CNET Japanを運営する朝日インタラクティブは、2022年度に観光庁が公募した「『ワーケーション推進事業』企業と地域によるモデル実証事業」に“モデル企業”として採択。共同で提案した五島列島観光コンベンションビューローを“モデル地域”とする実証事業として、ワーケーションの実践に取り組んでいる。
2022年度中に計3回の派遣するプログラムとなり、2022年11月に3人の参加者で実施した実証事業の第1回プログラムに続き、12月に第2回プログラムを実施。社内のワーケーションプロジェクトチームがサポートしつつ、計5人のプログラム参加者が五島市福江島でのワーケーションに挑戦した模様をレポートする。
12月5~9日を実施日程とした第2回プログラムは、開始日前日となる12月4日夜発の夜行フェリーで2人、早朝の飛行機で3人と、バラエティに富んだ往路での福江島入りとなった。
筆者は12月4日、フェリーでの福江島入りを選択。プログラム開始の前日に東京から福岡へ、そこから夜に福江島行きのフェリーで移動というルートを選んだ。第2回プログラムを最初からくまなく把握するという狙いもあったが、個人的に今まで経験したことがなかった夜行フェリーでの移動にも興味があったからだ。
移動日となる4日は日曜日で、私用を済ませた夕刻から移動を開始。若干の余裕を持って向かったつもりが、今まで幾度となく利用した羽田空港はコロナ禍を経て大きく様相が異なっていた。保安検査場が大混雑しており、通常20分前には通過しなければならないはずが、15分前になっても検査に進めないという状態だったのだ。案の定、搭乗する飛行機の離陸も遅れ、福岡空港には遅れて到着。いきなり出鼻をくじかれるスタートとなった。
福江島と博多を結ぶ「フェリー太古」は、23時45分に「博多ふ頭 第2ターミナル」から出港する。博多ふ頭へは福岡空港からは地下鉄とバスを乗り継ぎ、約30分ほどで到着する道のりだ。
フェリーの船内には、「スイート」「ファミリー」「ツイン」といった客室のほか、ラウンジやシャワー室、ペットルームなどがある。お土産物を買える売店、カップラーメンや飲み物などの自動販売機もあり、0時を過ぎる前ならアルコールも販売していた。移動するだけなら申し分ない設備だといえるだろう。
しかし、もし時間に余裕があるなら、港から目と鼻の先にある複合商業施設「ベイサイドプレイス博多」を利用してみたかった。コンビニやレストランがあるほか、岩盤浴や食事スペースもある「みなと温泉 波葉の湯」などでくつろぐのもよさそうだ。みなと温泉の最終受付は22時15分で飛行機が遅延すると間に合わない可能性があるため、少し注意が必要かもしれない。
筆者が使用したツインルームのフェリー室内にはテレビがあり、出発してから観ることができた。ただし船旅だからだろうか、つながらない時間帯も多々あった。これは船内で利用できるWi-Fi、自分のスマホでのテザリングなども同じで、常時快適に利用できると思わない方がいいだろう。
また、0時前に博多を出発してから朝の8時頃に福江に到着する間、4時頃に宇久、4時半過ぎに小値賀、5時半過ぎに青方、7時半頃に奈留を経由するため、その度に発着アナウンスがある。もちろん船体の揺れもある。人によってはよく寝れない可能性もあり、自身の状態などとよく相談したほうがよさそうだ。
福江島に到着後は、レンタカーを借り受けてワーケーション先となる「セレンディップホテル五島」に向かった。今回の観光庁の実証事業では、モデル地域がモデル企業に“働ける場所”を提供することが定められており、第1回同様に第2回プログラム中の仕事場として指定された、という流れだ。
セレンディップホテル五島は、1階がWi-Fiやコンセントなどを備えたカフェとなっており、東京の街中にあるカフェ感覚で利用できる。ドリンクを注文すれば宿泊客でなくとも利用可能で、地元客と見られる方が顔なじみと挨拶していることも多かった。
カフェだけに少し騒がしい時間帯もあったが、2階には8人、2~3人用の会議室も用意されている。朝日インタラクティブは通常はリモートワーク可能な勤務体系となっており、PCがあれば最低限の仕事ができる、といった社員が多い。今回は会議室も予約していたため、基本的な仕事は参加者全員が問題なくできていたようだ。しかし、東京の街中にある多くのカフェと同様に、サブディスプレイなどの周辺機器はない。あくまで“社内ではなく外での仕事”という心構えは必要だろう。
また、第2回プログラムでは繁忙期の影響で部屋を確保できず、宿泊先がセレンディップホテル五島ではなく、市街地から車で10分の「カラリト五島列島」となった。部屋から抜群のオーシャンビューが見えるなど宿泊施設としての満足度は高かったのだが、業務という観点では支障も出てしまった。というのも、朝と夜に移動が発生してしまったほか、“少し気を遣いたいオンライン会議“などが参加者で重なってしまった場合、第1回で可能だった“市街地ホテルの自室から参加する“という選択ができなかったからだ。ワーケーションの際は、景色だけでなくワークスペースとしての使い勝手も考慮して宿を選ぶ必要があるだろう。
今回の実証事業では、観光庁から“全員参加した上でのワーケーションプログラムの実施”も求められている。第2回では、第1回にも実施した鬼岳での星空鑑賞や、島内の観光地巡りなどを実施した。
第2回プログラム独自のアクティビティも実施。プログラム初日のお昼過ぎからは、洋上風力発電施設とアワビ養殖場を視察した。
五島市は、再生可能エネルギーの導入を積極的に推進している。太陽光や風力などで現時点での再エネ自給率は50%超で、日本全体の再エネ自給率20%と比較すると倍以上を賄えていることになるという。
なかでも大きく注目されているのが、海洋エネルギーを活用した洋上風力発電だ。日本は島国であるが遠浅の海域が少なく、近海で洋上風力発電を拡大するためには浮体式で建設する必要がある。一方、五島列島は海に囲まれ年間を通して強い風が吹くとともに、島の近くでも水深が100メートル以上あるという。
こういった五島列島の特徴を生かし、2012年には日本で初めて、椛島(かばしま)で環境省の実証事業を実施。2016年には日本初の商用運転を開始している。さまざまな団体が視察に訪れ、目玉ツアーの一つになっているとのことだ。
第2回プログラムでは船酔いの危険性を考慮し、組み立て中の洋上風力発電機を陸から、加えて陸上で稼働中の風力発電機を視察した。
洋上風力発電事業に欠かすことができない“漁業との共生”の一環となる、アワビの養殖現場も見学した。五島市出身で都工業の社長を務める川上氏は、3年ほど前に名古屋からUターンして養殖事業を開始。1年で約1万匹のアワビを収穫できるところまで来ており、ふるさと納税の返礼品のほか、多くの需要があるという。
3日目には、五島市の魅力の一つである豊かな自然を体感すべく、「五島商店 佐藤の芋屋」などを運営するアグリ・コーポレーション協力の下、農場でのさつま芋「安納芋」の収穫を体験した。
芋掘り機のコンベアーから流れてくるさつま芋を箱に収穫する2人組と、収穫した芋の側根などをはさみで切り落とす係に分かれて作業。午前10時から2時間にわたり、収穫とはさみを都度交代しながら泥にまみれた。お昼はその場でバーベキューを実施し、収穫直後のさつま芋を堪能できた。
ワークとバケーションのいずれも盛りだくさんな内容だった第2回プログラム。ここで紹介した以外にももちろん、五島牛や五島うどんといった定番の地方グルメなどを堪能できた。
なお筆者は、CNET Japan編集部とワーケーションプロジェクトチームに所属している。ワーケーションチームでは第2回プログラムの実施に当たる社内調整を担当しているが、編集部からの参加者がなかったこともあり、調整兼レポート係として現地に同行することになったという流れだ。ここからは、企画立案の観点から注意した点などをお伝えしたい。
第2回プログラムは、3人が参加した第1回のほぼ1カ月後の実施となったため、一番最初の懸念は「参加してもらえるか」だった。朝日インタラクティブはコロナ禍を経て完全リモートワークができる体制となっており、来客などが無ければ基本的に出社する必要は無い。実際にディスプレイ越し以外ではほとんど社員と顔を合わせない、という社員も多い。プログラム参加者は旅費や宿泊費などが必要なく、基本的には無料で参加できるというお得なものではあったものの、第1回の希望者はちょうど3人だったこともあり、「そもそもみんな家から出たくないのでは」と推測された。
また、会社としてワーケーションを推進しているものの、社員それぞれがワーケーションに対してどういった感情を抱いているかは未知数だ。「ワーケーションって、半分は遊びに行ってるんでしょ」的な考えがある可能性や、参加したいけど言い出せない社員がいないとは言い切れなかった。
第2回のプログラム参加者を確保すべく、チーム全体で早めのアナウンスと、できる限り直接の参加の声がけ、また各上長へチーム員の参加を促してもらうなどを実施。結果として参加人数を確保できただけでなく、第2回の時点で全部署から参加者を集めることにも成功した。チーム員の参加にご快諾いただいた各上長に、この場を借りて感謝の意を伝えたい。
ワーケーションで実施するアクティビティにも留意する必要があった。第1回プログラムを観光庁に報告したところ、「アクティビティ(=バケーション)が少ないのでは」というフィードバックがあったからだ。
ワーケーションは本来、バケーションがどこまで必要かなどの定義があるものではない。その内容やそれぞれの割合は、参加者や企業で柔軟に決めていいものだろう。
とはいえ今回は観光庁に採択された実証事業という位置づけでもあるので、可能な範囲で最大限日程を調整することになった。アクティビティを増やすことはそのまま業務時間が減ることにもつながるため、参加者および参加チームの業務、参加者それぞれの希望などを考慮しながらの日程組みとなった。
上記アクティビティとも関わる大きな課題が、社内の制度との整合性だ。朝日インタラクティブは企業全体としてワーケーションと向き合っているが、制度まで整備できているわけではない。例えば1日のコアタイム(必ず業務しなければ行けない時間帯)は11~15時だが、この時間にしかできない芋掘りなどのアクティビティもあった。出張という形とはいえ、「芋掘りが業務か否か」などの判断は意見が分かれるところだろう。このほかにも制度面からどう判断すべきかという事項は多く、さまざまな社内の経営陣、管理チームにも多くのリソースを割いていただき実現できたプログラムだった、といっても過言ではない。
さまざまな課題と向き合いながら実施した第2回ワーケーションプログラム。最終日ともなると参加者の疲労の色は隠せなかったが、実施後のアンケートでは「また行きたい」「参加して良かった」といった意見が見られた。日常とは異なる環境で通常通りの業務とはいかないまでも最低限の責務を果たしつつ、異なる場所や空気に触れることでよい気分転換ができた、五島市のさまざまな魅力に触れることができた、リモートワーク中心のなかで社員間のリアルな交流ができた、といったものだ。そして、「また参加したい」という声があったことが何よりの感想だと捉えている。
企業で実施するワーケーションは企画する側、参加する側、誘致する側、いずれも多大な労力が必要だ。しかし、その分得られるものも少なくないだろう。
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