その後、グータッチをして空間スキャンの限界を確かめてみた。手を近づけると、相手の手がピクセル化して崩れ始める。相手からもこちらは同じように見えているのだろうと思った。私たち2人の間に、立体的な空間が形成されているのだ。
ホログラフでできたチャット相手の後ろに見える壁が本物でないことには、後まで気づかなかった。バーチャルな背景幕だが、自分の後ろにある本物の壁と区別がつかないように見え、そこにバーチャルな影まで加わるのだ。背景幕を用意しているのは、そのエリアの一部が深度センサーカメラのカバー範囲を越えてしまうからである。
Starlineは通常のネットワーク帯域幅で動作するように設計されており、60Hzで表示される。3D性能は、大型4Kテレビの本来の機能より解像度をいくぶん落とすことで実現されているが、その分、一定レベルのリアルな存在感が確保されている。
人以外のものを見るとき、それをどのくらい活用することになるのだろう。Nartker氏が手に持っているものは見えるが、通常のビデオより鮮明さが若干落ちる。例えば、リンゴだ。筆者は財布と車の鍵を持ち上げて見せた。
確かに、筆者はStarlineを使って数分後にはすっかりリラックスし、あえて言うならふだんどおりになったが、カメラがちりばめられた壁とスクリーンを備えるブースのある特別な部屋に入っていくというのは、気軽に感じる入口としては奇妙だった。Starlineの大がかりな設備を考えると、手近なデバイスを使ってどこでも開始できる今のビデオ通話ほど手軽に、あるいは日常的に使えるとは、まだまだ言いがたい。
それでも、技術が周囲に溶け込んで意識しなくなり、会話が視野のほとんどを占めて中心になるのを感じると、気を逸らされることもなく落ち着けるようになった。全体的には見事な魔法のようで、Zoomのビデオチャットに類する体験というより、直接対面のように感じ始めた。
ライトフィールド3Dディスプレイ上のリアルタイムビデオチャットは、それだけでも十分、これまでに見たことのない成果だ。だが、Starlineの遠隔での存在感の意味に関する問いかけから、VRおよびARの全般について考えさせられた。2人の人間の間で、実際の日常会話を「普通」に感じさせるという試みに成功したヘッドセットは、VRでもARでもまだない。ひとえに、顔面に装着する装置が妨げになるからだ。Google初のウェアラブルスマートディスプレイである「Google Glass」は、人前でも目立たない形で動作することを目指したものだったが、これも成功はしなかった。
「これは試作機であり、この技術が秘めた可能性を探る初期の概念実証だ」、とNartker氏は話している。「双方が一緒にいると感じられる、そのコプレゼンスの感覚を実際に作り出したといえる最初の試作機だ。Google社員と試作機を研究しているときに、人がリアルに振る舞っているのが分かった。リアルだと感じ、リアルだと表現している」
Project Starlineは現在、テストとしてGoogle以外の少数企業のオフィスに、一度に2基ずつ設置されている。現在は大型だが、いずれはもっと小型で、違う形状になることが期待されている。とはいえ、等身大というStarlineの特長は成功に不可欠な点のように思える。等身大の人を投影するとなると、どうしても大型スクリーンが必要だ。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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