VRIコラム

テクノロジーの進化と人間の性

上床 光信(角川アスキー総合研究所)2024年03月06日 08時30分

 20年後の私たちの生活はどうなっているのでしょうか?

 移り変わりが激しいビジネスの世界では、3年後を的確に予想するのも容易ではありません。20年後というのは、3歳の子どもがいる方はその子どもさんが23歳になっている世界です。イメージしやすいように20年前を振り返ってみましょう。

20年前と今は大きく変わっている点がある

 2004年の2月にマーク・ザッカーバーグ氏が「Facebook」をスタートさせました。イーロン・マスク氏はPayPalで作った資金で2002年にスペースXを立ち上げ、2004年にはテスラの会長に就任しています。「ニンテンドーDS」が発売されたのも2004年です。

 一方で、チャド・ハーリー氏ら3人が「YouTube」の着想にたどり着くのは翌年の2005年。Appleの「iPhone」の登場も2007年まで待つ必要があります。

 つまり、現在のスマホ決済を中心としたキャッシュレスの生活は、20年前においてはクレジットカードの利用に留まり、スマホアプリありきのさまざまなサービスも、当時は全く無かったことになります。

 スマホやアプリが無いので、当然ですが、現在では必要不可欠なさまざまなSNSを利用したコミュニティーやコミュニケーションもありません。YouTubeも無く、EVがポイントとなる自動車社会も存在していませんでした。当たり前ですが、20年という時間は社会や生活を大きく変えていくのです。

未来は、現在を観察することで見えてくる

 しかし、よく注意して目を凝らすと、社会を変える芽吹きは20年前の当時において観測することが可能なのです。これからの20年後も同様で、今の世の中を注意深く観察することで、20年後の可能性を予想することが可能です。預言者では無いので、“20年後の可能性”と言っておきましょう。

 20年後の社会を見据える上で重要なのは、テクノロジーの進化とそれを背景としたサービスの進化。そして普遍的な人間の性です。

 テクノロジーやサービスの進化は、現在地を観察し、さらにそのベクトルを見極めることが大切です。人間の性とは、人間が欲する利便性や効率性、欲求やそれを制御する理性です。

AIは、未来を考える上で最も重要な要素

 現在起こっているさまざまなものを書き起こしていきましょう。

 まずは、なんと言ってもAIです。2024年2月にOpenAIが発表した「Sora」は、界隈のクリエーターに大きな衝撃を与えました。

OpenAIの動画からのスクリーンショット。ビル群の間を多数の魚が泳いでいる
提供:OpenAI/Screenshot by Lisa Lacy/CNET

 当然ですが、同社が2022年の冬に公開した「ChatGPT」以降、“AIの進化曲線はそれまでの緩やかなものではない”という認識はあり、2024年中には動画の世界が大きく変わるだろうという心算はあったわけですが、同様の動画生成モデルのRunwayとかで見ていた世界の上をいくものをいざ見せつけられると、2年後、3年後が怖くなってきたというのがあったようです。

 この進化が及ぼす20年後の世界を考えると、“消えていく仕事”“ディープフェイク画像の見極めや悪用防止”“より一層のセキュリティ向上”“ネットアップロードすると、AIに盗作させられる”など枚挙にいとまがありません。

 もちろんポジティブな可能性も無限にあります。また、AIが進化すると共に、それらはインターネットを通じてさまざまなデバイスや機器をアップデートしていきます。究極のIoTはロボットでしょう。

MR(複合現実)デバイスの進化

 ARやVR(拡張現実)やMR(複合現実)も、そのデバイス(HMD:ヘッドマウントディスプレイ/ゴーグル/コントローラー)の進化が注目です。

 Appleの「Apple Vision Pro」はその価格と完成度が大きな話題となりました。“空間コンピューター”という概念を浸透させ、ChatGPTなどの“言葉がインターフェイスになる”という技術と相まって、今後の可能性を感じさせます。

 これらのデバイスが、本当に普通の眼鏡やコンタクトレンズのようなものになれば、生活に密着することになるのは確実です。

キャッシュレス・高度なセキュリティ

 フィンテックやNFT、仮想通貨という言葉や技術がありますが、いずれにせよキャッシュレス決済は大きく推進されるはずです。

 キャッシュレスが導く未来は、時間の短縮と共に現金の取り扱いに関する多くの仕事をなくしていきます。セキュリティの推進や重要性が高まるため、望む望まずに限らずこの分野が大きく進化することとなります。セキュリティの進化が必然なのはAIの進化と同様です。

 また、量子コンピューティングの進化も、セキュリティの進化を伴って発展していくはずです。通信の進化やエネルギー開発の進化、センサーの進化(カメラ認識、音声認識)バイオテクノロジー等、他にも現在起こっているさまざまなモノは多々あると思われます。

普遍的な人間の性

 このように目覚ましい進化を遂げるさまざまなテクノロジーやサービス。

 しかし進化のスピードが遅い分野が“人間の性”です。「人間が欲する利便性や効率性、欲求やそれを制御する理性」と前述しました。便利なものを求めてより良いサービスを支持するのが欲求だとして、そこを突き詰めるのがマーケティングです。

 どんなにテクノロジーが進化しても、それを利用するのが人間である以上、“人間が欲する利便性や効率性”が常にサービス開発の礎となります。ここを理解することの重要性は今後も変わらないでしょう。

 しかし人間は行き過ぎたものを制御する理性もあります。SDGsやコンプライアンス遵守はその際たるものでしょう。ここ数年SDGsやコンプライアンスは、ビジネスにおいても大きな影響を与えています。近年この分野が大きく社会やビジネスを変えてきた感があります。

2024年はエンタメ業界にとって、どういう通過点なのか?

 エンタメ分野に限って上記を見つめた場合でも全く同様なことが言えると思われます。

 特にゲーム産業はテクノロジーやサービスの最先端を取り入れたエンターテインメントです。1年単位での決算発表に右往左往せざる得ないエンタメビジネスにおいて、中長期周期での目線や戦略を意識することは実は大切なことです。

 しかしそれ以上に、この2024年という単年を考える上でも、過去20年と未来の20年の“線上にある2024年”として捉えることが有用なのでは無いでしょうか?

 そういう視点で、2024年中に起こるさまざまな現象を見ていきたいと思います。

◇ライタープロフィール
上床 光信(うわとこ みつのぶ)
株式会社角川アスキー総合研究所 「ファミ通ゲーム白書」編集長

2000年、エンターブレイン社に入社。ゲームを中心としたエンタメマーケティングに従事し、『ファミ通ゲーム白書』では創刊から編集長を務めている。日本eスポーツ連合/JeSUが発行する『日本eスポーツ白書』の編集長。総務省『eスポーツ産業における調査研究』やNewzoo社の『GlobalMarketReport』の日本語翻訳版なども手掛けている。
2020年よりKADOKAWAグループである角川アスキー総合研究所に所属、ゲーム業界だけでなく隣接するエンタメ業界にもフォーカスしたマーケットアナリストして活躍

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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