ポータルサイト中心だった部屋探しが変わってきている。不動産×ITサービスの開発、運営を手掛けるいえらぶGROUPは、不動産系SNSで総フォロワー数が53万人以上。TikTokやInstagramなどの動画コンテンツを見て、部屋探しをする人に向け、独自の取り組みを開始しているという。SNSでの部屋探しをしている世代に刺さるコンテンツが求められる中、いえらぶGROUPは、7月19〜20日に開催した「賃貸住宅フェア2023」で「不動産会社に特化したSNS・動画活用術」をテーマにセミナーを実施した。
いえらぶGROUP 常務取締役の庭山健一氏は「僕自身がSNSど真ん中世代かというとそうではないが、今後の部屋探しにおいてSNSは避けては通れない部分。Z世代を中心に部屋探しの常識が変わってきている」と現状を説明する。Z世代は現在26歳以下の年齢層を指すが、いえらぶが実施したアンケートによると、「部屋探しでSNSを利用したことがある」人が半数以上にのぼる。
「SNSで部屋探しってどういうことだろうと思われるかもしれないが、アンケート結果を見ると、30、40、50代のお客様でも意外とSNSを使っていることがわかる。こんな部屋がいいなだったり、あんなインテリアにしたいなだったりと何かの参考にSNSを使っている。僕らの世代のキングオブメディアと言えばテレビだったが、今はもうそんな時代じゃない。TikTokやYouTubeが当たり前になっている」(庭山氏)と強調する。
こうした現状を踏まえ、庭山氏は「今こそ大きなチャンスが訪れている。昔は会社を立ち上げてテレビCMを流すことに強い憧れがあったが、テレビCMを流せるのは一部の大手企業のみ。やってみたいなと思っていても見ているしかなかったが、今はSNSの個人のチャンネルで戦っていける。SNS上に部屋を見てもらえるような状況を作っていけば勝負ができる。これはできる、できないではなくて、ノウハウを知っているか知らないかの問題」とした。
いえらぶでは、2022年11月に住×SNS、動画制作に特化した、いえらぶクリエイターズを設立。代表取締役の川口風馬氏は以前は求人広告関連の会社に勤めており、動画は個人的に制作していたとのこと。「趣味で撮影や編集をしていたが、自分の部屋探しをする時に、不動産業界はほかの業界に比べて、圧倒的にSNSに載っている情報が少ないなと感じたのが不動産系のSNS運用をはじめたきっかけ。不動産の場合は契約なども複雑で、情報もあまり身近でない。その部分をSNSで発信していけば広がる可能性があると思った」と振り返る。
当初は友人と2人でInstagramとYouTubeを開設し、1カ月でフォロワー1万人、1年で10万人を達成。現在ではYouTuberや映像編集者などを育てるバンタンクリエイターアカデミーで講師も務める。
セミナー内では、川口氏が運営するTikTokの「部屋に行きたい川口」を例に出して説明。2カ月ほど前から運用しており、総再生数1100万回、登録者数は1万6000人を数える。動画を見た庭山氏が「ちょっと人の生活をのぞいているような、いけない気持ちになった」と感想を話すと、川口氏は「狙い通り。うれしいですね」と応えた。
動画のジャンルはインタビューもので、街中の人に声をかけた風の入り方をして、そこから部屋紹介につなげる。「この人ってどんなところに住んでいるだろうや、この人の秘密を知りたいというような深層心理を突いて動画を作っている。動画自体は1分15秒だが、その中に緻密な仕掛けが仕込んである」(川口氏)とし、「最初の2秒」「コメントの誘発」「視聴維持率」の3つのポイントを紹介した。
最初の2秒とはいわゆるオープニングのこと。川口氏は「TikTokのほか、YouTubeの『ショート』、Instagramの『リール』など縦型のスライド動画は次々とスライドできてしまうので、どんなに面白くても最初の2秒が面白くないと飛ばされてしまう。これはYouTubeなどの長尺動画と大きく違うところ。動画を選んで視聴していないため、最初の2秒で印象付けられなければ、中間以降に興味がある内容が話されていたとしても全く意味がない」と言い切る。
部屋に行きたい川口の中では、AirPodsやお金を渡すなど、インパクトのあるオープニングを採用。「もちろん仕込みなので安心してほしい。こういうネタは、オリジナルで生み出しているものもあるが、どこかからバズっているものをサンプルリングしてくることも多い。海外の動画を参考にすることもある」(川口氏)とした。
コメントの誘発については「人気アニメやゲームが動画の中にチラっと映り込むとコメントがたくさんつく。コメントが増えるとおすすめに表示されやすい、レコメンドされやすくなるのはアルゴリズム上決まっているが、それ以上に大事なのは、ついたコメントを、ほかの視聴者が見ている時間も視聴時間につながるということ。これが非常に大事。SNSで重要な指標は視聴時間になるので、これを伸ばすためにコメントにつながりやすい仕掛けを入れている」(川口氏)と明かした。
ただし、人気ゲームなどを大々的に扱ってしまうと少し媚びている印象になる。そのためいくつかコメントにつながりそうなものを忍び込ませておいて、コアファンがコメントしたくなる仕掛けを作ることが重要なのだという。
最後に視聴時間となる視聴維持率について説明した。「最も重要な指標が視聴維持率。Instagram、TikTok、YouTubeと動画媒体を扱うSNSが増える中で、どれだけ視聴者の時間を奪えるコンテンツなのかというのが重要になる。そのためには視聴者を飽きさせないような動画をつくることが大事なので、目まぐるしく、テンポのよい動画が求められている。先程の1分15秒ほどの動画も、40〜50カットを使用しており、1カットは長くても2秒程度。それに対し撮影時間は1〜1時間半かけている。コンテンツによっては、オープニングとエンディングをつなげてループさせるような仕掛けも取り入れると効果的」(川口氏)と加えた。
これを受けて庭山氏は「こういう動画を作らないといけないという話ではない。ただ、こういう動画をみんな喜んで見ているという感覚はもっておくべき。実際、不動産会社が動画を作る理由は、空室を埋めたいから。人気の動画を作っても意味がないのではと思われる人もいると思うが、まずは話題性を取るのも大事なことだと思う」とコメントした。
続いて川口氏は「正統派のルームツアーコンテンツ」としてInstagramの「your_room_is_good」を紹介。フォロワーは約18万人を数える。「SNSの運用代行でご依頼いただく中で、最も多いのがInstagram。なぜかというと、TikTokやYouTubeは動画メディアなので、動画を撮影するとかなりの労力が必要になるが、Instagramは過去に撮影した物件の画像などを活用できて、始めやすいから」(川口氏)と注目度は高いという。
川口氏によると、Instagramが評価するポイントは関心度、親密度、鮮度の3つ。「この基準が高ければ高いほどInstagram内での評価がどんどん上がる。逆に低いとフォローされていても投稿やストーリーズに全く表示されない仕組みになっている。フォロワーは多いが、インプレッション数が低い、いいねがつかないと感じている場合はここが課題になっていることが多い」とInstagramのトップページの仕組みを解説する。
「InstagramはほかのSNSに比べ若干閉鎖的。フォローしている人の投稿やストーリーしかトップページに表示されない。それに対しYouTubeやTikTokは、フォローしていない人のコンテンツも出てくる。Instagramで新しいフォロワーを見つけるには、ハッシュタグや画像を検索する必要がある。そのため、露出度は上げにくいが、その分フォローしてくれれば、フォローしている人の投稿がトップページに出てくるので、来客促進にはかなりつなげやすい」(川口氏)と特徴を話す。
そのため気をつけたいのが「質の高い投稿」を続けること。「これはイコールエンゲージメントが高い投稿ということ。エンゲージメントとは、いいねやコメント数、保存数といったフォロワーのリアクション。見えないところでは視聴維持率やプロフィールへの遷移率も含まれる。これらのデータは無料のプロアカウントに移行すればみられるため、ぜひ移行してほしい」(川口氏)とした。
川口氏は「実践編」として、Instagramのプロフィール欄についてアドバイス。「例えばアカウント名に『新宿 賃貸』という風に場所などをきちんと記載することが大事。これによって、上位に表示されやすくなる。今どれだけフォロワー数が少なくても上位表示される可能性はあるので、今すぐにプロフィールから見直してほしい。また投稿のコンテンツについては『基本3色』で抑えるとまとまった印象になる。これはできれば、毎回同じ3色を選ぶと効果的で、色味を統一することで、トップページに飛んだ時の統一感が出るため」とした。
「あるあるなInstagram投稿として、物件紹介、社員紹介もして、さらに社員が食べたものなども紹介されているアカウントがあるが、それではトップページに飛んだ時に『何のアカウントだろう』と視聴者が困惑してしまってフォローにつながらないことがある。統一感を意識してほしい」と付け加えた。
投稿する画像については「美しさがとても重要。基本的には水平、垂直で撮影し、奥行き感のある写真だと良い。撮影機材はスマートフォンで大丈夫。グリッド線という機能があるので、そちらを使用するとバランスが取りやすくなる。次に重要なのが言葉選び。不動産は一般の視聴者が慣れ親しんでいない単語などもあるので、ユーザーの目線に立って、優しい言葉選びをしてコンテンツを発信できるかが重要。またよく聞くお悩みとして『投稿するネタがない』があがるが、そういう時にはまとめ投稿を活用したい」(川口氏)とした。
川口氏は実際に使っている機材やアプリについても紹介。「プロとして活動しているので、プロ用のカメラを使ったりしているが、基本的には超広角撮影に対応した『iPhone 11』以上であれば、撮影はiPhoneで問題ない。編集についてもTikTokが提供している『CapCut』で対応できると思う」とコメントした。
これらの説明を受けて庭山氏は「最初にお金をかけてはだめ。スマートフォンで十分。CapCutもテンプレートが豊富で使いやすい。編集もスマートフォンでできるため、できる限り活用しながら、SNSの感覚を身に着けてもらうことが大事だと思う」とした。
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