インドネシアと聞くと、あなたはどんなイメージを浮かべるだろうか。バリ島、ジャワ舞踊、ガムラン、バティック、人口2億7000万人のイスラム教国、鉄道ファンにはたまらない日本の列車が多く走っている国、6月の天皇皇后両陛下の公式訪問――など、人によってイメージするものはバラバラだと思う。
筆者はコロナ禍の2020年、日系デベロッパーの取材でジャカルタ在住のインドネシア人社員の方に話を聞いた。話を進めるうちに、コロナ対策の進捗状況や首都中心部の物価水準は、もしや日本ととも同じレベルなのでは、という感覚を覚えた。
そのほか、海外クラウドソーシングサイトでは、「ジャパニーズ・マンガ」「ジャパニーズ・アニメ」の項目における作画の個人事業主は、今や9割がインドネシア人だ。現地でどれだけ日本のマンガが流通しているのかも知りたくなった。
羽田からは朝10時台という絶好の時間帯に、ANAが毎日ジャカルタ便を就航している。時差は2時間、飛行時間は約7時間。開発の進む首都・ジャカルタで、ワーケーションを試みた。
6月14日、現地時間で16時過ぎにジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港に到着した。実は現地では出国の2日前にインドネシアの入国規制や国内移動規制が緩和され、ほぼほぼ日本と同じようなコロナ対策にシフトしていた。具体的に言うと、インドネシアへの入国要件となっていた2回分のワクチン接種証明書の提示や、健康アプリ「SATUSEHAT」のダウンロード、国内移動に伴うワクチン証明書の提示、そして公共交通機関におけるマスク着用は不要となった。
日本の国際空港もコロナ禍で電子化が一気に進んだが、スカルノ・ハッタ国際空港も同様だ。観光・商用目的での訪問は空港でもビザ・オン・アライバル(VOA)を取得できるが、在インドネシア日本国大使館のホームページで、事前に約5000円で取得できる。入国審査の時に携帯でPDFの画面を見せる仕組みだ。また、税関申告は完全に事前申請のみ。筆者はうっかり申請を忘れてしまい、空港で在インドネシア日本国大使館のホームページを見て、質問に答えながらゲートをくぐり抜ける2次元コードを取得した。
6月14日の為替レートは、1ルピア0.0094円。ゆるやかに円安が進んでおり、10万ルピアがだいたい1000円の換算。ルピアの0を2つ取った値段が今の日本円と考えると、計算がしやすかった。
空港の両替所では、5000円程度の香港ドルを持っていったが、残念ながらルピアには変えてもらえず。そのほか、ベトナムのドンとタイのバーツは少額すぎて変えられず。韓国の3万ウォンと、日本円2万1000円をルピアに変えた。合計6日間滞在したが、お財布を出すタイミングの3割はクレジットカードで、残りの7割を現金で支払った。移動の多い人は、もう少したくさん現金を持っているといいかもしれない。
滞在前にスカルノ・ハッタ国際空港から、今回滞在するSudirman(スディルマン)地区のAirbnbのマンションまで、どれくらい時間がかかるのか「GoogleMap」で調べると、赤やオレンジ、青のラインが引かれているのが気になった。
「交通渋滞かな?」と予想していたらその通りで、さすがジャカルタは渋滞の街。GoogleMapのリアルタイム表示に恐れ入った。信じられないほど正確で、赤いラインにさしかかるとテコでも動かないほど。空港から最寄りのマンションまで「早ければ1時間弱、渋滞に巻き込まれたら2時間」と言われていたのがよくわかった。なお、外国人に慣れているBluebird Taxiは、夕方の渋滞を見越して2時間の固定料金で決済してくれた。
ジャカルタには、SCBD(中央ジャカルタ)や日本大使館が近くにあるThamrin(タムリン)、リッツ・カールトンやロッテモールがあるMega Kuningan(メガクニンガン)、地元の人にも人気のBlok M(ブロックM)など、さまざまな地区がある。今回、筆者は日系企業が多く日本食スーパーもあるSudirman(スディルマン)地区にして、本当に暮らしやすかった。
今回の宿は“ジャカルタのイオンモール”のようなCityWalkの上にあるCitylofts Apartment。住んでみた感想は、4割が住居として使われ、6割は事務所として使用されている印象だった。部屋がとにかく広い。1階は80平米、2階のロフト部分は40平米といったところ。各階ともにトイレがあり、1階にはキッチン、2階にシャワーがある。
この広さで、5泊6日で2万7000円だった。1泊5400円。現地で知り合ったジャカルタ在住の日本の方々も、この金額には驚いていた。
マンション階下には日系スーパーマーケットのPAPAYA FRESH GALLERYがある。ほかのスーパーに比べてさぞ値段が高いかと思いきや、ローカルコンビニとも遜色がなかった。水は安い。1.5リットルで6500ルピア(61円)。牛乳は日本より高めで3万3000ルピア(310円)、日本では急に値上がりした12個入り卵1パックは1万8000ルピア(170円)。
そのほかは、東京の物価水準とほぼ同じか、ジャカルタが高めの時が多かった。ちなみにスターバックスコーヒーのホットコーヒー・グランデとチョコレートクロワッサンは、7万ルピア(658円)だ。
なお、筆者のようなライターがワーケーションをするには、確認を怠りたくないのが「集中して原稿の書けるテーブルと椅子」だ。コンセントが近くにあるか、Airbnbで過去に泊まった利用者がWi-Fiに関して苦情を書いていないか。Airbnbで宿を決める時は、とにかく写真をたくさんチェックするに限る。
いくらAirbnbのマンションが快適だからと言って、家に閉じこもるわけにもいかない。現地在住の方に伺っても、旅行者の移動手段はタクシーが一番だという。常に渋滞とにらめっこのジャカルタ滞在だが、非常に正確なGoogleMapをアプリ内に取り込んだBluebird Taxiのアプリ「My Bluebird」の使い勝手の良さには驚いた。
言語を英語に設定して、Rideを押す。すると、GoogleMapが取り込まれ、現在地から行きたい場所までの地図が出る。
すると、アプリ下部に、迎えに来て欲しいCitylofts Apartmentまでは2〜3分で到着することがわかり、さらに車種や料金形態が選べるようになっている。
一番上の3人乗りの普通のトヨタ車は、メーターで4万3000ルピア(404円)から5万2000ルピア(489円)ぐらいの見込み。6人乗りのトヨタのバン型も同様。さらに、渋滞を見越して事前に高めに設定する確定料金だと5万2000ルピア(489円)とのこと。何度かメーター乗りを試してみたが、確定料金より高くなることが多かった。しかも確定料金の場合は、クレジットカード決済ができる。
心の底から確定料金でよかったと思ったのは、帰国する時だ。空いていたら45分で着くAirbnbからスカルノ・ハッタ国際空港までの道のりが、道路工事と渋滞に次ぐ渋滞で2時間かかった。20万4000ルピア(1918円)の確定料金でなければ、生きた心地がしなかっただろう。ちなみにBluebird Taxiの初乗りは6500ルピア(61円)だ。
渋滞に巻き込まれたら、運転手さんとのおしゃべりに限る。Bluebird Taxiの運転手さんは簡単な英語は、お手の物だった。でも、長時間乗るとしたら、もっと突っ込んだ話がしたい。
そこで使いこなしたいのが、「ポケトーク」などの原型となった研究用の音声翻訳アプリ「VoiceTra」(ボイストラ)だ。
筆者はかれこれ15年ほど使っているが、現在31言語にまで広がった。ウクライナ語、マレー語、ラーオ語、ウルドゥ語、クメール語まで! 昔はせいぜい10言語だったのに…。ちなみにインドネシア語は、このアプリの古参の言語。充実の一途をたどっている。
このアプリのマイクを使って日本語で話しかける。
インドネシア語の翻訳と、インドネシア語に翻訳されたものをさらに日本語に直した時の意味が出てくる。これは日本語がいかに直接表現でなく、婉曲表現を多用しているかの表れで、伝えたいニュアンスが違っていたら、極力もとの日本語を直接表現に変えればいいわけだ。
渋滞が長引き、こちらが日本人だとわかると、運転手さんは携帯の「YouTube」から日本語の音楽をかけてくれる。「星野源の曲だけど、コレ、ニコ生の『歌ってみた』みたいな感じかな。誰が歌っているんだろう…」というものすごく突っ込んだ内容も、VoiceTraならお手の物だ。
翻訳したインドネシア語の音声を聞くと、運転手さんもインドネシア語で返答したくなる。「インドネシア語」のところとマイク部分をタップして、インドネシア語で運転手さんに話してもらう。これで15ターンぐらい会話の応酬ができた。あっぱれ、AI!
タクシーだけ乗っていてもつまらない。最後に、「タモリ倶楽部」2021年1月22日放送の「タモリ電車クラブついに世界進出!? オンライン鉄道旅行 大試乗会」後編で紹介された、KAIコミューター(KAI = Kereta Api Indonesia)のジャカルタ・コタ駅に赴いた。
地下鉄「MRTジャカルタ」も「LRTジャカルタ」も、これから乗る郊外列車「KAIコミューター」も、日本の「Suica」や「PASMO」同様、プリペイドカードでの乗車だ。
プリペイドカードの買い方がわからず、VoiceTraで地元の人たちに会話を試みると、カードを売っている窓口まで連れて行ってくれた。
KAIコミューターのプリペイドカードは、デポジット代も含め4万ルピア(376円)だった。さて、タモリ倶楽部で放送されていたように、日本で役目を果たした車両ばかりなのかとホームを見てみると、JR武蔵野線と東京メトロの千代田線らしき車両があった。
筆者が乗るべき東京メトロ千代田線車両が、親切な駅員さんと話し込んでいるうちに発車してしまい、次の電車を待ったら、東急大井町線の車両がやって来た。
ジャカルタ・コタ駅からマンガライ駅を経由して、最寄りのカラット駅まで向かう。車内はとても綺麗だ。お掃除の人が車内の先頭から最後尾まで、一直線に消毒液を垂らしていく。すると後ろからモップがけの人がやって来て、消毒液を伸ばしていく。乗客は皆、足を浮かせて、モップがけの人のお掃除を助ける。
人口の約9割がイスラム教というインドネシア。女性は「ヒジャブ」を付けている人もいれば、そうでもない人もいる。淡い薄紫のヒジャブが人気のようで、ヒジャブを中心におしゃれを楽しんでいる人が多い。そして、お年寄りが乗ってくるとすぐに席を立つ。観光客である筆者が席を譲ろうとすると、隣に座るヒジャブを付けた女性が「あなたは外国人だから大丈夫よ」と、笑顔で柔らかく制された。
ジャカルタに来て感じたのは、皆、東京同様、スマホに釘付けな人が多いことだ。だけど、微笑をたたえながらスマホの画面を眺めている人がほとんどだ。日本に帰ってきてまず感じたのは、険しい表情でスマホを眺める人たちの多いこと。日本、ちょっと怖い。あまりにも表情が疲れている。
15〜64歳までの人口が約7割で、若い年齢の人口が多いインドネシア。ほぼ物価も東京並みのジャカルタで、笑顔と活気に包まれて仕事をしてみて、体の細胞が若返った気がした。
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