会社化するなど金融事業を相次いで強化。さらに2024年4月にはアマゾンジャパンとの協業により、「Amazon.co.jp」で「dポイント」がたまる・使える施策を打ち出すなど、やはり従来の弱みだったEコマースの分野をカバーし、急ピッチで経済圏ビジネスの強化を進めている様子を見せている。
そして両事業の今後を見据えた場合、より大きな動きとなるのが社長交代であろう。同社は今回の決算に合わせる形で、日本電信電話(NTT)による完全子会社化以降社長を務めてきた井伊氏に代わって、新たに代表取締役副社長の前田義晃が、代表取締役社長に就任する予定であることが明らかにされたのだ。
そして前田氏の社長就任は、従来のドコモ、ひいてはNTTグループ全体で見ても、相当異例の人事となる。NTTグループの主要企業の社長にはNTT生え抜きの社員が就任するというのが通例だったが、前田氏はリクルートからドコモに転職した経歴を持つ人物で、年齢も54歳とかなり若い。
その前田氏が社長に就任する狙いは、やはりスマートライフ事業、ひいては出遅れが目立つ経済圏ビジネスの強化であることに間違いない。前田氏はNTTの完全子会社化となって以降、主としてスマートライフ関連を担当していただけに、前田氏を社長に起用することで、今後の成長事業の1つとなる経済圏ビジネスの一層の強化が進められるものと考えられる。
一方で、現在も大きな課題が残るが市場飽和と政府の料金引き下げ要請で成長が見込めなくなったモバイル通信事業に対し、前田氏がどのような取り組みを見せるのかは大きな関心を呼ぶ所かもしれない。
前田氏は「NTTドコモのサービスを使う際に感じる要望や不満を常に真摯に受け止め、速やかにこたえる」ことで顧客体験価値の向上に取り組むとしており、通信品質への不満もその一例として挙げていた。それだけにモバイル通信の品質に対する課題を認識していることは間違いないが、成長が見込めなくなったモバイル通信にどのような戦略を持って挑もうとしているのか、今後の手腕が大きく問われる所だろう。
最後に楽天モバイルを有する楽天グループだが、同社の2024年12月期第1四半期決算は売上高が前年同期比8%増の5136億円、営業損益は333億円と、楽天モバイルへの先行投資の影響によって引き続きの赤字決算となっている。
ただ、その楽天モバイルのNon-GAAP営業損失は前年同期比で307億円改善した一方、売上収益は前年同期比3.6%増の998億円と、回復傾向にある。ローミングの継続などによる投資コストの大幅な削減が進んでいるのに加え、契約数の拡大が売上増に影響しているようだ。
とりわけ楽天モバイルの事業を考える上で、今後重要になってくるのは契約数の伸びである。楽天モバイルはこれまで、法人契約に力を入れることで契約数を伸ばしてきたが、2025年に入ってからはコンシューマー向けのテコ入れも実施。「最強家族プログラム」「最強青春プログラム」など、割引施策を相次いで実施したことなどが功を奏し、契約数も5月13日時点で680万に拡大している。
また楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏は、契約数の伸びに加えて、MVNOやBCP向け回線を除いた調整後の解約率が、1.27%と大幅に改善していることも、契約数の伸びに大きく貢献していると話す。
三木谷氏は解約率が低減している理由について、1つに複数回線の契約契約を前提とした割引施策が効果を発揮していること、2つ目に楽天グループのサービスとのシナジーが効果を発揮してきていること、そして3つ目に、KDDIとの新たなローミング契約の締結などによるネットワーク品質の向上を挙げている。
そうしたことから三木谷氏は、2024年中に楽天モバイルのEBITDAを単月黒字化させることを目指すと説明。ようやく念願の黒字化に目途を付けつつあるようだ。だがその実現に向けてはまだ課題が残されており、中でもARPUは非常に大きな課題となってくるだろう。
楽天モバイルは2024年3月時点でのARPUを2024円としているが、それを目標とする2500~3000円に上げるというのは非常にハードルが高い。ARPUが低い傾向にある法人契約が増えているのに加え、楽天モバイルの料金プラン「Rakuten最強プラン」の料金上限が3278円で、なおかつ一連の割引施策を適用するとさらに料金が下がるだけに、ARPUを大幅に上げる要因が見いだせないのが実情だ。
三木谷氏はARPUの向上策に関して、付加価値の高いサービスを提供すると共に「Rakuten Link」での広告展開、さらにデータとAI技術の活用などによって実質的なARPUを引き上げることなど複数の要素を挙げている。だがこのことは、裏を返すとARPUを大幅に伸ばす決定的な策がまだ見いだせていないともいえ、より具体的な戦略が求められる所でもある。
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