2040年の日本はどうなる?--五島列島で先の課題を体感するワーケーション - (page 2)

五島市の水インフラ問題を通して、少子高齢化社会の問題と向き合う

 五島列島の少子高齢化率は日本全体の20年先を行っているといわれ、国内有数の「課題先進地域」なのだという。2020年時点における五島市の高齢化率は、40.8%(全国平均は28.7%)。

 GWCでは、そうした人口減少に伴うさまざまな現象が表層化されつつある五島列島の「未来の日本で起きうる社会課題」を取り上げ、5日間の社会科見学プログラムを開催した。

五島市役所の会議室で行われた「水インフラ」プログラム。参加者は、大手企業に勤める方や会社を運営している方、フリーランスなどさまざまだった
五島市役所の会議室で行われた「水インフラ」プログラム。参加者は、大手企業に勤める方や会社を運営している方、フリーランスなどさまざまだった

 その中で、「水インフラ」に関するプログラムに1日参加した。本来であれば浄水場の見学など、現地でのフィールドワークもあったのだが、雪の影響により座学のみ。五島市の水道担当者の方々による解説と質問タイム、職員の方を囲んだランチ会、参加者同士の対話型ダイアローグの時間も含んで約5時間のプログラムとなった。

 そもそも五島市の水インフラ問題とはなんなのか。ざっくり下記にまとめた。

五島市の水インフラ問題とは

  • 2004年に一市五町が合併して五島市が誕生。そもそもが、各地域で面積比率と人口比率を考えずに水道施設を作りすぎていたため、コスト増の状態に陥っていたことが明らかに。
  • その後、水道事業の統廃合を進め、2017年からだいぶコンパクトにした。現状では黒字を維持しているが、まもなく赤字に転落することが見えている。
  • なぜ赤字になるか。人口減少による料金収入の減少、老朽化した水道施設の維持費、専門知識を持った技術者の高齢化、経営基盤の脆弱状況から、設備投資が見込めない――など、経営課題が山積み。
  • 漏水問題も徐々に深刻に。27%は漏水しているとのこと。27%の水が消えてしまっている(無利益)状態。漏水の発見は、ある程度はアラートが出てくるが、どの水道管かは特定できないので、夜中に聴診器を持った職員が道路に聴診器をあてて見つけに回る。その特定方法は、かなり熟練の技を要する。
  • こうした課題は実は五島市だけではない。多かれ少なかれ日本全国も同じ問題を抱えている状況。水道管の耐久年数は約40年と言われるが、管路の更新が年1%程度の更新でも100年かかる計算で間に合わないのが現状。直近(令和2年)では、五島市の0.7%でもいいほうで、類似団体平均は0.57%まで管路更新率は落ちている。
  • たとえば、五島市のある地区は、給水人口がたった8人で、さらにある地区は26人。その状況でもそれぞれが水道施設を持っている。まもなく老朽化を迎え、地区に住む人ではまかないきれないインフラ維持にかかるコストはどうする?
  • 料金は約20年据え置きの状況。電気代や設備の原料価格も上がって、黒字幅はどんどん縮小。なら、値上げをすればいいじゃない?――したくても、簡単には住民の理解を得られないのが現実。

 こうした話を聞いた上で、参加者どうしで話し合ったのだが、数時間の話を聞いたところで解決できる問題ではないのは明白だ。

 ダイアローグでは、さまざまな感想や意見が飛び交った。「もっと値上げに向け、理解を進める説明をしたほうがよいのでは」「住める地区を制限する?」「行政のインフラに頼らない、エコハウスにすべきでは」「離島は、セレブが住むところになるのかも」「国防の問題がでてきそう」など。ハザードマップのように「インフラ危機マップ」を作ったらよいのではという意見があり、賛同する人も多く見られた。

 実は、このプログラムに参加するにあたり、事務局からは「社会課題と向き合う=自分の中の『イライラ&モヤモヤ』と向き合うこと」というアドバイスがあった。「課題を突き止めて、新規事業で早く解決して社会貢献をしたい!」「将来どうなるか計算すればわかるし、どうして誰もやらないの?」「全部を一箇所に集めてスモールシティにすればいい。簡単では」――そんなふうに感じるかもしれないが、社会課題は「ここが課題」といえるほど単純ではないということ。まさにそれを実感する時間となった。

 なお、このセッションがあった日は、最低気温はマイナスに2度まで冷え込み、雪の影響もあって水道管の破裂などトラブルが多く起きていたという。セッション中も担当者のスマートフォンにアラートが飛ぶ忙しいさなかにもかかわらず、さまざまな質問に対して率直に答えていただいた。

水道システムのアラートはスマートフォンで見られる
水道システムのアラートはスマートフォンで見られる
水道管理システムの画面
水道管理システムの画面

 実は今回のワーケーションチームが泊まっていたホテルでも、この水道管の破裂の影響があり、一部のフロアでは深夜からお湯が出ない状況に見舞われた。

 首都圏に住んでいると、まだ少子高齢化社会を実感しにくいかもしれない。そんな人は、GWC参加者向けに予習のおすすめ書籍として挙がっていた「未来の年表」河合雅司(著)シリーズを一読してみるのもいいかもしれない。手っ取り早く読みたい方は、「マンガでわかる 未来の年表」水上航(著)もおすすめだ。

ワーケーションだからできる社内・外のコミュニケーション

 宿泊先のセレンディップホテル五島は、1階がカフェを兼ねたコワーキングスペースとなっている。Wi-Fiも完備されており、宿泊客の利用は無料。宿泊者以外でも、ドリンクの注文で利用できるとあって人気の場所だ。

地元の方にも人気の「セレンディップホテル五島」のコワーキングスペース
地元の方にも人気の「セレンディップホテル五島」のコワーキングスペース

 人気の場所ゆえ、プログラムから戻ってきた夕方には満席ということもあった。また、周囲と仕切った設備がなかったため、会議のときは、ホテル内に予約していた貸会議室を利用したりホテルの部屋を利用したりした。

 なお、たまたま筆者の部屋はWi-Fiが入りにくかったため、スマートフォンのテザリングを使う必要があり、いくらWi-Fiが完備された施設とあっても、いざというときのバックアップの回線は重要だと実感する一幕もあった。

 今回は、3泊4日の日程だったが、余裕があるように見えてややせわしなかったのが本音だ。意外と近いとはいえ、初日と最終日は移動時間が発生する。ちょうど雪が降るというイレギュラーが発生したこともあって、スケジュールが流動的になったのも要因のひとつかもしれない。

ランチに向かう途中で急に吹雪となり、みるみる真っ白に
ランチに向かう途中で急に吹雪となり、みるみる真っ白に

 また、これまでのワーケーションメンバーに事前に話は聞いていたものの、初めての場所なので最初はコンビニやランチに出かけるにしても、スマホ片手に少し気合いを入れて移動することになる。ちょうど慣れてきた頃に帰らなければならない印象で、1週間ぐらいあったらよかったと感じた。

「子どもと動物には好かれる」とワーケーションなど新規事業を担当する執行役員。なかなか日頃はお目にかかれない表情を垣間見られたのも、こうした場ならでは
「子どもと動物には好かれる」とワーケーションなど新規事業を担当する執行役員。なかなか日頃はお目にかかれない表情を垣間見られたのも、こうした場ならでは

 編集記者という仕事柄、PCとネット環境さえあれば、どこでも仕事ができるし、ワーケーションという言葉が生まれる前から似たようなことはしてきたので、遠隔地で仕事をすることに不安はなかった。

 同行メンバーは経営管理、新規事業と部署が異なるが、リモートワークに慣れていたため、同様に仕事に問題はなかったようだ。それぞれが別々の環境で仕事をしていたため、顔を合わせたのは、プログラムと夕食のときが主だ。いつもより少し早く仕事を切り上げて、五島のおいしいものを堪能する時間を通じ、地元の方とのコミュニケーションを楽しんだりオンラインではできない話をたくさんしたりした。

「四季の味・奴」でいただいた五島福江の名物珍味「ハコフグの味噌焼き」
「四季の味・奴」でいただいた五島福江の名物珍味「ハコフグの味噌焼き」
四季の味・奴の大将。大将や女将との会話を楽しみに訪れる人も多い
四季の味・奴の大将。大将や女将との会話を楽しみに訪れる人も多い

 ワーケーションと一口にいっても、今回のように会社が費用を負担して実施するものと個人負担があり、さらに「福利厚生型」「人材研修型」などさまざまな種類がある。

 今回は、社会課題を学ぶことが一つのテーマとなっていたが、これらがすぐ現状の業務に直結するわけではない。しかしながら、都市部に住んでいては見えてこない課題に触れることで、考えさせられることは多々あり、会社として今後のワーケーションを考えるときに実施するプログラムはどういったものがよいのかなどを話し合うきっかけにもなった。

 また、今回GWCのプログラムに参加してよかったと感じたのは、プログラムをより有効なものにするために当日だけでなく、事前の準備にも力をいれていたところだ。リアルの日程だけでなくSlackやZoomミーティングを通じて事前に交流することで、どういう人がやってくるのか人となりがわかる。参加者の自己紹介をはじめ、事務局とのやりとりやなんでも聞ける掲示板など、さまざまなやりとりがSlackで活発に行われていた。

 事務局の方はもちろんのこと、五島市役所の職員や一般の五島をよく知るサポーターなども参加していた。そのため、たとえば「ドローンで撮影したいが、管轄がわからない」といった質問にも、役所から許可や撮影ルールなども含めた一気通貫で返答しており、これは素晴らしいと感じた。このほかにも、雪の日でもやっているお店の情報などをいち早くシェアしてくれたり、参加者どうしで「一緒に夕食食べる人募集」といったやりとりもあり、“孤独にならないしくみ”が用意されていた。

次は夏の海を楽しみにいきたい
次は夏の海を楽しみにいきたい

 冬の五島もよかったが、次は夏のシーズンに再び訪れて、福江島以外の離島巡りやスキューバダイビングなどのアクティビティも楽しんでみたい。

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