「あ〜、海外で暮らしてみたい」ーー。テレビや雑誌などで、自身の日常とは違う海外の日常をみて、そんな憧れを抱く人は少なくないのではないかと思います。私もその1人でした。今回はそんな海外暮らしへのあこがれがある30代の共働き夫婦が、家族3人で、5週間の子連れ海外ワーケーションをやってみた体験談を、準備編と滞在編に分けてお伝えします。
私と夫はともにIT業界で働いています。夫はスタートアップ企業の経営者で、私は投資会社のミレイズでコミュニケーション統括を担当しています。
平日は数十件のオンライン会議を分刻みでこなし、数百件くるメッセージに返信しています。2歳半の息子を保育園に預けて働いているので、仕事を終えると家から保育園にすぐにお迎えに行き、夜ご飯、お風呂、歯磨きや絵本の読み聞かせを終えると20時半頃には家族3人で寝落ちしています。休日は公園とスーパーの往復。1年を通して自宅を中心に、ほぼ徒歩2km圏内で暮らしています。
2人とも「今後、よりグローバルに働きたい」という夢がある一方で、私は月額契約しているオンライン英会話をお金だけ払い一度も受けられていない状況。「あぁ、今月も引き落としだけになってしまった…」と課金履歴を見つめながら、情けない気分になっていました。
どうにかして、家族3人がリフレッシュしながら、海外へ視野を広げられないものか。そんな想いを実現する方法として、思いついたのが「子連れ海外ワーケーション」でした。
2歳児の子どもがいると海外どころか、ひと駅先のスーパーに行くのも難しくなります。また保育園がない環境で、親は仕事ができるのか?そして、日常の生活が回るのか? 言語の壁や予算、医療サービスなど、海外には行きたいけれど実際行って大丈夫なのかと多くの不安がありました。
しかし、子どもの都合を考えて、「いつか海外で働きたい」という自分たちの想いにフタをし続けていると、この先5年も、10年もできないのではないか。「いろいろな不安はあるけれど、まずは小さく小さくやってみよう」。そう考え、私たち家族は5週間の子連れ海外ワーケーションに挑戦してみることにしました。
「子連れ旅行は、準備が大変」と考える方は多いと思います。それが「5週間の子連れ海外ワーケーション」になれば、なおさらです。おぼろげになっているコロナ禍前のひとり旅の記憶や、子連れ海外旅行の持ち物リスト情報をネットで調べながら、息子と「初海外」の事前準備を進めました。
「決意」してから「出発」までは、およそ4カ月。初の子育て、初の海外と分からないことだらけだった私たちが、やりきった準備リストを【図1】で公開します。
4カ月の事前準備を振り返りながら、何が最も大切だったかというと「子ども向けアイテムやサービス」でした。これらが整っているか、いないかで滞在中の快適さが全く違ってきます。ポイントは大きく2つ。子どもアイテムは可能な限り全て持ち込むこと。また、ベビーシッターなど子ども向けのサービスは事前に手配しておくことです。
子どもアイテムとして私が準備したのは薬、食事、おやつ、衣類、おもちゃです。持っていかずに後悔したのは、息子のお気に入りの日本食、調味料、絵本や靴下でした。
子どもが慣れているものを異国の地で見つけることは並大抵のことではありませんでした。たとえば子ども用の靴下、日本であれば徒歩数分のスーパーでも買えるのに、シドニー市内では土地勘がないのと、平日忙しくてショッピングモールに行けず、見つけるのに約3日もかかりました。なぜか大人用の靴下しか見つからなかったのです。探せど探せど子ども用の靴下が見つからないので、日本から持ってきた一足の靴下を、毎晩洗いドライヤーで乾かし続ける日々が続きました。
子ども向けサービスとして、現地ベビーシッターも事前に予約を済ませていました。ベビーシッターサービスの利用については情報収集から決定まで2カ月ほどの時間がかかりました。詳細は後述しますが、ベビーシッター探しは「子連れ海外ワーケーション」ならではの準備となりました。
今回の子連れ海外ワーケーションで私たちが選んだ国は、オーストラリアのシドニーでした。選んだ理由は大きく3つあります。1つ目は「英語圏で、時差が1時間しかないこと」、2つ目は「フライトが短く、夜便に乗れば、朝に到着していること」、3つ目は「親がなんとなく暮らしてみたかった都市であること」でした。
できるだけ長く滞在し、”海外で暮らす”という体験をしたいと思っていた私たちは、日本との時差がない方が仕事をしやすいと考えていました。同時に息子の生活リズムを整えやすいというメリットもあります。
またコロナ禍にともない、まだ各国が入国などを規制している時期だったので、英語圏の方が現地での一次情報が取りやすい。そう考えた時に、英語圏の中で時差が少なく、移動時間が9時間と比較的短いオーストラリアのシドニーを子連れ海外ワーケーションの地に決めました。
そして次が、初めての場所での「仕事環境」また「子育て環境」の作り方です。家族3人で5週間のシドニー滞在、私たちは「Airbnb」で一棟丸貸しの部屋を押さえました。最初の3週間は観光地ど真ん中、オペラハウスから徒歩10分ほどの3LDKのコンドミニアムでした。後半の2週間は、ビーチタウンにある3LDKの物件にしました。
どちらも、家族3人には少し広すぎるぐらいの部屋数がある家を選びました。理由は使わない寝室を「仕事部屋」として活用したかったからです。息子がいる前では決して扉を開けないというルールを決めて「秘密の仕事部屋」とすることで、息子が仕事中に突然入ってくることもなく親が集中してオンライン会議に参加できます。
「絶対に、子どもに気付かれないようにしよう」ーー。夫婦でそう誓い合って、忍者のようにこっそりと使い続けた小さな部屋。この部屋があるおかげで、仕事にも集中できるそんな安心感をもって5週間を過ごすことができました。滞在最終日に、この部屋を息子に見せると「なんだここぉ〜(笑)」と慣れた家の中での新しい空間の発見をとても喜んでいました。
子連れ海外ワーケーションで最も苦労したのは、現地でのベビーシッター探しでした。私たち共働き夫婦は、週5日間、保育園にお世話になっており、だからこそ日本でもフルタイムで仕事ができていました。しかし、シドニーでその環境を再現しようとすると、少なくても5週間で約50〜60万円、日本の10〜12倍の費用がかかることが現地の保育サービスを調べていくうちに分かってきました。
この現実を知った日の夜に「ねぇ、なんで私たちって子どもを預けて働けると思ってたんだろうね。アハハハ…」と現実を甘く見ていたことにツッコミを入れながら、下を向いて晩御飯のお味噌汁をすすることに。
でも、飛行機のチケットはもう取ってしまったので、自分たちで何とかするしかありません。翌朝に気を取り直して夫婦で電卓をたたきながら、保育予算を10万円までに決定。この予算内で保育サポートをしてくれる方を見つけ、足りない分は夫婦で保育シフトを組み補うことにしました。
当然ながら、日本からオンラインで現地のベビーシッターを探すのは初めてです。日本でもあまり経験のない作業だったので「本当にシドニーで現地のベビーシッターさんは見つかるかな?」と、私自身半信半疑でした。しかし、ネット上で見つけられる限りのベビーシッターマッチングサイトやSNS掲示板に書き込みをすると2週間ほどで約5人の応募がありました。
「まずは、応募があってよかった」と一段落したのも束の間、仕事の合間に、ベビーシッター候補の方とオンライン面談を調整し、最終的に日本人の元保育士の方に週1でお願いすることにしました。彼女の名前は、マユさん。日本でもシドニーでも保育士の経験がある、日本人の方です。「人生初の子連れ海外ワーケーションは楽しかった」と思える経験ができた私たちの勝因を上げるとすれば、事前に信頼できる現地のベビーシッターを見つけていたことでした。
彼女は、初めての子連れ海外である私たちが現地での暮らしをスムーズにスタートできるよう、本当に多くのサポートをしてくれました。コロナ禍で日々変化している現地の保育情報をすぐに教えてもらうことができ、息子の病気時の相談や、現地のご飯が合わないときの対応など、全てを相談できました。彼女がいなければ、私自身もっと緊張感を持って最初の1週間を過ごさないといけなかったと思います。
子連れ海外ワーケーションをこれから検討する方がいたら、ぜひ単発依頼でもいいので、子育て情報を相談できる方(私たちの場合はベビーシッター)を事前に見つけておくことを心からオススメします。
みなさんは、毎年どれくらいの旅行予算をもっているでしょうか?観光庁の2016年1〜12月期「旅行・観光消費動向調査」によれば、コロナ前の日本人の海外旅行予算は、1人あたり約24万円です。年に一度、家族3人で3泊4日の海外旅行をするご家庭なら約72万円になります。
では、今回の総費用はいくらだったのかというと、合計155万円でした。正直、想定より増えてしまい、どのように予算を捻出しようか戸惑った時期もありました。
ですが、今回はただの旅行ではなく、自分たちへの経験という「投資」にもなるはず。毎日、徒歩2km圏内で生活している自分たちがリフレッシュしつつ、子どもの将来や自分たちの将来にもプラスになる効果があるのであればいいのではないか。
また、総務省の調査では家族3人の海外旅行が3泊4日で72万円だけど、今回は5週間の長期滞在なので、それを考えるとむしろお得なのかもしれない。そう自分たちの都合のいいように解釈し、月額の投資、貯蓄予算を海外ワーケーション予算に充てることにしました。
4カ月の準備期間を振り返って思うこと、それは「子連れ海外ワーケーション」は決して安くて楽な選択肢ではないということです。しかし親に「海外で暮らしたい」という思いがあれば、それを実現できる選択肢であり、自分たちへの経験や「投資」になります。
子どもが小さく日常を回すことで精一杯だと、家と保育園の近くで仕事をしている方が楽だし、安全です。ですが、家族でしっかりと相談し、子どものペースに合わせた準備ができれば、子連れ海外ワーケーションは、むしろ子どもとしっかり向き合うことができ、また親もリフレッシュして将来の選択肢を広げられる機会になります。
5週間の滞在を終えて、確信を持ってそう言えるようになった私たちが、現地でどのような生活をしてきたかを、次回の「現地滞在編」で紹介していきます。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」