Appleのヘッドセット「Vision Pro」の発売から2週間。実際に使ってみた人たちから、さまざまな感想や意見が上がってきている。Vision Proは仮想現実(VR)キラーとなるのか、それとも「iPad」キラーでしかないのか。Vision Proをつけた状態で道路を渡れるのか、あるいは8時間フルに働けるか。
皆さんが特に関心を持つべき見解があるとすれば、Metaの最高経営責任者(CEO)Mark Zuckerberg氏が先頃「Instagram」に投稿した、Vision Proのレビューだろう。この投稿で、同氏はVision Proを使った感想を語り、自社の最新VRヘッドセット「Quest 3」と比較した。同氏のコメントを要約すれば、「Questの方が値打ちがあり、製品としても優れている」だ。
Zuckerberg氏がMetaのCEOであることを考えれば、このコメントは話半分に聞くべきかもしれない。しかし、完全な間違いとも言えない。Quest 3はVision Proと直接的ではないにせよ、間接的には競合しており、価格がVision Proの7分の1であることは事実だ。Quest 3がゲームやフィットネスのような動きを伴う体験に適している点にも同意する。しかし、だからといってAppleのVision Proがまったく選択肢に入らないということにはならない。この記事では、Vision Proの大きなメリットを含めて、2つのヘッドセットの違いを紹介する。
Zuckerberg氏がQuest 3とVision Proをどう比較しようと、Quest 3がゲームを最優先にしたヘッドセットであることは否定できない。「Beat Saber」「SUPERHOT」「Asgard's Wrath 2」など、何百本ものVR/複合現実(MR)タイトルに加えて、装着時の快適性を高め、コントローラーのグリップを強化し、バッテリー駆動時間を伸ばすためのサードパーティー製アクセサリーも充実している。PC用のVRコンテンツも利用可能だ。
Vision Proも、Appleが運営するサブスクリプションサービス「Apple Arcade」のゲームをプレイできる。Apple Arcadeには新しいゲームが続々と追加されているが、すべてのゲームがVision Proの上質なオーディオビジュアルや、手や視線をトラッキングする内蔵センサーに最適化されているわけではない。また、Vision ProはQuest 3と比べて正面部分が重い。ガラスとアルミニウムでできたフェイスカバーにたくさんのコンピューティングパーツが組み込まれているからだ。筆者を含めて、Vision Proを早くから使ってきたユーザーは、装着時の快適性、特にゲームやフィットネスといった身体を動かすコンテンツを使用する際の快適性に懸念を示している。
Quest 3にはVision Proのような壊れやすさはない。主な素材はプラスチックなので価格を抑えられる上に、軽量なので頭部にかかる負担が減り、衝撃にも強い。同じことは専用の「Touch Plusコントローラー」にも言える。これはBeat Saberや「Supernatural」といったリズミカルな入力が必要なゲームや運動では大きな違いをもたらす。
Vision Proにも「Synth Riders」というVRリズムゲームがあるが、ハンドトラッキングの精度は、特に薄暗い場所では理想的とはとうてい言えない。しかも、Vision Proはバッテリーが外付けなので、常にバッテリーの場所を気にしながら身体を動かさなければならない。
額面だけを見ても、MetaのQuest 3(499.99ドル、日本では7万4800円)は、AppleのVision Pro(3499ドル、円換算で約53万円)より大幅に安い。Zuckerberg氏もInstagramのレビューで、この点を早々に指摘している。この大きな価格差が示しているように、Quest 3とVision Proはまったく異なる種類の製品であり、AppleがMetaと競合しているという主張は現実を捉えていない。端的に言えば、Vision ProはAppleの空間コンピューティングプラットフォームを仕事やメディアの視聴、コミュニケーションに活用したいと考えているテクノロジー愛好家向けの製品だ。Quest 3も似たような機能(とプラスアルファ)を提供しているが、ディスプレイの解像度も、空間オーディオ再生の質も、処理速度もVision Proには及ばない。
しかし圧倒的な価格差を考えれば、Quest 3の「十分な性能」は、ほとんどの消費者にとって十分以上のものだろう。
大げさに言っているわけではない。この2週間、AppleのVision Proを使ってきたが、今使っているタブレットやノートPC、テレビが色々な意味で時代遅れに感じられるようになった。これは流線型のデザインやヘッドストラップのクリック感などの高級感にあふれた仕上げ、映画館よりも迫力のある3D映像を映し出せる4KマイクロOLEDディスプレイ、視線と指のピンチだけでソフトウェアを操作し、デジタルペルソナ姿の友人と「FaceTime」で会話する体験のせいだろう。Vision Proの使用感は、過去に試したどのVRヘッドセットとも違う。もっとも、3499ドルもするヘッドセットを使うのもこれが初めてだ。
いわゆる「Apple税」にはメリットもある。全国のAppleストアで充実したカスタマーサポートや修理サービスを受けられるほか、マンツーマンのデモセッションも利用できる。しかし何よりも重要なのはAppleの他のハードウェアやサービスとシームレスに連携できることだ。「AirDrop」を使えば、Vision Proと簡単にファイルを共有できる。「Mac Virtual Display」を使えば、空間に好きなサイズの4Kディスプレイを表示できる。「iPhone 15 Pro」で撮影した空間ビデオを再生し、過去を目の前で追体験することも可能だ。
Vision Proは、マイクロOLEDディスプレイとデュアルドライバー搭載のオーディオポッドを組み合わせることで、過去最高の没入感をもたらす視聴体験を実現している。「Disney+」で「アベンジャーズ:エンドゲーム」や「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の3D映像を楽しみ、NBAのGiannis Antetokounmpo選手がディフェンダーを蹴散らす様子を間近で観ることもできる。Vision Proのオーディオビジュアルの質は、実際の映画館やバスケットボールの試合会場より優れていると言っても過言ではない。MetaのQuest 3でも似たようなことはできるが、体験の質はVision Proの方がはるかに高い。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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