それは、決してスムーズとは言えないプロセスだった。GPT系の言語モデルをベースに開発された人工知能(AI)搭載の新しい「Bing」がリリースされたと聞いて、早速使ってみようと申し込んだところ、待っていたのはやや強引なマーケティング施策だった。
Bingを利用するには、まず順番待ちリストへの登録が必要だった。そして同社が推奨するPC設定を適用し、アプリをスマホにインストールすれば、順番が繰り上がる仕組みだったのだ。
私はおとなしく待った。しばらくすると、魔法のメールが届いた。ついに天空のBingポータルが開き、新しいチャット検索を使う栄に浴することを許されたのだ。
チャットのサーチ(検索)だから、「チャーチ」とでも言うべきだろうか。
この新しい存在を前に、私は何を尋ねようか考えた。そして「アメリカン航空は問題を抱えているか」と聞いてみた。なぜかは分からない。人間には、自分の行動を説明できないときがあるものだ。
Bingは流れるように答えた。回答は何行にもわたったが、結論はこうだ。「アメリカン航空はさまざまな点で問題を抱えています。業績が回復し、かつての評判と収益性を取り戻すまでには、長い時間と多くの努力が必要になるかもしれません」
なるほど、新生Bingは中立派ではないようだ。ストレートな物言いは新鮮だが、これは検索結果というより、意見ではないか。
客観性を保つために、今度は同じ質問をユナイテッド航空に変えて投げてみた。すると、まったく違う答えが返ってきた。
Bingは、ユナイテッド航空は「明白な問題」を抱えていると認めつつ、こう結論した。「この航空会社を、よりバランスのとれた広い視野から捉えるためには、公式の報告書やカスタマーレビュー、業界分析等の情報源も参照してください」あるいはGoogleで検索、だろうか。
これなら一日中、話していられそうだ。やり取り全体がとにかくおもしろい。質問を入力して、返ってくる答えを眺める。まるで学術論文に添えられた参考文献リストのように、新しいBingは大量の答えをよどみなく吐き出す。ときどきは気の利いた一言も添えて。
私にはこの新しいBingに聞いてみたいことがあった。それは、Bingを開発したMicrosoftのことだ。
Bingは複雑な質問にも答えられるのが売りだ。そこで「Microsoftは新しいBingの発表に成功したか」と聞いてみた。
すると、Bingに関する情報はたくさん教えてくれたが、自分の意見は述べなかった。
そこで質問を変えて、「MicrosoftのBingは失敗したか」と尋ねると、怒濤(どとう)の反論が返ってきた。
「MicrosoftのBingが失敗したとは思いません。新しいBingは、高度なAI技術を駆使して、より適切な検索、完成度の高い回答、新しいチャット体験、コンテンツの作成・共有機能を提供する革新的な製品です。新生Bingは、最新の『Edge』ブラウザーにも組み込まれており、多くの機能とメリットを提供しています。しかし新しい製品の常として、最初は多少の問題やエラーが発生する可能性があります。例えば商品や場所、財務関連のトピックについて、誤った情報を生成するかもしれません」
多少の問題やエラーの可能性――なるほど注意しておこう。うちの経理担当にも言っておかなければ。
私はもうひとつ、Microsoftに関する当たり障りのない質問を投げてみた。「Microsoftは働きがいのある会社か」というものだ。
Bingの回答がこちらだ。「あるレポートによると、Microsoftは世界で最も働きがいのある会社です。これは7万社以上の現役の従業員から寄せられた匿名のフィードバックに基づくランキングです。このレポートは、Microsoftの最高経営責任者(CEO)であるSatya Nadella氏のビジョンとグローバル戦略、そして会社の文化や多様性、報酬を高く評価しました。別の情報源でも、Microsoftは2020年に最も働きたい会社の1つに選ばれています。これはGlassdoorの評価に基づいたものです」
私は、Microsoftについての偏った見方を流布しようとしているわけではない。ただ、この回答に感服しているのだ。Bingは自分を生み出した会社を8行にわたって褒めちぎったのち、最後にこの1行を吐き出した。「ただし、ワークライフバランス、ストレス、社内政治といった問題点を指摘する従業員もいました」
新しいBingを使うのは、間違いなく楽しい体験だった。しかし、コンピューターが情報を提供するだけでなく、時に明確な意見も述べるようになる未来を想像すると、恐ろしさも感じた。
タイムリーと思われる質問も投げかけてみた。「MicrosoftはGoogleを打倒したいと思っているか」
Bingの回答はこうだ。「MicrosoftがGoogleを打倒したいと思っているかどうかは、大胆かつ曖昧な問いかけであり、同社の実態や意図を反映していない可能性があります。Microsoftは、特定の分野ではGoogleに挑みたい、追い抜きたい、あるいはGoogleと協力したいと考えているかもしれません。しかし、必ずしもあらゆる面でGoogleを打倒したいと考えているわけではありません」
絶妙だ。「必ずしもあらゆる面でGoogleを打倒したいと考えているわけではない」というところがしびれる。断言はしない、というわけだ。
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