Google初の折りたたみスマートフォン「Pixel Fold」は、先行する他社の折りたたみスマホが抱えていた問題点のいくつかを巧みに解消している。たたむと普通のスマートフォンとほとんど変わらない。横幅があるため、たたんだ状態では、サムスンの折りたたみスマホ「Galaxy Z Fold4」の縦に細長いボディよりも、使い勝手は上だ。カメラの質も良い。折りたたみ式だからといって、もう写真の質を諦める必要はない。
しかし数日使ってみて、Pixel Foldが解決できていない根本的な問題が1つあることに気付いた。それは、「折りたたみスマホでなければならない理由」だ。確かに大画面をポケットに入れて持ち歩けるのは便利だが、それは1799ドル(日本では税込25万3000円)を払ってでも手に入れたい価値だろうか。
価格の高さはPixel Foldだけの問題ではない。同じくタブレット並みの大画面を誇るGalaxy Z Fold4も同じような価格となっている。これは、折りたたみスマホがまだ広範な消費者を引き付けられるほど強力な訴求力を備えていないという事実を改めて突きつけている。Googleやサムスンといった業界をリードする企業が価格を引き下げられるようになるまで、タブレット並みのディスプレイを持つ折りたたみスマホはニッチな存在であり続けるだろう。
しかし、Pixel Foldに明るい展望がないわけではない。
Pixel FoldはGalaxy Z Fold4と比べると横幅が広く、スマートフォンというよりはパスポートやMoleskineのノートのように見える。外観は、Z Fold4よりも、むしろOPPOの「Find N」に近い。Microsoftの「Surface Duo」にも似ているが、Surface Duoは1つのディスプレイを折りたたんでいるのではなく、2つのディスプレイを連結している。
Z Fold4はディスプレイを閉じるとヒンジ付近に隙間ができるが、Pixel Foldは隙間なくぴったりと閉じることができる。そのため、閉じた状態での見た目はPixel Foldの方がスマートだ。また、Z Fold4とPixel FoldはどちらもIPX8等級の防水性能を備えており、完全な防塵・防水ではないが、多少の水没には耐えられる。
また、Pixel FoldのカメラバーはGalaxy Z Foldほど出っ張っていないため、閉じた状態でテーブルに置いてもぐらつかない。
ただし、操作性にやや難があることは否めない。後述するように、幅広のカバーディスプレイはPixel Foldならではの魅力だが、片手操作は難しいかもしれない。
折りたたみスマホ最大の欠点の1つは、慣れるまでに時間がかかることだ。厚みと独特の形状が一般的なスマートフォンから乗り換える際のハードルになる。幸い、Pixel Foldのカバーディスプレイは横幅があるため、違和感はやや軽減されている。
それでも慣れが必要な点は多いが、Pixel Foldの外部ディスプレイは折りたためない普通のスマートフォンとあまり変わらない形をしているため、アプリや設定を操作する際の違和感は小さい。特に、タイピング時の違和感は減った。それに対して、Galaxy Z Fold4の外部ディスプレイは縦に細長いため、キーボードを使おうとすると、かなり窮屈に感じる。
Pixel Foldの5.8インチのカバーディスプレイは、動画再生にも大いに役立つ。数字だけ見れば、Galaxy Z Fold4の6.2インチの方が大きいが、アスペクト比を考えると、Z Fold4の細長い画面よりも、Pixel Foldの画面の方が動画は見やすいように感じる。
同じことはメインディスプレイについても言える。例えばPixel Foldには「テーブルトップモード」と呼ばれる機能があり、ノートPCのようなL字型で開くと、それに合わせてソフトウェアの見え方が調整される。サムスンにも「フレックスモード」と呼ばれる似た機能があり、スマートフォンを半分に折りたたむとアプリがディスプレイの上部に移動する。
テーブルトップモードに対応しているアプリはまだ少ないが、幸いなことに「Netflix」や「Disney+」「Hulu」といった人気ストリーミングサービスは対応済みだ。「Google Meet」も対応しているため、本体を机に置いた状態でビデオ通話ができる。しかも、非常に簡単だ。Google Meetで同僚との通話に参加したら、Pixel FoldをL字型にしてテーブルに置く。すると、すぐにGoogle Meetの画面がディスプレイの形に合わせて変わる。しかしテーブルトップモードの場合、インナーカメラの場所のせいで、ビデオ通話に適した角度を見つけるのが難しかった。
テーブルトップモードの欠点は、L字型に開いた状態での操作が難しいことだ。筆者の場合、Pixel Foldをいったん手に取って完全にたたむか、完全に開いた状態にしてからアプリを切り替えたり、別の動画を再生したりするようにしている。この点では、2022年にサムスンの折りたたみスマホ製品に追加されたタッチパッドが優秀だ。この機能をオンにすると、折りたたんだ時に下半分に来るディスプレイをトラックパッドとして使えるため、ディスプレイの上半分で動作しているアプリを操作しやすい。
個人的にはPixel Foldの形の方が好みだが、インナーディスプレイに関しては、さまざまな点でGalaxy Z Fold4に軍配が上がる。例えばZ Fold4の7.6インチのAMOLEDディスプレイは色が鮮やかだ。ベゼルが細いため、全体的にすっきりとした印象を与える。Pixel Foldは、開くとインナーディスプレイの真ん中に折り目が見える。この折り目はGalaxy Z Fold4にも見られるが、触れた感じはPixel Foldの方が自然だった。
GoogleはPixel Foldのマルチタスク機能をアピールしている。インナーディスプレイの大きさを考えれば当然だ。分割スクリーンモードにすれば、複数のアプリを同時に使ったり、アプリをまたいでコンテンツをドラッグ&ドロップしたりすることが可能だ。Pixel Foldの場合は一度に開けるアプリは2個までだが、Galaxy Z Fold4の内側ディスプレイは最大3個のアプリを同時に使える。
これをPixel Foldの欠点と捉える人もいるかもしれないが、個人的には日常生活で3個以上のアプリを同時に使うことはない。Pixel FoldやZ Fold4のようなスマートフォンの場合はなおさら、1個のアプリでインナーディスプレイ全体を使った方が高い没入感を楽しめる。
しかし、分割画面モードの便利さを感じた時もあった。例えば、あるアプリでアカウントのパスワードをリセットしなければならなかった時は、アプリをいちいち切り替えなくても、ログインコードを「Gmail」からすぐに持ってくることができた。また「Slack」の画面を表示しながら、ディスプレイの他の部分で別のこと、例えば、「Spotify」で音楽を聴いたり、メールを確認したり、ソーシャルメディアのフィードを眺めたりすることもできた。
しかし、Pixel FoldにはGalaxy Z Fold4に搭載されている、ある重要な機能がない。それは、マルチウィンドウで複数のアプリをまとめてピン留めしておくと、いつでもセットで呼び出せるようになる機能だ。Pixel Foldでは、2個のアプリを同時に使うことはできるが、同じ組み合わせを保存しておき、後から呼び出すことはできない。
Pixel Foldの分割スクリーンモードでは、Galaxy Z Fold4と同様に、アプリをまたいでコンテンツをドラッグ&ドロップできる。この機能を使って「Googleフォト」の写真を「メッセージ」アプリのテキストメッセージ欄やGmailのメール画面に移してみたが、簡単だった。しかし、「YouTube」の動画をメッセージに貼り付けようとした時はすんなりとはいかず、何度かやり直す羽目になった。折りたたみスマホはそもそも慣れが必要なポイントが多いため、こうした問題は速やかに解決されることを期待したい。
しかし、分割スクリーンモードの操作性が十分に高まったとしても、「ディスプレイを分割して2個のアプリを同時に使える」ことが、折りたたみスマホを買う説得力のある理由になるとは思えない。筆者はディスプレイが1つしかないスマートフォンでアプリを切り替えながら使うことに慣れているので、複数のアプリを同時に使えるようになったとしても、別の意味で考えてしまうだろう。少なくとも現時点では、ホーム画面やアプリ選択画面に戻ってアプリを切り替える方が自然に感じられる。10年以上続けてきた習慣を変えることは難しい。これは筆者に限らず、初めて折りたたみスマホを使う人の多くに当てはまるはずだ。そしてこれはPixel Foldに限らず、折りたたみスマホという製品カテゴリー自体がなかなか普及しない理由を説明していると言えるかもしれない。
Pixel Foldのインナーディスプレイは確かに広いが、全画面表示にできないアプリが多いことは指摘しておく必要があるだろう。「Netflix」「TikTok」「Amazon」、ゲームの「Candy Crush Soda Saga」など、一部の有名アプリはPixel Foldの大画面をフルに使って表示できるが、同じく人気の高い「Instagram」「Snapchat」「Twitter」といったアプリは、画面の中央部分のみを使って表示される(ちなみにこれらのアプリはGalaxy Z Fold 4では全画面で表示できる)。外部ディスプレイに表示していたアプリが、端末を開くとインナーディスプレイに表示されるといった、ディスプレイ間のアプリ移動はおおむねスムーズだった。タブレットサイズのメインディスプレイから外部ディスプレイに切り替えた際に、「Discord」がディスプレイのサイズに合った表示にならなかったことが1度だけあったが、次の機会には問題なく動作した。
今、筆者が最も楽しみにしているのは外部ディスプレイとインナーディスプレイの連携が今後どう進化するかだ。GoogleはPixel Foldを発表した際、デュアルスクリーンを活用したリアルタイム翻訳のデモを行った。これは異なる言語の話者と話をする際に、相手が話した言葉の翻訳結果が自分の見ているディスプレイに、自分が話した言葉の翻訳結果が相手の見ているディスプレイに表示されるというものだ。Pixel Foldの内側ディスプレイと外部ディスプレイにそれぞれ翻訳結果が表示されるため、相手が何を言ったのかを双方が自分の言語で確認できる。この機能は、近く登場する「Android 14」に搭載されるため、まだ実際には試せていない。
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