これからの「Google検索」の結果は、薄い色がかかったボックスに表示されるようになりそうだ。
それこそまさに、Googleが年次開発者会議「Google I/O」でこの5月に披露したことだった。2023年のテーマは人工知能(AI)で、2時間に及んだ基調講演では、この用語が140回以上言及された。Googleが発表したAIプロダクトは、実際に一般向けとして公開される予定で、今後を憂慮する同社にとっては、競争の激化に対応した180度の方向転換となる。
2022年11月、OpenAIが「ChatGPT」を公開し、ほとんど万人から称賛された。新しい応答形式で、どのような質問にも答えるように思える生成AIエンジンを、にわかに誰もが利用できるようになった。これを実現しているのが大規模言語モデル(LLM)であり、LLMは本質的に「大幅に強化されたオートコンプリート」のようなものとして機能する。大量のテキストデータを用いて、次に続く最適な単語を見つけるのである。
ChatGPTは、その性能と手軽さから、消費者向けウェブプラットフォームとして歴史上最も急速な成長を記録した。それを受けて、MicrosoftはOpenAIに対する投資を増やし、2023年2月にはChatGPTの技術を「Bing」検索に直接組み込んだ。それ以来、Bingのトラフィックは16%近く増加している。MicrosoftがAIを組み入れたBingを発表した前日、Googleも独自の生成AIエンジン「Bard」を発表した。ところが、公開して早々につまずいたため、その過程で株価が急落し、時価総額1000億ドル(約13兆8500億円)を失う結果となった。株価は後に持ち直し、今のところ2023年の最高値に達している。
多くの意味で、今回のGoogle I/Oは、消費者向けAI市場への心許ない参入について、その是非を問うものだった。また、懐疑派(と投資家)に対しては、たとえ同社の主力製品をひっくり返すことになるとしても、インターネット検索の最前線に踏みとどまるために抜本的な措置を講じるという積極姿勢を示すものでもある。Google検索といえば長年の間、われわれが製品情報を探すとき、最新ニュースを知りたいとき、その他でインターネットを利用するときに立ち上げるエンジンだった。そして、多くの企業が、ここから利益をあげている。
今回発表された「Search Generative Experience」(SGE)は、Google検索の実験的なバージョンであり、検索結果に上位10件のリンクを表示するという、過去四半世紀にわたってGoogleの特徴だった形式の優先順位が下げられることになる。代わりに、どのような質問も、どの程度具体的かにかかわらず、色付きのボックスに答えが表示される。ボックスは、答えの量に応じて拡大する。
「これからは、ユーザーに代わってGoogle検索が難しい部分を担う」と、Googleのエンジニアリング担当バイスプレジデントであるCathy Edwards氏が語っている。現在のGoogle検索では、複雑な質問を小さい複数のフレーズに分割し、ユーザーが自分で検索結果を選り分け、頭の中で答えを組み立てなければならない、と同氏はGoogle I/Oで説明した。SGEでは、その部分がすべて自動化されるうえ、フォローアップの質問を続けることもできるという。
これは同時に、いくつものサイトにアクセスする必要がなくなるということでもある。ウェブページの頼みの綱であるクリックが不要になるわけで、広告主導というインターネットのビジネスモデルが一変する可能性もある。
Googleは、オンライン検索の世界で圧倒的に最上位にあり、ウェブ解析プラットフォームStatcounterによると、その市場シェアは約93%に達する。オンライン検索エンジンは、ウェブサイトへのトラフィックを生み出す最大の要因でもあり、オンライン体験の68%は検索で始まっていると、BrightEdge Researchの2019年度のレポートに記されている。検索でこれほどの優位に立った結果、同社の親会社であるAlphabetの時価総額は2兆ドル(約277兆円)を記録したこともある。
SGEによって、Googleは、潜在的にインターネットユーザーと企業を新しい未来へと後押ししようとしている。質の高い情報を今後も抽出するにはどうすればいいか再考を求められる未来であり、AIの仕組みにフィードされる価値の高いコンテンツを制作しようという動機を与える未来である。
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