プラントベース市場は世界的な“苦境”を迎えたのか--米Miyoko’s Creamery創業者の解任騒動に見る

熊谷伸栄 (アドライト:米国シリコンバレー/東京)2023年03月29日 11時00分

米国で激震が走ったMiyoko’s Creamery創業者の解任劇

 米国ヴィーガンバターやチーズをはじめとするプラントベース乳製品開発で、米国消費者には親しまれている「Miyoko’s Creamery」。2月16日(米国時間12時40分)、Miyoko’s Creameryの新経営体制が発表された。経営体制の刷新は、創業期から成長期を経て、新たな成長段階を迎えたことによるものとしているが、実態はもっとドロドロであり、ブランド名の通り日系米国人起業家であり創業者のMiyoko Schinner氏の「CEOを解任」を事実上意味するものだった。

 同社の今回の「騒動」は、一時の過熱感から最初の踊り場を迎えつつある「プラントベース」ベンチャー投資の今を映し出した出来事といえそうだ。というのも、後述の通り、ちょうどプラントベース代替タンパク食品への投資が増え始めたのが4、5年前であるから、ちょうどMiyoko’s Creameryのような「先頭集団」はまさに今「大きなブランド」へ向かうための段階に差し掛かっている。前回ラウンドでの大型投資を実施した投資家にとれば、IRRを達成するために、さらなる「成長カーブ」を是が非でも実現してもらわないと困るわけだ(創業者の思いやゴールはそっちのけでも)。

 筆者も前職はベンチャー投資を日米で手掛けてきており、米国投資先企業では社外取締役としての経験を持つ。創業5年前後が経過し、累計で数十億円もの投資資金を集めると、初期の頃に投資をしたファンドからは「次なる大きな成長」に対する経営者へのプレッシャーをかけはじめるのが常である。それは、投資を実行した株主たるファンドとしても、彼らのファンドに出資をしたLP(ファンドを構成する出資元)からの圧力もこのころ出始める構図でもある。投資段階に想定していた成長カーブが難しそうになれば、創業者への圧力は自然と大きくなる。

 あくまで第三者である筆者の推測の域は出ないものの、Miyoko’s Creameryで起きていることは、投資家、株主の圧力がMiyoko氏に襲い掛かったものと想像するが(また、本件はその他の意味でも今シリコンバレー界隈では話題となっているが、これらは本稿では特に触れない)、欧米のプラントベース市場の成長カーブが一段落している市場環境を映し出す出来事の一つと見られそうだ。

 実際に米国のカリフォルニア等に住んでいると、同社の商品は、Whole Foods、Sprouts Farmer’s MarketやBristal Farmsといった大手オーガニック食品スーパーの他、幅広く陳列されている。その横にも、プラントベースの代替乳製品の商品も今や少なくない。Miyoko’s Creameryの類似ブランドも消費者の選択肢として増えており、投資家がここからの成長段階を見据えた際に、市場の飽和状態を危惧する点は容易に想像できる。

米カリフォルニア州のオーガニック系大手スーパーにて筆者撮影。Miyoko’s Creameryの商品のほかにも、たくさんの選択肢が消費者に増えている
米カリフォルニア州のオーガニック系大手スーパーにて筆者撮影。Miyoko’s Creameryの商品のほかにも、たくさんの選択肢が消費者に増えている

米Beyond Meatが株式市場で圧力

 一方、プラントベース肉でImpossible Foodと共に先発組として一足先にIPOを果たしたBeyond Meatも雲行きが怪しいような声が聞こえている。とある投機家筋の見解が株式市場関係者に流れていることは、一部日本語メディア媒体でも取り上げていたようだが、2023年(そう、この記事を執筆する今年中!)中に倒産する、とうわさが流れていた。無論、その出所は海外の投機家であり、あまり鵜呑みにする必要はないと思われるが(彼らはいわゆる株の空売りから入ってその後に買い戻すロングショートファンドであり、対象企業の株価が「下がる」ことで大儲けをする投機家であると言える)、2019年に華々しく上場を果たして以来、今はすっかり競合も増えており、市場の成熟度も加わり、正念場を迎える。

米カリフォルニア州のオーガニック系大手スーパーにて筆者撮影
米カリフォルニア州のオーガニック系大手スーパーにて筆者撮影
米Beyond Meat、IPO以来の株価推移(出所:Google Finance)
米Beyond Meat、IPO以来の株価推移(出所:Google Finance)

 ただ、まったく根拠のない憶測とも言い切れないようだ。Beyond Meatの直近の売上の下降傾向は、会社側の計画やウォール街の当初の予想と比べて乖離が生じていることは見逃せない。

Beyond Meatの売上傾向(出所:米Refinitiv IBES)
Beyond Meatの売上傾向(出所:米Refinitiv IBES)

 さらに、公開情報等によれば、同社の売上の鈍化と共に在庫の積み上がりも起きているとみられる。そうした製造と販売の悪循環と共に、手元資金も枯渇し始めているとされる(2022年上半期中に同社フリーキャッシュフローが約278百万米ドル減少)。キャッシュフローを維持するだけの売上が彼らに見込めるのか、B/S上にある11.3億ドルの長期借入の返済目途を含めて、株式市場はBeyond Meatを注視している。

同社公表数値及びYCHARTより引用
同社公表数値及びYCHARTより引用

 プラントベース代替肉を牽引してきたBeyond Meat以外の、中心的なブランドの最近の状況をあげると、以下が起きている。

  • 米Impossible Foodは、今年2月の提出書類によれば、カリフォルニア州で4月11日付で約132名解雇する方針。これらには、同社の科学者やエンジニアを含む。もともと同社は700名程度の従業員を抱えるとされており、この数字は2割前後に相当する。同社によれば、2022年は売上額が恐らく前年比で50%以上小売店を通じて伸びたそうだ。ただ、当初見込んでいた「より加速的な」成長カーブを一旦見直す現実的な予測に基づき、「膨らませすぎた」経営資源を適正化させるのが目的とされる。
  • 大手企業のJBSは同社傘下のプラントベースブランド「Planterra」から撤退。
  • カナダ大手食品企業Maple Leaf Foodsが、同社のプラントベース事業部門を25%縮小

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