日本電信電話(NTT)は8月9日、2023年度第1四半期決算を発表。売上高は前年同期比1.4%増の3兆1111億円、営業利益は前年同期比5.7%減の4747億円と、増収減益の決算となった。
同日に実施された決算説明会に登壇した代表取締役社長の島田明氏によると、増収はNTTドコモを軸とした「総合ICT事業」や、NTTデータを軸とした「グローバル・ソリューション事業」が伸びをけん引したとのこと。
一方で、NTT東日本・NTT西日本(NTT東西)を軸とした「地域通信事業」が、大規模なシステムなどへの先行投資に加え、引き続き電気代の高騰を大きく受けたことで減益に至ったと説明する。しかし、年間の業績予想に対しては想定通りだとしている。
また、決算説明会では記者から、政府が保有するNTT株を完全に売却するべく議論していることに関する質問が集中。島田氏は、政府が同社の株式を売却することに対しては「ニュートラル。売却されてもよろしいし、継続保有でもよいと思っている」と答える一方、売却に際して政府が株式を一度に手放すことに対しては「できるだけ(株主に)影響を及ぼさないよう、検討するように再三言っている」と話し、長期的な売却を要望する様子を見せた。
政府がNTT株を完全に売却すれば、NTTは政府の手を離れ完全な民間企業となることから、売却を進める上ではNTT法(日本電信電話株式会社等に関する法律)の扱いも大きな議論の的となってくる。島田氏はNTT法に関して「今後のことを考えると見直した方がいいと思う」とし、その理由の1つとして研究開発成果の開示義務を挙げている。
島田氏によると、この開示義務があることで、パートナー企業との共同開発を拒否されるケースもあるそうで、「開示義務はない方が、私たち自身の競争力強化になると思っている」と話す。また、昨今の国際競争が進む状況や、経済安全保障の観点からも開示義務は「情報過多だと思っている」とし、NTTが通信を独占していた時代にできた規制だけに時代に合った見直しの議論をしていく必要性を説いた。
ただその一方で、「国のインフラを支えている企業の安全保障がどうあるべきかは考えていかなくてはならない」とも島田氏は話す。今後は個別の会社に対する保護規制よりむしろ、通信や電力などのインフラを支える事業者に対するルール作りが求められるのではないかという見解も述べている。
だが、NTTの完全民営化によってNTT法の見直しがなされることは、なし崩し的にNTTグループに対する規制がなくなり一体化が進むとして、競合他社が懸念を示している。
とりわけ競合が懸念するのは、携帯電話などでも用いられているNTT東西の光ネットワークに関してNTTグループ内での優遇が進む可能性だが、島田氏は「あまり影響しない」と回答。ドコモだけでなく競合他社にも同じ条件で光回線を貸し出す方針を変えることはなく、国内のモバイル事業を成長させるため「高いレベルのサービスを提供する義務が(NTT東西には)あると思っている」と答えている。
また、NTT東西に関連して、島田氏は固定電話の契約数が現在1310万にまで減少しており、さらに毎年150万ほど減少していることから「固定電話を将来どうしていくかはそろそろ議論を始めないといけない時期に来ていると思う」とも説明。
マイグレーションなどを進める上でのコストなどはまだ具体的に計算していないというが、固定電話の設備が非常に大きく負担も大きいことから、光やモバイルの回線などで代替を図る一方、設備の撤去で空きができることから都市部の再開発なども意識して対応を進めていきたいとしている。
同日にはNTTの主要子会社であるドコモの2023年度第1四半期決算も発表。売上高は前年同期比2.5%増の1兆4578億円、営業利益は前年同期比3.2%増の2927億円と、こちらは増収増益の決算となっている。
コンシューマ通信事業は、引き続き政府主導による料金引き下げの影響を受けて80億円の減収となったが、コスト効率化などによって増益を達成。一方で、スマートライフ事業が減益となっているが、その理由について島田氏は「dカード」に関するシステム負担や、XR関連事業を担うNTTコノキューへの投資、「Lemino」など映像関連での先行投資が影響していると説。第2四半期には「回復してくると思っている」と答えている。
またドコモは、2023年7月から新しい料金プラン「eximo」「irumo」を開始した。島田氏はこれらの料金プランについて「もう少し様子を見ないといけない」としながらも、転出防止には効果が出ていると説明。競合に対し大容量プランでは対抗できていたが、サブブランドの部分で対抗できておらず、シェアを落とし続けていたことから、とりわけサブブランド対抗プランとなるirumoで反転攻勢を図り、シェアが回復することを望んでいる様子を見せた。
一方でirumoの投入は、回復基調にあるARPUの引き下げにつながる懸念もあるが、島田氏は「外で空いた時間に映像を見るとか、そういう習慣になっている人がここ最近非常に伸びている」と、大容量通信する人が急増していると説明。ahamoやeximoといった中・大容量プランの利用拡大が一層期待されることからARPUが下がることは心配していないとしており、「(ARPUが)4000円を超える所まで、今年は行くんじゃないかなと思う」と自信を見せている。
ただ、ドコモに関しては、ここ最近都市部での著しい通信品質低下が問題視されている。島田氏もこの点については「さまざまな所で話題となり、迷惑をかけたと思う」と改めて釈明するとともに、「アフターコロナで(トラフィックの)ボリュームが戻ったが、映像トラフィックがものすごく、その使い方が全然変わっていた。予測が少し甘かった所がある」と、問題発生の理由についても説明する。
同社は、既に混雑が著しい東京の数カ所で品質改善に向けた取り組みを進めており、今後も品質改善に向けた取り組みを進めていくとのこと。ただ島田氏は、一連の問題を理由としたユーザーの離脱は「ほとんどないと思う」と説明、「逆に『ドコモもっと頑張れ』という声を頂いている」とも話した。
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