日本の主要都市部の地下にはダンジョンのごとく張り巡らされた「とう道」と呼ばれる場所があるのをご存知だろうか。
とう道は地震をはじめとする災害から通信ケーブルを守り、インフラを確保するための施設。NTTが管理しているが、その場所は地図には載っておらず、セキュリティの観点から社員でも限られた人しか入ることはできない。今回はNTT西日本よりその一部がメディアに公開され、著者も運良く見学の機会を得ることができた。
「とう道」は通信ケーブルを収容するトンネル網で、全国の主要都市部の地下に設けられている。全国には約610キロメートルのとう道があり、そのうち約245キロメートルが西日本エリアに位置する。
施設は大きく2つ、地上から中に入るためのルートで断面の四角い「開削とう道」と、そこから階段を下りた約20メートルの深さにあり、断面の丸い地下トンネルのような「シールドとう道」で構成されており、その中に血管のごとく通信ケーブルが張り巡らされている。中には約1000万の光インターネット回線と約800万の電話通信回線が通っており、それらは「管路」と呼ばれる細い管を通って地上につながり、電柱などを経由して電話やインターネットなどで使用される。
今回、見学したのは大阪市内の地下にあるとう道で、ある建物の地下から厳重に管理された専用の扉を通り、ようやく中に入ることができる。そこでいきなり目に入るのが、狭い通路の両側に大動脈かのように張り巡らされているものすごい数のケーブルで、都市のネットワークがここで支えられているのを感じさせられた。
狭い通路と階段を下りたところにある開削とう道では、チュートリアルとしてとう道の基本的な仕組みや役割が説明された。都市部の通信インフラを支えるとう道は、古いものでは50年前からあり、造られた後はメンテナンスを重ねてほぼ半永久的に使い続けられる。今回見学した場所は平成元年から30年以上使用されており、1995年に発生した阪神淡路大震災にも耐えることができたという。また、今後も生じるであろう災害に備えて対策が続けられている。
そこからさらに地下へ下りて、ようやくシールドとう道の入り口にたどり着くことができたが、その奥には先が見えないほど長い通路がつながっている。
とう道は大阪市内のほぼ全てにつながっており、そこだけで約100キロメートルあるという。通信以外の電気などの共同溝を経由すると神戸や京都まで行くことができる、まさしく巨大地下ダンジョンになっている。必要に応じて今後も延長される可能性はあるが、大きな目的である防災対策にも引き続き力を入れていくとしている。
トンネルの両脇にある通信ケーブルは耐火カバーで覆われ、ほかにも浸水を防ぐ防水扉やポンプを使って貯まった水を下水に流す排水施設が設置されている。揺れを吸収するゴムジョイントを使った免震構造により、大きな地震にも耐えられる構造になっている。
地下20メートルにあるとう道の中の温度は年中一定しており作業はしやすそうだが、途方もない距離があるためメンテナンスをするだけでもかなり大変そうだ。中は通信が全く届かないため万が一に備えて、通路のあちこちに異常を検知するセンサーや迷った時に出口を指示する信号、地上へ連絡できる電話線設備などが備えられているという。今後はロボットなどを使って自動化することも考えられそうだが、通信やGPSが使えないため現時点ではまだ難しいということであった。
異常気象による大雨や大型化する台風など災害がもたらす危機は年々増えており、南海トラフ地震などへの備えも怠ることはできない。電気、水道に続く重要な生活インフラになっている通信を守る、とう道の存在とその重要性をあらためて感じさせられた取材であった。
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