携帯4社とそのグループの決算が出揃った。政府主導の料金引き下げ要請による影響を克服し業績回復に向かうと見られていたが、2024年1月に発生した能登半島地震、そして各社を取り巻く状況と戦略の違いが影響して明暗が出ているようだ。携帯4社の決算を改めて振り返ってみよう。
まずは各社の決算を確認すると、NTTドコモの2023年度第3四半期決算は売上高が前年同期比2.1%増の4兆5188億円、営業利益が1.5%増の9022億円。KDDIの2024年3月期第3四半期決算は売上高が前年同期比2.0%増の4兆2655億円、営業利益が前年同期比0.4%増の8479億円と、いずれも増収増益となっている。
その一方で、ソフトバンクの2024年3月期第3四半期決算は売上高が前年同期比3.8%増の4兆5116億円、営業利益が前年同期比25%減の7319億円と、前四半期から一転して減益に転じている。
また、楽天モバイルの親会社である楽天グループは通期決算となるが、2023年12月期決算は売上高が前年度比7.8%増の2兆713億円、営業損益が2128億円と、依然赤字となっている。
とはいえ、2社も業績が悪い訳ではない。ソフトバンクが減収となったのは、前年同期にPayPayを子会社化し再測定益が発生していたためであり、その影響を除けば事業自体は好調で通期業績の上方修正も発表している。
また、楽天グループも、赤字ではある営業損益が3716億円だった前年度と比べれば赤字の幅自体は減少している。特に楽天モバイルの損益は1078億円から712億円と3割以上減少しており、コスト削減が功を奏している様子がうかがえる。
事情が異なる部分が多い楽天モバイルを除いた大手3社の業績を見る上で重要なポイントは、やはり政府主導による料金引き下げ影響から、主力のモバイル通信事業がどの程度回復したのか? という点だ。これまで順調な回復を見せてきた3社だが、今四半期ではその傾向にやや変化が見られるようになってきた。
KDDIとソフトバンクは、ともに順調な回復を見せている。実際にKDDIは通信ARPU収入が1~3月期の累計で前年とほぼ同水準、第4四半期には増収を見込むとしているし、ソフトバンクは四半期ベースのモバイル売上高が、今四半期では前年同期比で増収に反転、やはり通期での反転を見込むとしている。
その一方でNTTドコモは、モバイル通信サービス収入が前年同期比で395億円減となっているほか、ARPUも微減傾向にある。その理由についてNTTドコモの親会社であるNTTの代表取締役社長である島田明氏は、「有難い話だが、『irumo』が結構売れている。セカンドブランドではないが、それ相当のブランドをドコモが出したことが遅れて出てきている」と説明。低価格のirumoに移行するユーザーが増えていることが、売り上げの減少要因となっているようだ。
島田氏は「それ(irumoの影響)が一定程度あって、その後反転するという認識」と話しているが、他社がサブブランド戦略を取ったのはかなり以前のことだけに、2023年からirumoを提供したドコモがその影響を受ける時期はかなり長きにわたる可能性が考えられる。その一方で島田氏は、番号ポータビリティによる転入の成績が良くない様子も示しており、irumoが他社から顧客を奪う武器にもなっていない点も非常に気になる。
加えてドコモは、2023年に発生した通信品質の急激な低下という大きな問題も抱えている。この問題はドコモも対策を進め、大幅な改善を図っている。島田氏も、通信品質を理由にNTTドコモを解約した人は「あまりいないんじゃないかと思っている」と答えている。ただ、一連の対策でもなお「通信速度が遅い」といった声は時折聞かれ、通信品質の面で競合に出遅れている印象は否めない。
その通信品質を巡ってドコモにとってさらなる悪材料となりそうなのが、3.7GHz帯の電波干渉問題が解決に向かいつつあることだ。5G向けとして携帯4社に免許が割り当てられている3.7GHz帯は、帯域幅が広く高速大容量通信に適している一方、衛星通信との電波干渉があるため首都圏をはじめいくつかの地域で電波出力を思うように上げられず、長きにわたって有効活用が難しい状況にあった。
だが衛星通信事業者側が、衛星通信を受ける地球局を移設するなどしてその問題解消を進め、2024年度には最後に残った首都圏の電波干渉問題も緩和に向かうとされている。KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、電波干渉の問題解消後に3.7GHz帯の出力を強化し、さらに業界最多となる3.7GHz帯の基地局を設置して高速大容量通信が可能なエリアを大幅に拡大する考えを示す。またそれに伴い、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローン(SA)運用の展開も本格化するとしている。
一方ドコモは、元々3.7GHz帯だけでなく、衛星通信との干渉影響が少ない4.5GHz帯の免許も割り当てられており、4.5GHz帯を積極活用して5Gエリアを整備し「瞬速5G」を打ち出すなど、優位性を前面にアピールしてきた。だがその4.5GHz帯の整備が地権者との交渉に苦慮して思うように進められず、通信品質が大幅に低下。その間に3.7GHz帯の干渉を巡る問題が解消し、4.5GHz帯を持つ優位性が失われつつあるのだ。
それだけに、4.5GHz帯の確保で得ていたはずの優位性をうまく活用できなかったことは、ドコモにとって大きな痛手だといえる。現時点で解約が大きく増えている訳ではないとはいえ、他社より品質が悪い状況が続けば徐々に影響が出てくるだけに、通信品質問題はドコモの業績にも今後大きく影響してくる可能性がありそうだ。
金融や法人事業など、成長領域とされる通信以外の事業に関しても各社引き続き力を入れている。しかし、ここでもドコモの出遅れ感は目立っている。特に出遅れ感があるのはやはり金融事業であり、KDDIの「auマネ得プラン」やソフトバンクの「ペイトク」など、系列の金融・決済サービスと密接に連携した料金プランが好調な様子を見せる一方、ドコモは追随できていない。
その理由について島田氏は、NTTグループの方針として自社系列に金融サービスを持ち強固に連携するのではなく、オープンな姿勢で幅広い金融事業者と連携したサービスに力を入れていたことを挙げている。だが顧客の側が、ある意味系列の金融サービスに“縛られる”ことで得られるお得さを重視するようになったことで、同社も方針を転換するに至ったとのこと。
その成果の1つがマネックス証券の子会社化だが、島田氏は「まだまだ全然足りない」と回答。2024年度には金融サービスの面でも他社をキャッチアップしていくとしており、次の一手が注目される所だ。
そしてもう1つ、通信以外の事業で大きな動きを見せたのがKDDIである。同社は決算発表後の2024年2月6日に、コンビニエンスストア大手であるローソンの株式を公開買付けで取得し三菱商事と共同経営すると発表した。
この動きを競合各社はどう見ているのか。ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、「なかなか思い切った判断をしたと驚いている」と評価する一方で、「僕がやりたいのと思いは違うと感じている」と、対抗してコンビニエンスストアの直接経営に乗り出す考えはないとしている。
島田氏も同様に、「同じような戦略を取るかというと、そのつもりはない」と回答しており、やはりコンビニエンスストアへの参入には否定的だ。KDDIはデジタル・通信技術を組み合わせリモート接客などを実現する次世代のコンビニエンスストアを実現し、その海外輸出を目指すとしていたが、流通小売業へのデジタル技術の導入は資本提携をしなくても実現は可能なだけに、他社はオープンな姿勢でそうした取り組みを進めていきたい考えのようだ。
それだけ異色な取り組みともいえるKDDIのローソン経営参画なだけに、この取り組みが業績拡大に結びつくかという点は、今後大いに関心を集めることは間違いない。公開買付け後に出てくるであろう、KDDIの次の一手が待たれる。
そしてもう1つ、今回の決算のタイミングで外すことができない動きとなるのが、2024年1月1日に発生した能登半島地震だ。今回の決算説明会でも各社は能登半島地震発生後の被災地の復旧対策を説明。各社ともに道路が寸断している一部エリアを除いて移動基地局などの活用による仮復旧を完了しており、道路や電力といったインフラの回復とともに本格復旧を進めていく方針のようだ。
一方で、能登半島地震の被害額についても各社は言及。まだ全体像は見えていないが現時点での概算でKDDIは数十億円、ソフトバンクは20億円程度とする一方、NTTはグループ全体で100億円程度を見込むとしている。NTTの桁数が大きい理由として、島田氏は「固定系(ネットワーク)の方が復旧に費用がかかる」と答えており、石川県を管轄するNTT西日本の光ファイバー網の復旧コストが大きいとしている。
そして、その光ファイバー網を巡ってくすぶり続けているのがNTT法の見直し議論である。NTT法に関しては2024年に入って以降、総務省で見直しに向けた具体的な議論が進められているが、NTTの競合となる3社は今回の決算説明会でも改めてNTT法の廃止に明確に反対する姿勢を示し、溝の深さを浮き彫りにしている。
実際に楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、NTTグループの光ファイバー網を公平な条件で利用できることを有形無形で担保しているのがNTT法であると説明。それゆえNTT法が「通信業界の憲法」であると三木谷氏は話し、廃止されることの問題点を訴えるとともに、政府与党の自民党内に閉じた議論ではなく、国民レベルで議論を進めるべきとしている。
また宮川氏は、経済産業省がIOWNの半導体に関する研究開発に450億円を出資すると発表したことを受け、「半導体は好不況の波が激しい業界。(半導体事業が)ダメになったときに、国民に対して光ファイバーの値段を10%値上げするという決着があれば、それはやってはいけないこと」と、具体的な例を挙げその影響に懸念を示している。宮川氏はNTTが主導しているIOWNの技術自体は高く評価する一方、「NTTが腹を割って議論できる相手かどうか、最近曇り空になってきた」と、NTT法廃止を望むNTTに強い不信感を抱いている様子を見せている。
NTT法を巡る議論は今後本格化していくと見られるが、NTTと競合側の溝は依然非常に深く、議論がどのような形で決着するのか見通すのは難しい。将来的にはその影響が4社にも直接現れると考えられるだけに、2024年もNTT法を巡る動きは大きな注目ポイントの1つとなることは間違いなさそうだ。
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