最近では、連続テレビ小説「舞いあがれ!」の舞台として人気が高まっている長崎・五島列島。五島列島最大の福江島は、長崎空港または福岡空港から飛行機で約40分で到着する、アクセスのよい離島だ。
CNET Japanを運営する朝日インタラクティブでは、2022年度に観光庁が公募した「『ワーケーション推進事業』企業と地域によるモデル実証事業」に“モデル企業”として採択。実証事業として、ワーケーションの実践に取り組んでいる。
2022年度中に計3回派遣するプログラムで、第1回を2022年11月、第2回を12月に実施した。3回目となる今回は、長崎県五島市が主催する、五島ワーケーション・チャレンジ(GWC)のプログラム、本気の社会科見学「2040年の日本を体感しにいこう」にも参加したので、その様子も含めてお伝えしたい。
第3回は、1月23日~26日が実施日程だった。本当は福岡から夜行フェリーで福江島に入りたかったのだが、残念なこと運休の日と重なっていた。飛行機で前日に羽田から福岡に移動し、23日の当日に福岡空港から五島つばき空港(福江島)入りした。福岡からは五島つばき空港までは約40分。羽田から福岡までは飛行機で約2時間、意外とあっという間に福江島に着いた印象だ。なお、復路は約3時間。五島を18時15分に出発して、福岡経由で20時55分に羽田着のスケジュールだった。
実は今回はとてもラッキーな日程だったのだ。この後から天候が悪化し、飛行機も船も欠航が相次いだ。あと1日入りが遅かったら朝日インタラクティブとしてのプログラムは実現しなかったし、帰る日程が1日遅くても数日足止めされたかもしれない。
しかし、そんな中でもGWCの参加メンバーの中には「五島に愛されちゃって」と帰れないことを前向きに表現している人もいて、参加者の五島への愛を感じる場面もあった。
なお、飛行機に乗る際に気をつけたいのが手荷物だ。五島と福岡間で使われていた飛行機の機種は「DHC8-Q400」。こうした100席未満の飛行機の場合の手荷物は、「3辺(縦・横・高さ)の和が100cm以内かつ3辺それぞれの長さが45cm×35cm×20cm以内」という制限があり、ふだん機内持ち込みとして使っているサイズのスーツケースでも対象外のことがある。
恥ずかしながら知らなかったため、復路の五島つばき空港の保安検査で指摘され、急きょ預け入れをすることになったので、ここで失敗をシェアしておきたい。
空港から宿泊先の「セレンディップホテル五島」まではクルマで約7分。福岡発9時40分のフライトで、11時前には仕事をスタートできていた。
着いたその日はそのまま仕事をするつもりだったが、翌日からは雪で天気が崩れるとの予報。雪が少ない地域のため、スタッドレスタイヤの準備もほぼなく、出かけるのが困難になるかもしれないという。五島市のワーケーション活動に尽力しているトラベルQの代表を務める副田賢介氏からのアドバイスがあり、急きょ午後半休を取得して観光をすることになった。
残念ながら天候が今後悪化していくため、夜の星空ツアーなども見込めず、どこを回るかを決めることなり、急きょ試されるチーム力。実は個人的にひそかに行ってみたかったのが、2022年にスタートしたばかりのクラフトジンの「五島つばき蒸留所」だ。キリン氷結シリーズなどを手がけた大手酒造メーカー出身の3人が、五島の地で新たな挑戦を始めたという。場所は「半泊」と実は空港から車で40分ほどの少し遠い集落にある。
おそるおそるの提案だったが、ほか2人とも「いいね!」と即答してくれたことで、今回のチームメンバー3人の共通点の一つが「お酒好き」と判明する。結束力が急に高まった瞬間だった。
実のところ、半泊は旅行者にはやや行きにくい場所にある。集落への道が細いためクルマの事故が多く、「レンタカーは禁止」と言われるほどだとか。そのため、副田さんが運転をしてくれることになり、五島つばき蒸留所を行き来する経路にアレンジして長崎県指定有形文化財に指定されている「堂崎天主堂キリシタン資料館」、五島列島の原料を使用した本格焼酎を製造する「五島列島酒造」の見学などを合わせて急きょツアーを組んでいただいた。
まず最初に回ったのは、堂崎天主堂キリシタン資料館だ。長崎県指定有形文化財に指定されている。キリシタン弾圧時代に公に信仰をあらわせなかった信徒たちが仏教徒を装いながら秘密裏にキリスト教信仰を守り続けてきた、そのさまざまな軌跡が見られる。室内は撮影禁止。余談だが、駐車場の近くにある「堂崎マドレーヌの店」の自動販売機が、アナログな工夫もありおもしろかった。
五島つばき蒸留所は、突然の訪問にもかかわらず代表取締役/蒸溜家の門田クニヒコ氏が説明してくれた。3人で製造から販売まで手がけている状態のため、正式な蒸溜所見学は行っていないが、タイミングが合えば見学させてくれるとのこと。
キーボタニカルは、島に咲く「椿」の実だ。ジュニパーベリーは、一文字割りにする方法で、クリアで爽やかな香りを抽出。17種類のボタニカルを独自に蒸留。素材ごとに実の割り方やつけ込むアルコール度数、カッティングポイントを追求しており、通常の何倍もの手間をかけているという。実のところ、1本500mlで5500円(税込)のGOTOGINは、高級なジンに位置づけられるが、それも納得だ。
なぜ半泊の地を選んだのか。「大量生産の社会のインフラとしてのお酒もよかったが、物語のある風土に根ざしたお酒を造りたいと思った。静岡と愛媛と五島の3択だったが、五島はほぼ一目惚れ。大切なものをやさしく100年もの間守り続けている島。その中でも慈愛に満ちた海があり、“慈し”を体現できている場所が半泊だった」と選んだ理由を明かしてくれた。
「今は日本だけだが、売り上げの7割~8割はヨーロッパになると思う」と話す。実のところ、日本のジンは優秀で、世界的な酒類品評会「IWSC(International Wine and Spirit Competition)」では、2018年に京都蒸留所、2021年に養命酒酒造、2022年にエシカル・スピリッツが受賞している。
「ブラインドテイスティングで金賞をとっても、ボトルやデザインがよくないと売れないけれど、デザインやストーリーがよければ、世界中のディストリビューターがやってきていきなり次の日から違う世界が待っている。洋酒の世界は、こんな小さな蒸留所でも世界に出て行けるチャンスがある」と門田氏は夢を語ってくれた。
蒸留所のテラスはまだ工事中だが、将来は原酒が飲めるようにしたいと思っているとのこと。「原酒がすでに美味しい。原酒を飲んでおくと、ブレンドしたものを飲むときに、トップにラズベリーだなとか椿ってこんなところにいるのかなど、どこになにがあるか分かる」(門田氏)。また次回の訪問の楽しみにしたい。
五島市には、20代、30代の若い世代を中心に、年間200人が移住しているという。2019年には65年ぶりの社会増を達成。新しい価値観・生き方を求めて移住する層がコミュニティを形成しつつある。今回の見学ツアーを通じて、人気の理由の一端を垣間見たような気がした。
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