7月27日から29日まで3日間にわたって、「食×テクノロジー&サイエンス」をテーマにしたフードテックイベント「SKS JAPAN 2023」が開催された。27日に開催されたセッション「投資家からみたフードテックの最前線」では、国内外のベンチャーキャピタル(VC)経営者らが登壇し、グローバルや日本におけるフードテック投資の現状について議論した。
米ニューヨークとシンガポール、パリを拠点にシーズレベルから積極的にフードテックに投資するBig Idea Ventures創設者でGeneral Managing PartnerのAndrew Ive氏は、フードテック投資における現状について「新しいイノベーションが生まれているものの、資金調達は厳しい状況にある」と語る。
「この4カ月でグローバルにおける約2000の投資状況を見てきたが、非常に興味深い企業が生まれており、新しいイノベーションを食産業にもたらしている。しかしフードテックカテゴリーにおける資金は枯渇しつつあり、資金調達という観点では非常に難しい状況にある。『フードテックは儲かる』と参入したVCはAIやWeb3などの新しいカテゴリーに移ったためだ。しかし、食品業界を理解している賢い投資家は残っており、素晴らしいイノベーターへの資金投資につながっている」(Andrew Ive氏)
アグリテックを中心に投資を行い、フード・アグリテックのニュースサービス「AgFunder News」には8万5000人を超える購読者を持つAgFunderでVC Investorを務めるAngela Tay氏も同意する。
「以前は資金調達に半年から9カ月ほどかかっていたが、現在はその2倍くらいになっている。評価額も70%程度にまで下がっており、スタートアップは資金調達をしっかり検討する必要がある。フードテックに理解のある投資家は残っているが、そういった投資家は財務状況を1行1行しっかりと細かく見るため、企業家は利益を出すための計画を綿密に立てる必要がある」(Angela Tay氏)
フード・アグリテックに特化して投資を行い、東京・神楽坂に和食レストラン「kemuri」も運営するkemuri venturesの代表パートナーを務める岡田博紀氏は、日本においてはCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)が重要な役割を果たすと語る。
「日本ではスタートアップの事業の成長を、資金調達だけでなく共創によってサポートするCVCの影響が非常に大きい。IPO(株式公開)後もサポートするというのも標準的なVCファンドとの違いだ。しかしCVCの主な投資の目的は共創を通じたオープンイノベーションにあるため、商品がすでに完成していて、成長ステージにあるスタートアップだけに投資するため、シードステージの投資は減速している状況だ」(岡田氏)
持続可能なシステムを開発する企業への投資を行うtaliki代表取締役の中村多伽氏は、日本においてはプラントベース食品カテゴリーへの投資が厳しい状況になっていると語る。
「日本では豆腐や精進料理などプラントベース食品はたくさんあるが、『ビーガン』などは宗教的であるとか極端であると考える人々も多く、消費者市場で理解を得るのが難しい。ただ、企業はESG(環境・社会・ガバナンス)投資やサステナビリティなどの観点から関心を示しており、パートナーやスタートアップを探している状況だ。そういった意味ではスタートアップにとっては非常に素晴らしいチャンスがある」(中村氏)
Andrew Ive氏は「当初立ち上げたファンドではBtoCのプラントベース食品に着目していたが、実際にイノベーションが起こっていたのはBtoBだった」と語る。
「われわれは最初にニュープロテインファンドを立ち上げたが、実際にイノベーションが起きているのは新しい植物性ソーセージなどのBtoC商品を作る企業ではなく、新しい素材や技術を開発するB2Bの企業にあった。そこでここ3〜4年は培養や発酵などの技術をより重視している。プラントベース食品はまだ消費者が求めている味や食感、価格を実現していないため、リピーターがなかなか出てこない。このカテゴリーが伸びるためにはリピーターが必要だ。ただし培養や発酵技術は伝統的な肉や水産物、乳製品などとまったく同じものを作れるようになる。CVCも脂肪を代替する油や味、着色料などの添加物をどうやって代替タンパクカテゴリーに持ち込めるかに注目している」(Andrew Ive氏)
岡田氏は「日本の食品系スタートアップはECやDtoCが多く、独自の技術を持つ企業は少ない」と語る。
「われわれは独自の技術を持たない企業は競争優位性を保つのが難しいため、投資ターゲットから外している。独自の技術がなければ、上場できたとしてもその後に苦戦して株価が下がってしまうことが往々にしてある。そのためフードテックのスタートアップは優秀なエンジニアを採用して独自の技術を社内にしっかりと育てて、自分を守る必要がある」(岡田氏)
企業の価値を高めるためには、テクノロジーとマーケット、チームの3つが必要だとAngela Tay氏は語る。
「私たちが投資する会社は、すぐにリバースエンジニアリングできない、自社を防御できるテクノロジーを持っていなければならない。そしてそのテクノロジーを投入できる、しっかりとした規模もしくは拡大できるマーケットが必要だ。そして重要なのがチームだ。創設者の能力、力量などを見込んで投資するが、計画を実行まで持っていき、知財を拡大し、そしてマーケットにディスラプションをもたらせるかどうかを見て投資を決めている」(Angela Tay氏)
大学や研究機関に眠っている知財を活用するため、Big Idea Venturesは「Rural Partners Fund」というファンドを立ち上げたとAndrew Ive氏は語る。
「25の大学と提携してRural Partners Fundを立ち上げた。それぞれの大学はわれわれに知財を開放し、一緒にサステナブルパッケージングやフード・アグリテック関連の課題解決を目指したスタートアップを立ち上げている。食は地球として目指すべき姿を実現するために最も重要な手段の一つだ。大学や企業の中には多くの知財が埋もれており、われわれはそれを市場に出す手伝いをしている」(Andrew Ive氏)
日本のフードテックスタートアップが海外に進出したいと考えた場合にすべきことは3つあると岡田氏は語る。
「フード・アグリテックのスタートアップは独自技術があればグローバルの土俵で戦える。ただそのためには3つのことが必要だ。1つ目は優秀な人材を引き付けるための仕組みで、2つ目は大学の研究機関や大手企業の研究所と同じレベルで独自の技術を開発すること。3つ目は、シードステージやアーリーステージに資金を引き付けるための政府のバックアップも必要になる」(岡田氏)
逆に日本市場に海外のスタートアップが進出するためには、「壁を壊す必要がある」と中村氏は語る。
「日本の市場に入るためには、壁を壊す必要がある。1つは言語の壁だ。日本の企業は海外の企業とディスカッションすることに慣れていないので、デューデリジェンス(投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどの調査)をするのも難しい。それが完璧にできていて、イノベーションが素晴らしくても、日本の企業は自分の上司を説得するための根拠や理由が必要にある。これは大きな文化的な違いだ。なぜわれわれと一緒にやりたいのか、なぜ日本に入っていきたいのかという根拠が必要になる」(中村氏)
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