Heatherさんの場合は、免疫学の世界的権威で、米国立アレルギー感染症研究所の所長を間もなく退任するAnthony Fauci氏をElon Musk氏が揶揄(やゆ)したことが最後の一押しになった。Loganさんの場合は、Musk氏がTwitter買収後に、サービスを提供した事業者への支払いをやめるよう従業員に命じたと聞いて、堪忍袋の緒が切れた。
Tomさんの場合は、米国時間10月27日のTwitter買収以来、Musk氏が発揮している常軌を逸した破壊的なリーダーシップにほとほと嫌気が差したという。
この2カ月間に、3人はそれぞれTesla車の予約注文をキャンセルするために、あるいはカーリース契約を解除するためにTeslaに電話をかけ、その理由としてMusk氏の不愉快な行動を挙げた。すると電話の向こうのセールス担当者は異口同音に、同様の指摘をたくさん受けていると言ったという。
現在、Twitterの経営権を握っているのは51歳になるMusk氏だ。Twitterの最高経営責任者(CEO)という新たな役割は、同氏の時間を細切れにしただけでなく、その破天荒なリーダーシップによって、同氏が所有する他の会社にも影響を及ぼしているようだ。
同氏は12月18日、自分がTwitterの最高経営責任者(CEO)を辞任すべきかどうかを問う、Twitterアンケートを実施し、投票に参加した1750万アカウントのうち57%以上が「Yes(はい)」を選択した。この結果を受け、同氏は、後任が見付かればTwitterの最高経営責任者(CEO)を辞任するとツイートしている。
Musk氏のCEOとしての在任期間に終わりが見えているとすれば、それはここ数カ月間の自身の仕事ぶりに起因している。最近の同氏は、あからさまな極右反動主義的な言動を繰り返している。マイノリティの元従業員を攻撃したほか、襲撃を受けたNancy Pelosi米下院議長の夫に関する同性愛嫌悪的な嘘を広めた。Twitterという影響力の大きいコミュニケーションプラットフォームの方針についても、場当たり的な発言を繰り返している。
Twitterはもはや上場企業ではないが、Teslaは上場企業だ。そして、Teslaの株主たちは不満を抱いている。
Twitterの買収成立後、Teslaの株価は33%以上も下落した。Musk氏は買収から1週間のうちにTwitterの従業員の半数を解雇し、同社のコードをレビューをさせるためにTeslaからエンジニアを引っ張ってきた。Twitterの売上の9割近くを占める広告事業も揺らいでいる。大口の広告主は出稿を取りやめ、計画性のないサイト変更によって偽アカウントが増殖しただけでなく、Musk氏の暴挙も目に余ると語った。
CNBCによれば、12月19日に投資銀行のOppenheimerがいち早くTesla株の投資判断を「アウトパフォーム(買い)」から「ニュートラル(中立)」に引き下げたという。
Musk氏は今年に入ってから約400億ドル(約5兆3000億円)分のTesla株を売却したが、Twitterは2023年に12億ドル(約1600億円)の利払いが控えている。世界の富豪の純資産額をリアルタイムで追跡するBloombergの「ビリオネア指数」によれば、同氏の個人資産は約半分の1480億ドル(約19兆5000億円)に減少している。
ミームやハッシュタグを作るのが大好きな同氏は、多くのミームやハッシュタグの対象にもなってきた。批判派は#ElonTheSnowflake、#ElonIsDestroyingTwitter、#ElonMuskIsaGiantTurdといったハッシュタグを使って同氏を糾弾し続けている。16日にはTwitter上でMusk氏が「スペース・カレン」と揶揄されるようになった。これは同氏に批判的な記事を書いてTwitterアカウントを一時的に凍結されたジャーナリストらが、Twitterの音声ライブ機能「スペース」を使って質問を投げかけたところ、同氏が質問に答えず、この機能自体を停止したことを受けたものだ(訳注:「カレン(Karen)」は、人種的特権を振りかざす白人女性を表す蔑称)。
記事の冒頭に登場したHeatherさんは、「Musk氏の振る舞いがTeslaブランドを台無しにしている」と指摘する。Heatherさんはバイオテクノロジー企業の幹部で、リースしていたTeslaの高級電気自動車(EV)「Model S ロングレンジプラス」の契約期間がもうすぐ終わる。「Musk氏がいなくなることを心待ちにしている」と言う。
Heatherさんをはじめ、多くのTesla車オーナーがMusk氏とはもう関わりたくないという意思を、家族や友人に伝え、ソーシャルメディアに投稿するようになった。Musk氏のツイートを受けて、12件を超えるアカウントがTesla車のキャンセルを匂わせる投稿をし、その多くが同氏を擁護する人々からの攻撃的なツイートにさらされた。
米CNETでは、Tesla車のリース料の支払いが間もなく終わる、あるいは納車間近だった3人の顧客から話を聞くことができた。3人は、Musk氏を支持し、Twitterで言いたい放題のネット暴徒からインターネット上や場合によっては実生活でも嫌がらせを受けることを恐れて、匿名を希望した。記事内では仮名を使用しており、身元を特定されないよう性別を変えたケースもある。3人の不安は当然のものだ。
TwitterでTrust & Safety(信頼と安全)協議会を率いていたYoel Roth氏とその家族は、Musk氏にTwitter上で攻撃された後、身の安全が脅かされる懸念があるとして、自宅から避難することを余儀なくされたとThe Washington Postは報じている。Roth氏が過去に執筆した性行為と子供に関する論文の内容をMusk氏が曲解して伝えたことにより、Roth氏とその家族、そして論文を審査した教授らに嫌がらせや脅迫が殺到した(同氏は、Musk氏が自らを「Chief Twit」(Twitterのトップ)と呼び、「原則に基づく発展」に注力してきたTrust & Safetyチームを尊重する代わりに、自身が主導権を握ることを明言したことを受けて、同社を退社している)。
こうしたネット暴徒たちが、TwitterやMusk氏、Teslaに対する人々の感情をさらに複雑なものにしている。例えば、南カリフォルニアで不動産サービス業に従事するLoganさんは、Teslaの「Model 3」をリースしていた。石油会社を支援したくなかったこと、またこの車をいたく気に入ったことがTeslaのEV車に惹かれた理由だった。「快適だし、走りもいい」とLoganさんは言う。
しかし、Twitterを買収してからのMusk氏の行動、例えばラッパーのKanye West氏が放ったユダヤ人を蔑視する発言や、ナチス指導者Adolph Hitler氏を賞賛するコメントを擁護するような振る舞いは、一時的なものだったにせよ目に余った。
「そんなことをする会社や人間を応援したくない」とLoganさんは言う。
かつてTeslaに投資し、すでにSpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink」の保証金を払い込んでいたTomさんは、Musk氏が関わるすべての企業の取り組みから完全に手を引くと語った。
TomさんはMusk氏とそのビジネスに感銘を受けていたが、今は同氏を「私のフィードの中で最悪の荒らし」と呼ぶ。
「ソーシャルメディア企業のCEOになりたいなら、それに専念してTeslaは手放すべきだ」とTomさんは言う。「もしMusk氏がTeslaを去るなら、間違いなく、この車を手放すという選択を考え直すつもりだ」
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