SNSの元祖「Usenet」--その隆盛と衰退を振り返る

Steven J. Vaughan-Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル2023年12月26日 07時30分

 「Facebook」が登場するずっと前、むしろ、インターネットさえまだ登場していない頃から、「Usenet」は存在していた。Usenetは最初のソーシャルネットワークだった。今回、「Googleグループ」がUsenetのサポートの終了を発表したことで、この最古のソーシャルネットワークは姿を消そうとしている。

ペイントされた小石
提供:Johannes Geyer/Getty Images

 Googleは、以下のように発表している。

 2024年2月22日以降、Googleグループ(groups.google.com)を使用してUsenetグループへのコンテンツの投稿、Usenetグループへの登録、新しいUsenetコンテンツの閲覧ができなくなります。2024年2月22日より前にGoogleグループに投稿されたUsenetの過去のコンテンツは引き続き閲覧、検索できます。

 Usenetの時代はとうに終わっている、と主張する人もいるかもしれない。Googleによると、「ユーザーがソーシャルメディアやウェブベースのフォーラムなどの最新のテクノロジーや形式に移行したため、過去数年間で、テキストベースのUsenetグループでの正当なアクティビティーが大幅に減少しています。現在Usenetで分散されているコンテンツの多くは、バイナリー(テキスト以外の)ファイル共有であり、Googleグループではサポートしていません。また、スパムも同様です」という。

 確かに、近頃では、Usenetのコンテンツはほぼスパムだが、全盛時のUsenetは、「X(旧Twitter)」や「Reddit」の究極の形をさらに上回るものだった。

Usenetの誕生

 1979年、デューク大学でコンピューターサイエンスを専攻する大学院生だったTom Truscott氏とJim Ellis氏は、さまざまなトピックに関するメッセージを共有するネットワークを考案した。記事やポストとも呼ばれるこれらのメッセージは、トピック別のカテゴリーに分類され、それがニュースグループとして知られるようになった。

 その各グループ内では、メッセージがスレッドとサブスレッドにまとめられた。例えば、NFL史上最高のクォーターバックに関する議論には、Tom Brady選手やJoe Montana選手、Peyton Manning選手など、さまざまなクォーターバックを推すスレッド(つまり議論の場)が乱立したはずだ。

 これを聞いて、「CompuServe」「GEnie」「Prodigy」といった1980~90年代のオンラインサービスのニュースフォーラムや、より新しいものでいうと、Redditとその「subreddit」を思い出した人もいるのではないだろうか。当然だ。Usenetは、それらすべての基となるモデルだったのだ。

 1980年、Truscott氏とEllis氏は、「Unix to Unix Copy Protocol」(UUCP)を使用して、ノースカロライナ大学に接続し、最初のUsenetノードを構築した。そこから、Usenetはインターネット以前のARPANETなどの初期のネットワークに急速に広がった。

 これらのメッセージは保存され、ニュースサーバーから取得される。メッセージは相互に「ピアリング」されるので、あるニュースグループにメッセージが投稿されると、サーバー間およびユーザー間で共有され、ネットワーク化された世界全体にそのメッセージが数時間以内に届く。Usenetは、独自のネットワークプロトコル「Network News Transfer Protocol」(NNTP)を進化させ、これらのメッセージの転送を高速化した。

 現在、ソーシャルネットワークの「Mastodon」が「ActivityPub」プロトコルで同様のアプローチを採用している。その一方で、ActivityPubを使用して、Mastodonなど、ActivityPubをサポートする他のソーシャルネットワークに接続する手法を模索している「Threads」のようなソーシャルネットワークもある。

 よく言われるように、流行は繰り返すのだ。

 実際に、私たちが現在ネットの使用について話すときに用いる用語の多くは、Usenetで生まれたものだ。例えば、「よくある質問(FAQ)」ファイルは、既存のメンバーが新参者に基本事項の説明を何度も繰り返さなくてもいいように、ニュースグループに関する情報をまとめたものとして、Usenetで初めて作成された。

 他のフレーズはそれほど楽しいものではない。例えば、flame(炎上)やflame war(炎上合戦)もUsenetで始まったものだ。残念ながら、われわれは、ずっと前から他者に対して意地悪だった。その一方で、他者にもっと親切にしようと努めてもいる。その概念はネチケットとよばれる。今と同じように、当時もネチケットが評価されるのは、普段よりも違反があったときだった。

 スパムもUsenetで生まれた。Monty Pythonが、スパムという用語を現在使われている意味で初めて使用したことは多くの人に知られているが、スパムが初めて大きな規模で使われるようになったのは、1994年のことだ。弁護士夫妻のLaurence Canter氏とMartha Siegel氏が、自分たちの移民法サービスの広告をUsenetに投稿し始めた。ふたりは後に、インターネットに関する筆者の初期の記事からヒントを得たと語った。ある意味で、筆者にも責任があるので、ここで謝罪したい。

 初期のUsenetは、人々が互いに議論する場を実現したという点以上に貴重だった。例えば、「Linux」の歴史は、「comp.os.minix」というニュースグループに、今では有名になったメッセージが投稿されたところから始まった。

Linus Benedict Torvalds

1991年8月25日、午後4時57分8秒

 「minix」を使用している皆さん、こんにちは。

 私は、386(486)ATクローン用の(フリーの)OSの開発に取り組んでいます(単なる趣味であり、GNUのような大規模なものでも、プロフェッショナルなものでもありません)。4月から開発を進めており、公開する準備がもうすぐ整いそうです。私のOSはminixに少し似ているので(例えば、実用的な理由により、ファイルシステムの物理的なレイアウトが全く同じである点など)、minixの好きなところや嫌いなところがあれば、意見を聞かせてください。

 Usenetは決して整然としたソーシャルネットワークではなかった。各サーバーの所有者は独自のルールを設定することを認められており、実際にそうしていた。

 とはいえ、ある程度組織的な構造は最初から存在していた。最初の「主流」のUsenetグループであるcomp、misc、news、rec、soc、sciの6つの階層は、1987年まで広く受け入れられ、浸透していた。その後、新しいグループが大量に発生したことを受けて、いわゆる「Great Renaming」(再編成)が実施され、新しい命名計画が提唱された。これがきっかけとなって、多くの論争が起こり、新しいグループの階層が作られた。この新しい階層と、従来の6つの階層が「Big Seven」(ビッグ7)として知られるようになる。その後、言論の自由を守る抗議活動の一環として、altグループが誕生。その後、すべてのニュースグループにアクセスできるUsenetサイトの数が少なくなり、メンテナーとユーザーはどのニュースグループを支持するかを決めなければならなくなった。

 Elon Musk氏によるTwitter買収後に起きた分裂によく似ていると感じた人もいるかもしれない。確かにその通りだ。

 議論が少なくなり、スパムや炎上合戦が蔓延する中で、Usenetは衰退していった。無制限の言論の自由は美徳である、とElon Musk氏が主張するのは勝手だが、実際には大量の不快なメッセージが際限なく投稿されることになる。

現在のUsenet

 多くの点で、Usenetはソーシャルメディアが劣化していく過程を体現しており、戒めとすべき前例になっている。現在のソーシャルメディアが抱えるさまざまな問題は、Usenetで最初に発生したものと同じだ。

 Usenetの多くのニュースグループ、いわゆるバイナリーグループでは、議論など全く行われておらず、ファイル共有のために使用されている。これらのファイルの中には合法のものもあれば、そうでないものもある。おそらくディスカッショングループで議論をするユーザーよりも、バイナリーグループを使って映画やゲームなどの海賊版をやり取りしているユーザーの方が多いのだろう。

 Usenetを改革する試みも実施されてきた。例えば、何年も放置された後、2020年にグループを自ら管理するThe Big 8 Management Board(ビッグ8管理板)が設立された。だが、事態はほとんど改善されていない。

 今後、Usenetを注視したい人は(状況が変わったり、奇跡が起こったりする可能性もある)、Usenetプロバイダーからアカウントを取得する必要がある。筆者のお気に入りは、Usenetのディスカッショングループに無料でアクセスできるEternal Septemberだ。月額10ドル(約1432円)ですべてのUsenetグループにアクセスできるNewshosting、月額9.98ドル(約1427円)で高速ダウンロード機能、優れた検索エンジンを利用できるEasynews、月額9.50ユーロ(約1487円)で、欧州のみにサーバーを持つEwekaなどのプロバイダーもある。

 Usenetクライアントも必要になる。無料のクライアントで人気が高いのは、Usenetクライアントとしても機能するMozillaの「Thunderbird」電子メールクライアントだ。Easynewsもサービスの一部としてクライアントを提供している。ファイルのダウンロードを重要視する人は、SABnzbdをチェックするといい。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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