今年からインターンシップの定義が変わり、25年卒の学生たちの就活はそれによって大きな影響を受けています。前回(「【25卒の就活動向調査】今年から始まった採用直結型インターンシップの影響は?」)、取り上げた夏のインターンシップ同様に秋冬のインターンシップも 、24卒とは異なる変化が生じているのでしょうか?
Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が、前回に引き続き、1000名超の25年卒学生を対象に行ったアンケートデータや彼らの生の声を元に解説します。
前回(「【25卒の就活動向調査】今年から始まった採用直結型インターンシップの影響は?」)はインターンシップの定義変更が、夏のインターンシップのあり方や学生側の意識にどのような影響を与えたかについて説明しました。今回はそれに続く秋冬のインターンシップについて考察します。
従来、就活生たちは、夏のインターンシップへの参加を業界研究の一環と捉えていました。そこで自分に合う業界を見極め、秋冬にはその希望業界における企業のインターンシップに参加する。それが終わった頃に、いよいよ採用試験を受ける企業を決めて、本選考に臨む、という流れが一般的でした。
ところが、23年卒学生の頃から、就活の早期化は一段と進み、夏前にすでに業界を絞り、夏にはその業界の数社のみのインターンシップに参加するという学生が増えてきたのです。中には、夏期のインターンシップで内定が出れば、そこで就活を終わらせたい、と言う学生たちもいます。
もちろん、一部のベンチャー企業を除けば、夏期のインターンの時点で内定が出ることはほとんどありません。そこで、インターン後のフォローとして、前回、グラフで紹介した「内定につながる特別選考」という考えが出てきたのでしょう。
さらに、採用直結型インターンシップが公認されたことも受けて、秋冬のインターンシップに参加する学生の間では内定獲得への期待値が強まっているのです。
<秋冬インターンへの参加理由を教えてください>のグラフを見てください。それぞれの回答の上の棒が秋冬インターンの数値、下の棒は比較対象として夏インターンの数値を表しています。
「本選考の予行練習をしたい」という回答は、秋冬も夏も6割前後とほとんど同じ数字ですが、「直接内定を獲得したい」という回答は夏よりも秋冬の方が、20ポイント近くも高くなっています。一方、「企業理解を深めたい」「業界理解を深めたい」という就活の初期段階でやるべきことは、秋冬では大きく下がっています。
すでに夏のインターンシップでその企業についての情報収集をしており、その上でさらに秋冬のインターンシップにも参加するのだから、そこで内定を獲得したい、という気持ちの表れでしょう。
繰り返しになりますが、かつては夏のインターンシップで業界研究をして、秋冬で企業を決め、本選考で内定を獲得するという順番だったのが、一つずれて、夏より前に業界を絞り、夏の間に企業を決め、秋冬で内定を取りにいく。つまり、3年生のうちに、できれば年が明ける前に内定をもらいたいと考えているようです。
この流れを踏まえると、企業側にとっては、サマー期以前に学生と接点を持つことが重要になります。夏のインターンシップに参加してもらえないと、秋冬での挽回は難しいので、今後は、夏前に会社説明会を開く企業が増えることも予想されます。そして、秋冬のインターンシップは、内定直結であると標榜する、仮にその時点で内定を出せなくても、本選考に向けた経験を積めるインターンだと明確に謳うことで学生のニーズに応えられるでしょう。
このように就活に関して学生たちの意思決定は、どんどん早くなっています。限られた情報の中で、ある程度の知名度と安定感のある会社に目星をつける。例えば、金融にそれほど興味がなくて、仕事の内容もよくわからないけれど、「メガバンクに入れば、潰れる心配はないし、いい給与がもらえる」と考える。後はいかに効率的にタイパよく就活を済ませるかに終始する様子が見て取れます。
安定を求め有名企業にエントリーするものの、大企業が年内に内定を出すことはまずないので、夏/秋冬インターンシップで選考経験を積む。秋冬に滑り止め企業から内定をもらい、その後、大手の本選考に進んで内定が出れば、最初の内定は辞退する。そうした傾向は、以前この連載で紹介した、24年卒学生では「内定承諾後辞退に抵抗がない」と回答した学生が3割いる、というアンケート結果とも合致します。
おそらく、25年卒学生も、この秋冬のインターンシップで内定をもらい、就活市場から退場する人と、それを保持して大企業の本選考のために残る人に分かれるでしょう。
私のような新卒採用に関わる人間としては、学生たちにはもっといろいろな企業の説明会やインターンシップに参加し、できる限り情報を集めてから、自分の可能性と仕事を結びつけて会社を選んでほしいものです。一生懸命考えて、覚悟を決めて入社すれば、多少理想とは違ってもネガティブに捉えず、5、10年はそこで頑張ることができるでしょう。逆に熱意や覚悟もなく入った会社で「合わない」と感じれば、すぐに転職を考えてしまいます。辞めることへのハードルが低くなり、転職が珍しくない昨今、新卒採用で入社することの意思決定の重みは失われつつあると言えます。
そこには、就活を一生懸命頑張っても、未来はそれほど変わらないという諦めの気持ちもあるのかもしれません。彼らは、バブル以降の「失われた30年」の中で生きてきました。未来に希望を持てないので、それなりの給与が保証され、ライフワークバランスのいい人生を送ることができれば、どの会社に入っても大差ない、と感じているのではないでしょうか。その姿勢が、アンケート調査への現実的すぎる回答にも表れているように思われます。
就活の早期化もあって、そろそろ26年卒学生も動き始めているという情報が入ってきています。彼らは22年?25年卒の学生たちと比べ、就活時期にコロナの影響をほとんど受けない世代となります。就活の早期化は今後も続くと思われますが、コロナ禍の影響を受けた世代とはまた異なる傾向が表れるのではないかと感じています。
来年の春先には、彼らも就活マーケットにかなり出てくるはずなので、アンケート調査などを通じてその動向を追っていきたいと思います。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
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