3年前、テクノロジー大手のAppleはラスベガスで巨大広告を掲げた。自社製品「iPhone」の背面を見せたうえで、「What happens on your iPhone, stays on your iPhone(あなたのiPhoneで起こることは、あなたのiPhoneにとどまる)」というひと言を添えた広告だ。大胆な、むしろ大言壮語とも言えるほどのメッセージだった。だが、Appleは着実にその言葉を実現しようとしている。
Appleは、プライバシーとセキュリティに対する取り組みを強化してきており、そのために繰り出している一連の新機能が持つ意味は大きい、とサイバーセキュリティの専門家は言う。サムスンのガジェットや、Googleの「Android」OSを搭載する他のデバイスとの差別化要因の1つにとどまらないないからだ。Appleの動向は、広告業界に波紋を広げており、政治の世界にも動揺をもたらしている。テクノロジー業界の消息筋に言わせると、これはAppleが広言したことを形にしつつある兆候だという。
そのため、米国時間7月6日に発表されたAppleの「ロックダウンモード」には、多くのサイバーセキュリティ専門家から注目が集まった。この機能は、同社のiPhoneと「iPad」、そして「Mac」コンピューターで「究極」の保護を有効にすることを目的としている。主として、メッセージアプリでリンクのプレビューをブロックする、ハッキングの恐れがあるウェブ閲覧技術をオフにする、未知の番号から着信した「FaceTime」の呼び出しをブロックするといった機能がある。また、アップル製のデバイスは、ロックを解除しないとアクセサリーを接続できなくなる。
Appleによると、全世界で使われているApple製デバイスはおよそ20億台で、そのうち、実際にロックダウンモードを有効にしなければならないケースは少ないという。だが、この種の極端な対策はもっと普及する必要があるのではないか、とサイバーセキュリティ専門家は考えている。世界中の政府が、標的を広げると同時に、攻撃の頻度も上げているからだ
つい先頃、米連邦捜査局(FBI)と英保安局(MI5)が共同で警告を発するという異例の措置に出ている。中国のスパイが「われわれの経済と国際的な安全保障」にとって「深刻な」脅威をもたらしており、そのハッキングプログラムは「他の主要国すべてを合わせたプログラムより強大」だという内容だった。他の政府機関も、ロシアをはじめとする敵国からのハッキングについて同様の警告を発している。米国家情報長官によると、ロシアは2017年、米政府と政党に加えシンクタンクやロビー活動グループも標的にしたとされている。
まん延するランサムウェアやウイルスによる攻撃が、できるだけ短時間での拡散を狙うのに対して、標的型攻撃は、水面下での情報収集活動を目的とすることが多い。そこから、テクノロジーを盗み出したり、国家機密を暴露したりするのだ。
Apple自体も先頃、過去8カ月間で150近い国のユーザーに対する標的型のハッキング活動を追跡したと発表した。Appleは既に、標的にされている可能性があるユーザーに警告するプログラムを開始している。2022年の秋にロックダウンモードがリリースされれば、これはApple側の取り組みの拡大を意味する、とサイバーセキュリティの専門家は語る。ロックダウンモードは、望めば誰でも有効にできるからだ。
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