オンライン診療のハードル、残る課題は現場だけ--好調続く医療ITのメドレーに聞く - (page 2)

コロナ禍もオンライン診療は広がらず継続的な課題に

――CLINICSの現在の市場シェアはどれくらいなのでしょうか。

 病院ではなくクリニックと呼ばれる診療所は、日本全国に10万箇所あります。主にそういったクリニックに対してCLINICSを提供していますが、契約件数はおよそ3000、全体の3%ほどのシェアになっています。

 この数字はまだまだ少ないと思われるかもしれません。ところが、クリニック向けの医療システム業界では、当社が知る限り1万以上の顧客を抱えるシステム会社はほとんど存在していません。電子カルテの普及率が50%という業界のなかでの、全体の3%ですから、数年間でここまできたと考えればスピードとしては速いのではないでしょうか。もちろん3%という数字はこれからもどんどん大きくしていくつもりです。

 以前はクリニックと患者さんがつながるサービスは日本にほとんどありませんでしたが、オンライン予約やオンライン診療ができ、薬局に対して処方箋の情報を送ってすぐに薬を受け取れることなど、CLINICSの利便性の高さは徐々に浸透し始めているように思います。

 2021年12月からは、CLINICSアプリをNTTドコモとの共同運営とし、テレビCMを開始したり、dアカウントと連携したり、dポイントをキャンペーンで付与したりと、さまざまな施策を行ったことでユーザー数が増えています。NTTドコモとの連携は今後も強化していきたいですね。

2021年4月にNTTドコモと資本業務提携契約を締結。アプリの共同運営やミナカラ株式の共同取得などの取り組みを進めている
2021年4月にNTTドコモと資本業務提携契約を締結。アプリの共同運営やミナカラ株式の共同取得などの取り組みを進めている

――コロナの影響でオンライン診療の認知度は上がったのではないかと思いますが。

 医療機関への導入や、実際の患者さんの利用という観点では、コロナを契機にした普及はあまり進まなかったというのが正直なところです。しかし、電子カルテと同様に今後も着実に広げていかなければいけないですし、1、2年で爆発的に増えるようなことは期待せず、粘り強く時間をかけて進めていくのが大事なのだろうと思います。

 ただ、調剤薬局向けのシステムはコロナをきっかけに大きく伸びました。2019年までに当社サービスをご利用いただいていたお客様は全体で1000件余りでしたが、最初の緊急事態宣言の時に一気に2000件を超えました。リクエストを受けて2020年に調剤薬局向けシステムの販売を開始し、その後も増え続け、直近は全体で1万4000件となり、そのうち1万が薬局です。調剤薬局は日本に6万箇所ありますが、そのうちの1万、大手調剤薬局チェーンの大半が当社のサービスを利用しています。

――病院やクリニック以外にもビジネスを拡大しているわけですね。

 最近では歯医者でもオンライン診療ができるサービスを提供し始めました。今や患者さん、病院、薬局、歯医者など、それら全ての利用者に対して同じアプリでサービス提供しています。病院、診療所、薬局、歯科、介護施設などと幅広く接点があるのがわれわれの強みなので、それを生かし、患者さんを中心にオンラインでつないで一段と利便性の高いサービスにしていく考えです。

――今後、その中でも特に伸びそうな領域はどのあたりになるでしょう。

 実は病院ですね。これまではクリニック、町にあるような診療所からスタートして、今はもう少し大きな病院にもサービスを提供し始めていますが、ここの伸びが順調です。実は病院向けの市場は、ファイナンス的な観点で言うと一番大きいんです。先ほど40兆円のうち4000億円が医療ITシステムという話をしましたが、その半分が病院向け市場だったりします。

 現時点では200床未満の、地方に多い小規模病院を主なターゲットにしています。大病院だとすでに8割ほどが電子カルテを導入していますが、クリニックと小規模病院はそれよりずっと低く、まだまだデジタル化の余地があります。日本政府が「デジタル田園都市国家構想」で地方の医療DXを後押ししようとしていることもあり、小規模病院のデジタル化はより進めやすい状況になってきているところです。

医療のデジタル化、普及は2030年が目処

――コロナ禍を経て医療分野の規制緩和は進んだのでしょうか。

 2019年に取材いただいたときからは、めちゃくちゃ進みました。特にオンライン診療に関するところで言うと、初診もオンラインがOKになりましたし、オンラインの診療報酬点数が対面より3割安かったのが、現在は9割ほどにまで改善されています。以前は「規制」と「現場」、この2つがオンライン診療の一般化のハードルになっていましたが、今残っている課題は現場だけだと思います。

 医療現場の方や患者さんにとって、今まで慣れ親しんだアナログな方法からデジタルに変えていくところは、医療に限らずさまざまな分野で同じように時間がかかっていると思います。ECも、おそらく一般に広く普及するまで10年はかかっていたはずですよね。

 であれば、日本の医療においてはデジタル化に15年、20年かかってもおかしくありません。われわれが2015年から事業を始めたことを考えると、2030年、その頃には医療現場のデジタル化も一般的になっている、という形に持っていきたいですね。次の中期計画、中期目標も2030年に向けて整理していこうと考えています。

――2022年には北米にも拠点を設立しました。その狙いと、今後の展望についてお聞かせいただけますか。

 われわれがこれまで日本で展開してきた、オンラインで医療機関と医療従事者を結びつける人材プラットフォームは、医療機関側で30万、医療従事者側で150万というユーザー規模になり、市場全体の15%にまで拡大しました。この仕組みや考え方が海外でも通用するのではないかと考え市場調査したところ、こういった医療分野に特化した人材プラットフォームは海外にも存在していないようでした。

 現地の商習慣などに合わせて少し仕組みを変える必要はもちろんありますが、より大きな市場を開拓できる可能性を秘めていると考え、まずは1年間米国でテストします。米国は人口が日本の2倍と市場そのものが大きいのもありますが、コロナによって医療業界を離れる方が増えているそうで、日本より医療従事者不足が深刻です。予算の上限はひとまず3億5000万円ですが、拠点のあるシアトルを中心に医療機関と医療従事者の方を集め、うまくいくようであれば2024年以降も積極的に投資していく考えです。

「オンライン診療の一般化のハードルで、今残っている課題は現場だけ」と河原氏
「オンライン診療の一般化のハードルで、今残っている課題は現場だけ」と河原氏

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