毎年、スマートフォンメーカーは新たな機能を打ち出し、Appleが築いた巨大な「iPhone」ビジネスをあの手この手で切り崩そうとしている。サムスンが10年前に発表した“ファブレット”(大型スマートフォン)のように、うまくいった例もあるが、物理キーボード、モジュール設計、ブロックチェーンフォン、高度なプライバシー機能、スマートフォンをPC化するドックなど、ほとんどの試みは尻すぼみになった。
しかし筆者はGoogle初の折りたたみスマートフォン「Pixel Fold」のレビュー機を数週間使ってみて、折りたたみスマートフォンは短期間で消えるような、小手先のアイデアではないと考えるに至った。もちろん万人向けではない。特に価格を考えれば気軽に試せるものではないが、大画面がもたらす恩恵は間違いなく実用性につながっている。
地図を見るにも、ゲームを遊ぶにも、動画を見、写真を編集するにも、大画面は素晴らしかった。Pixel Foldは、筆者の感覚ではタブレットに分類される。しかし「iPad」と違って、ポケットに入るタブレットだ。
Pixel Fold、Motorolaの「razr+」、そしてサムスンの「Galaxy Z Fold5」は、折りたたみスマートフォンを大きく進化させた。今はまだ価格も高く、選択肢も少ないが、改良が進めば代わり映えのしないスマートフォンを使い続けるよりも、折りたたみスマートフォンを試してみようと考える人も出てくるだろう。大画面を備えた折りたたみスマートフォンは、仕事に遊びに、1日中スマートフォンを使っている人々にとっては、重要な存在となる可能性がある。
筆者に折りたたみスマートフォンの実用性を確信させたPixel Foldの魅力を紹介する。
Googleが6月に発表したPixel Foldは2つのディスプレイを搭載している。端末を閉じた状態で使う、巨大ではないが小さくもない5.8インチの外側ディスプレイと、端末を開くと起動する7.6インチの広々とした、ほぼ正方形の内側ディスプレイだ。ヒンジはバネが効いており、あえて本を開くように両手で開かない限り、閉じた状態を維持する。
折りたたんだ状態では、一般的なスマートフォンより明らかに厚みはあるが、ポケットに入る程度だ。端末を開くと、あえて目をこらさない限り、ディスプレイの中央を走る折り目は目立たない。
米CNETのLisa Eadicicco記者はPixel Foldのレビュー記事の中で、この端末の将来性を高く評価しつつ、気になる点としてディスプレイを取り囲むベゼルの太さと値段の高さを挙げた。
価格は、ストレージが256GBのタイプが1799ドル(日本では25万3000円)、512GBのタイプが1919ドル(海外のみ、約27万5000円)となる。これは8月11日に海外で発売されたサムスンの競合モデル、Galaxy Z Fold5と肩を並べる高さだ。プロセッサーには地味だが優秀なGoogle純正の「Tensor G2」を搭載する。カメラ構成も悪くない。Googleの「Pixel 7a」には見劣りするものの、メインの広角カメラに加えて、超広角カメラ、セルフィーカメラ、5倍の望遠カメラも搭載する。
Pixel Foldは、サムスンやMotorolaの折りたたみデバイスと同じく、ヒンジを採用した貴重なモデルであり、飽和状態にあるスマートフォン市場を埋め尽くす凡庸なデザイン――「Galaxy Z Flip5」に興味津々のKatie Collins記者の言葉を借りれば「どこにでもある細い板」とは一線を画す。
筆者が折りたたみスマートフォンの可能性を確信するに至った最大の理由は、大画面だ。「 Android」自慢の画面分割機能は設定も使用もクセがあるが、これを抜きにしても大型ディスプレイの魅力は大きい。
Pixel Foldの使用中に最も感動したのは、愛用しているハイキングやサイクリング用の地図アプリ「Gaia GPS」を使った時だ。画面を拡大したり縮小したりしなくても、自分の周囲の状況を簡単に把握できた。明るい日差しの下での見やすさは他のスマートフォンと大差ない。つまり、日差しを遮らない限り、非常に良いとは言えないが、大きな画面は助けになる。
The New York Timesのゲームアプリ「NYT Games」でクロスワードパズルに挑んだ時は、選択したマスの縦ヒントと横ヒントの両方を表示できた。通常のスマートフォンでは縦ヒントと横ヒントを切り替えなければならないため、急いでいる時はわずらわしい。
筆者はスマートフォンで大量の写真を撮るが、編集時は通常、MacにインストールしているデスクトップPC向けの写真編集アプリ「Lightroom Classic」と同期させている。しかしPixel FoldはLightroomを利用した写真編集がやりやすく、操作精度も高いため、便利に使える。画面が大きいおかげで、スマートフォンで写真を編集した時に起こりがちな過剰な彩度やコントラストも発生しにくい。
筆者は本格的なゲーマーではないが、レースゲーム「アスファルト9: Legends」では実際にコースに入り込んだような臨場感を楽しめた。
それ以外のアプリでは、パラダイムシフトが起きるほどの変化はなかったが、画面が大きいことで利便性は高まった。例えば「Gmail」を立ち上げると、画面の左側に受信トレイが、右側に選択したメッセージの内容が表示される。端末を完全に広げ、大画面でYouTubeを見るのは快適だった。端末を半分開いた状態でテーブルやベッドに置けば、スタンドを使わなくてもハンズフリーで動画を視聴できたのも良かった。
最後に、カメラマンとしての評価も記しておきたい。端末を開き、外側ディスプレイをファインダーとして使うことで、高画質のメインカメラで自撮りができる点は重宝した。セルフィーの画質に限って言えば、Pixel Foldは筆者が普段使っているPixel 7aを上回る。しかし、暗い場所での撮影や5倍、10倍の望遠撮影はPixel 7aのカメラの方がはるかに上だ。
言うまでもなく、多くのアプリは一般的なスマートフォンの画面のアスペクト比に合わせて作られている。ハードウェア市場では、Androidタブレットは隅に追いやられたマイナーな存在であり、アプリ開発者が最優先でサポートしたいと考える端末ではない。このことがPixel Foldの足かせになっている。
幸い、レスポンシブデザインが広まり、流動的なレイアウトが可能になったおかげで、多くのアプリは大画面でも違和感なく使える。それでもPixel Foldのレビュー中は多くのトラブルに見舞われた。
例えばAmazonの「Kindle」アプリでは、タップしない限りイラストが大きく表示されず、文字サイズのコントロールも画面にうまく収まらなかった。NYT Gamesアプリの英単語つづりゲーム「Spelling Bee」を遊ぼうとした時は、操作エリアがトリミングされてしまい、広々とした画面をフル活用できなかった。「Google Playブックス」では、本を2段組みで読むことができなかった。
外側ディスプレイと内側ディスプレイの使い分けも分かりにくい。特に残念だったのは、Google自身のポッドキャストアプリで、ロック画面のウィジェットがPixel Foldを開いた時にしか機能しなかったことだ。そのため、一時停止、再生、早送りが面倒だった。ロック画面から「懐中電灯」をオンにしようとした時もうまくいかなかった。
こうしたソフトウェア面の問題は厄介ではあるが、それ以上のものではない。Pixel FoldとサムスンのGalaxy Z Foldシリーズが競い合い、折りたたみスマートフォンのユーザーが増えることで、ソフトウェア開発者がこうした問題点を解消してくれることを願っている。
折りたたみスマートフォンの大画面に対応する開発者が増えれば、Androidタブレットにとってもメリットがあるはずだ。Androidタブレットの市場は、Googleの「Pixel Tablet」のような期待できる新製品が登場しているにもかかわらず、全体として活気に乏しい。
個人的にはPixel Foldを買う予定はない。まずは価格がネックだ。筆者の用途では、カメラ性能が総合的に高いPixel 7が必要だというのもある。何年も開閉を繰り返すうちにヒンジやディスプレイが壊れるのではないかという不安もぬぐえない。
しかし、こうした懸念は筆者が折りたたみスマートフォンの未来に抱いている楽観的な展望を打ち消すほどのものではない。スマートフォンが生活の中心にある人、画面が大きくなることで仕事やエンタメが大きく改善される人にとっては、Pixel Foldは新しい風をもたらしてくれる、新鮮な選択肢となるだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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