11月、日本のスタートアップが国産物流ドローンをモンゴルの首都ウランバートルで飛行させ、血液を輸送する実証実験を実施するというので、ぜひこの目で見たいと思い突撃取材してきた。
コロナ禍明け、久しぶりの海外。しかもモンゴルという、プライベート旅行で選択肢に入ったことのなかった国だ。せっかくなので、4泊5日でワーケーションしたレポートもお届けしたい。
ウランバートルへは、成田から直行便が出ている。成田15時30分出発、チンギスハーン国際空港には現地時間20時30分に到着した。
時差は約1時間で、フライトは約6時間だった。タイのバンコクよりやや近い。乗り継ぎを考えると、沖縄の離島よりも身近かも?
距離的なハードルは一気に下がるが、ちょっと不安だったのは、モンゴル国の通貨「トゥグルグ」に、日本国内では両替できないことだ。
「現金は現地で調達しないと」と思いつつ、MIATモンゴル航空で、とりあえずスーツケースを預ける。
出国時は自動化ゲートを利用した。混雑もなく、するっと通過できた。この辺りで、レンタルしたWi-Fiの設定チェックも済ませておいた。
しかし、この日の搭乗口は、一番遠い68番ゲート。「ここから早くても歩いて15分はかかります」との案内で、1時間前の14:30には搭乗口へと向かった。早め(出発2時間前)に成田に着いていてよかった。
機内食は普通に美味しかった。「あとで来る」と言われたドリンクサービスのコーヒーは、ついに来なかったけれどまあいい。のんびり居眠りしていたら、あっという間に着陸した。
入国。すでにモンゴル語がさっぱり読めない。聞こえる言葉もちんぷんかんぷんだ。ちなみに外国人用ゲートでは、中国語スピーカーが割と多かった。
「交通渋滞がひどい時は、空港から市内まで4時間かかるから、空港のコンビニで何か買っておいたほうがいい」と聞いていたので、お菓子とミネラルウォーターを購入。クレジットカードが使えた。
夜の気温はマイナス20度近く。空港までお迎えに来てくれたドライバーさんが、「上着のファスナーしめろ」「フードもかぶれ」と、ジェスチャーで指示してくれた。空港の建物内は暖かかったが、外は一気に極寒だった。
空港から市内までの移動は、バスかタクシーの2択しかない。モンゴル語ができないと、バスは難易度が高い。タクシーのほうがおすすめだが、ドライバーさんは基本的にモンゴル語なうえ、外国人は2倍近くの料金を請求されるのが一般的らしい。
あとは滞在先のホテルに、事前に送迎を依頼するという方法もある。もちろん有料だが、トゥグルグを所持していなくてもホテルで支払いができるので、初めてのモンゴルで頼れる知人もいないなら、これが一番無難かもしれない。
今回は、仕事の関係者がご好意で手配してくれた白タクに乗り、約1時間でホテルに到着。後日、手配してくれた日本人男性に、日本円で4500円を支払った。
ドライバーさんは日本に留学経験のある方で、筆者が取材に来たドローンによる血液輸送プロジェクトの手伝いもしており、昼間は現場で走り回っていたらしい。
「疲れていて眠いので、喋りかけてください」というので、お互いに片言の日本語と英語で、トークトークトーク。「モンゴルの人ってフレンドリーなんだな」と思った。
市街地が見えてからさらに30分。到着したのはチンギスハーンホテルだ。広々としたお部屋に入ると、そこそこ暖かい。静かで、デスクスペースもゆったり。ミネラルウォーターなどもあって、快適にワーケーションできそうだ。
この日はさすがにどっと疲れが出て、シャワーを浴びてすぐに就寝した。
朝ごはんは7時から9時、バイキングだったが、午前中はお部屋でのんびりと。持参した梅干しやナッツバーをつまみながら、ドリップコーヒー片手にメールチェックをすませる。やはり慣れた味は癒されますね。
この日は日曜日で、仕事もない完全オフ。散歩がてら、「VIVANT」のロケ地を訪れてみることにした。
でもまずは、お昼ご飯を食べたい。地図アプリで周辺をチェックすると、ホテルの隣にスーパーマーケットがあった。
ホテルから出て、スーパーを外から覗いてみると、フードコートもある。そこに決まりだ。
バーガーキングも入っていたけど、せっかくなので昨日のドライバーさんに教えてもらった、「牛肉のスープにうどんみたいな麺」を食べてみることにした。
「クレジットカードを使えるか」とレジで尋ねたら、英語を話せるスタッフに代わってくれて、利用できることを確認。しかし、もちろんメニューは読めない。
写メを撮ってレジで見せつつ、「これ1つ」とジェスチャーでオーダーした。1万1200トゥグルグなので、日本円だと487円くらいだ。
あっさり塩味で、お肉はほろほろ。美味しい。麺は、山梨名物「ほうとう」を、やや細くした感じ。にんにくや生姜も入っているのか、かなり温まった。
いざ、外に出る。ウランバートルは標高1300mで、「世界で最も寒い首都」とも言われているそうだが、この日は暖かく、マイナス10度だった。風速も秒速2mと穏やかで、冬のウランバートル的には“お散歩日和”と思われた。
もし、途中で屋台などがあったら何か食べてみようなどと思いつつ、ホテルのATMで現金2万トゥグルグを引き出し、いざスフバートル広場へ。ちなみに屋台はなかった。
チンギスハーンホテルから、VIVANTロケ地のスフバートル広場までは約1.3km。「イモトのWi-Fi」を持ち歩き、地図アプリを見ながら、迷うことなく辿り着けた。
道中は、モンゴル相撲の競技場や、凍てついた川、「カラオケはKAPAOKEって書くの?」など、歩くだけで異国情緒たっぷりだ。
さあ着きました。巨大なチンギスハーン像を見て、「ここは本当にモンゴルなのだ」と実感が湧く。
結婚記念撮影中のご一行にも遭遇した。両家のお父さんお母さんらしき方の衣装が伝統的でかっこいい。
このあたりで、「スマホとWi-Fiさえあれば、余裕だな」と思い始める。
そのまましばらく散策すると、モンゴル国立大学前には韓国コンビニチェーン大手「CU」の店舗があった。陳列棚には日本製も多く、温かいウィンナーロールを食べ歩くなどした。
2時間ほど歩いたところで、カフェに立ち寄り、ソファ席に腰を下ろして一息つく。お散歩日和とはいえ路面が凍っているので、身体は思ったよりも緊張していたようだ。
ホットコーヒーを飲みながら、ふと周りを見回すと、みなさんすごく真剣にPCを広げている。20歳前後だろうか。各自の作業に没頭している姿が印象的だった。
そんな感じで休日を満喫し、翌日は仕事本番だ。今回の取材テーマは、「交通渋滞の課題を抱えるウランバートル市内でのドローンによる血液輸送」。日本ではまだほぼ実現していない、「市街地上空飛行」に挑む取り組みだ。詳しくは記事でレポートしたが、とても難易度の高い飛行で、成功したときは取材で初めて、涙があふれた。
「この感動が冷めないうちに書きたい」。プロジェクトの関係者が夜ご飯に誘ってくれたが、断腸の想いでお断りし、ホテルの部屋にこもって執筆タイム。デスクはやや暗かったが、コンセントが近くにあって、とても仕事しやすかった。
ホテルのWi-Fi速度も問題なし。チェックしてみると、下りで40Mbpsだった。ただし、時間帯によっては9.2Mbpsまで下がることも。
途中、お茶を飲んだり、景色を眺めたりして、息抜きしながら作業に打ち込むことができた。
早く書きたかったもう1つの理由は、現地報道陣が続々とコンテンツをアップする速さ、FacebookをメインとしたSNS拡散や視聴者のリアクションを、昼間に体感していたためだ。
「ウランバートルでは深刻な交通渋滞のために、血液輸送や救急搬送に支障が出ている。その解決策として、ドローンが非常に期待されている」。現地に行ったからこそ肌で感じられた感覚を、楽しい食事会の思い出で上書きする前に、じっくり味わいたいと思ったのだ。
ワーケーションは、自律性が試されると思う。過ごし方も自由だし、正解もない。夜ご飯に出かけてからだって、臨場感ある記事をスラスラ書けたのかもしれない。
でも、仕事するも遊ぶも「自由」なワーケーションだからこそ、「自分自身が本当に大切にしたいこと」への感度を上げる、好機になるのではないだろうか。
とはいえ、執筆に集中しすぎて、夜ご飯がまたもフードコート(しかもジャパニーズラーメン)になってしまったのは、いま思い出しても悔しい失敗だ。
翌日見てみると、スーパーのお惣菜コーナーにもいろいろな商品があったので、休日のうちに予めチェックしておき、せめて買い物に出かければよかった。
さらに、このワーケーションの満足度が爆上がりした、大きな理由がある。それは、日本への留学経験がある、事業家のRAVJAASoderdene(ラブジャーソドエルデネ)氏と出会えたことだ。
知る人ぞ知る“中華圏で活躍する究極のジョブホッパー”で、筆者の10年来の友人でもある、エクサイジングジャパン代表取締役の川ノ上和文氏と共同で、飲食店「MindFoodStudio(MFS)」を手がけているという。
聞けば、「未成熟なモンゴルの食体験と、人々の新しいもの好きな特性に、いち早く目をつけた」と、2人は口を揃える。
日曜日の夜、完全予約制のモンゴル創作料理店「MindFoodStudio2号店」に招かれた。一緒に食卓を囲みつつ、モンゴルの食事情を聞くと、現地理解が一気に高まった。現地ビジネスの話は、ワーケーションだからこそ面白いと思う。(子連れの家族旅行では、これは叶わないことがある。すごく自由を感じた)
「1号店は、丼・麺をメインとした業態で、食品市場の中に出店した。市場の従業員の食堂として人気になっており、MFSが仕入れる新しい調味料や調理法によって食品販売員の食への興味も高まっている。これに対して2号店は、静かなプライベート空間として出店。ゆっくりと食事ができるため、友人の誕生日会やビジネスパーソンの会食での利用が多い。2店舗の顧客属性は異なるが、コンセプトは『新しい食体験により発想を広げられる交流と発信の場』であり、それがブランド名のMindFoodStudio(MFS)につながっている。いま、3号店の出店も計画中で、また違った切り口の店舗になる予定だ」(ラブジャー氏、川ノ上氏)
また、深センを主な拠点に活動してきた川ノ上氏が、どうしてモンゴルに着目したのか、どうやって現地でのつながりを広げていったのかなど聞いて、とても勉強になった。
このエピソードもいずれ記事化したいと思っているが、まずはモンゴル創作料理だ。中国、韓国、日本ともバランスよく付き合い、中東にも通じる、オリジナリティある食感だ。
最初に、コラーゲンたっぷりの前菜。煮卵は特に絶品だった。
モンゴルで風邪を引いたときに食べるという、熱々のスープ。
モンゴル料理にはあまり登場しない鶏肉を使った蒸料理。わざわざ考案してくれたらしい。川ノ上氏が中国で仕入れてきたスパイスとも絶妙に合う。
女性のお客様向けにと提供してくれた、フルーツサラダ。
のラーメンも優しい味わいで、身体が芯から温まった。
初めて飲んだシミーンアリヒ。牛乳を発酵させて作る地酒とのことだ。すごくさっぱりした飲み口だった。
ワーケーションの醍醐味は、現地の方との出会い、現地の食事はもちろん、さまざまな話をするなかで新しい世界への扉が開くことだと思っている。ラブジャー氏のこの言葉はとても心に残った。
「この国をもっとよくするために、ウランバートル市内でおそらく初めて、学生向けのコワーキングを開設した。自分が日本にいたときに、いろんなビジネスセミナーを受講したり、いろんな人と出会ったりしたことが、すごく勉強になったので、そういう場所をモンゴルにも作りたいと考えた」(ラブジャー氏)
7時から20時まで、年中無休で利用できるということで、大学生らしき方々に混じって、コワーキングスペースで仕事をしてみた。お喋りやミーティングもできるフロアと、私語厳禁の集中フロアに別れており、みなさん熱心に机に向かう。その姿は、自分自身の未来と真剣に向き合っているように映った。筆者もすごく集中できた。
取材の翌日も、ラブジャー氏と川ノ上氏に連れられて、郊外にある「ゲル地区」と呼ばれるエリアを視察した。遊牧民がウランバートル市へ移住し、市の周辺の小高い丘にゲルを立てて、定住している場所だ。
ゲルとは、モンゴルの伝統的な移動式住居のことで、ここにはバスは通っているが、水道などの都市インフラ整備が追いついておらず、住所未定のところも少なくないという。
「故郷を見せたかった」と案内してくれたラブジャー氏は、「小学生の頃には、この丘のてっぺんまで走って戻ってくる競走をして、1位だった」というこぼれ話もしてくれた。帰る頃には、「日本のこういうところが嫌いだ」という本音トークも。若干耳が痛い。
ゲルは本当にたくさんあった。水くみをしているらしい女の子の影を見つけたとき、「うちの子と同じ歳くらいかな」と思って、さまざまな感情が湧いた。
この日の視察で得たものは、日本にいては得られなかった気づきばかり。本当に感謝している。
まとめると、冬のウランバートルはとても寒かったけど、風がなく晴れていれば案外平気だ。食事を汁物メインにすれば、身体も温まるし問題ない。韓国料理、カレーなどもある。ホテルでのワークも快適に進められた。
あとは、モンゴル語が分からなさすぎて、インプットを早々に諦めたので、「逆に目と耳がいつもよりも疲れない」のは新発見だった。どうしてものときは、通訳アプリもある。
モンゴルでワーケーションは「意外と余裕」なんて書き始めたが、こうして振り返ると、現地でたくさんの人にお世話になったからこそ、とても充実した滞在となった。
次回は夏の草原を訪れてみたい。ゲルに泊まって、星空を仰いでみたい。あと、ゲルでワークもやってみたいそれまでに、元寇しか知らなかったモンゴルの歴史や文化も、少しは勉強しておきたいと思う。中東に続くアクセスポイントとして、今後はビジネス的にも注目が高まりそうだ。
モンゴルに限らず海外出張する機会があったら、思い切ってワーケーションにしてみてはいかがだろうか。
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