パナソニックグループは、同社のブランドコミュニケーション戦略について説明。4月からスタートした事業会社制にあわせて設定したブランドスローガン「幸せの、チカラに。」の狙いなどについて触れた。
パナソニック ホールディングス 執行役員 ブランド戦略・コミュニケーション戦略担当の森井理博氏は、ブランドスローガンの制定に向けては、数百の言葉のなかから、社内外および国内外の意見を聞いて選定してきた経緯に触れながら、「新たなブランドスローガンに対しては、『抽象的でわかりにくい』、『一般的すぎる』という批判もあったが、最終候補を3、4点に絞り込んだ際に、最も共感できると評価された言葉である。また、パナソニックが使っていた『A Better Life, A Better World』や、他社のブランドスローガンなど約15件を日本で比較した結果、圧倒的な力があった」と、自信をみせる。
「幸せの、チカラに。」は、パナソニックグループの創業者である松下幸之助氏の「物心一如」の言葉をベースにしている。1932年に松下幸之助氏が語ったこの言葉は、「人間の幸福は、物心両面の豊かさによって、維持され、向上が続けられ、精神的な安定と、物資の供給が相まって、初めて人生の幸福が安定する」という考え方に基づき、物と心の両面での豊かさに満ちた理想の社会の実現に向けて邁進する企業になる方針を打ち出したことに起因する。
同社では、「物心一如」を現代風に言い換えた「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」をパーパスに掲げ、くらしのwell-being、しごとのwell-being、従業員のwell-beingの3点から取り組んでいくことを示している。
「これをコミュニケーションする際に、よりわかりやすくするために、well-beingなどの言葉を置き換える作業を行った。また、物と心が共に豊かな理想の社会の実現という言葉もかなり細かく分析した」とし、「最終的に行きついたのは、お客様の幸せを担保することがパナソニックグループの役割であるという結論であり、様々な国で共通的に理解される価値観としてあがったのが『Sustainable Happiness(持続可能な幸せ)』であった」という
ここでは、マーケティング分野で用いられるデジノグラフィカルサーベイの手法などにより、7カ国を対象に、顧客が求めている価値について分析を行ったという。
「HappyやHappinessは、おいしいものを食べて幸せといったように、その時々の幸せを示すニュアンスが強い。これに対して、Sustainable Happinessは、幸せが持続することを指し、そのためには、平和で、精神的に心が満たされ、暮らしが安定していることが必要となる。創業者の考え方に近く、社内外の分析をした上で、3つのwell-beingを置き換える言葉は、『持続可能な幸せ』であることに辿り着いた」とした。
こうした取り組みから、「Sustainable Happiness」という言葉にたどり着き、それが、「幸せの、チカラに。」というブランドスローガンの制定につながっているという。
「幸せの、チカラに。」の表現についても説明した。「、」には、人それぞれの幸せを考えるための一呼吸の意味を持たせ、「。」には、それぞれの人、場所の幸せに応える強い意志を示し、言い切りの意味を持たせたという。また、「チカラ」というカタカナ表記には、「下支え」や「寄り添う」という優しさの思いを込めたという。
「最後の『。』によって、言葉が閉じたように見えるが、むしろ、これは『開かれたキャッチコピー』というもので、パナソニックグループが、一人ひとりのチカラになるという意思に続いている」と説明した。
一方で、英語では「Live Your Best」、中国語では「关护无界 身心如悦(グアン フー ウー ジェー シェン シン ルー ユエ)」を用いている。
「英語も、中国語も『幸せの、チカラに。』の直訳ではない。『幸せの、チカラに。』の言葉に込めた背景や意味をもとに作ったものであり、意訳である」という。
英語は「Live Your Best Life」をもとにしており、最後は5つの候補に絞り込んで、調査を実施し、趣旨に近いこと、共感できるという観点から選定したという。また、中国語は、中国を中心に家電および空調事業を展開していた中国・北東アジア社が、すでに使っていた言葉だという。中国語のコピーをいくつも作り、リサーチを行ったものの、従来から使っていた言葉が「腑に落ちる」という結果がでたという。「中国語では、くらし事業領域に使っていた言葉を、全社スローガンに昇格させたことになる」という。中国語では、「どこまでも寄り添う 心身の喜びのために」という意味になる。
なお、「幸せの、チカラに。」は、日英中の3カ国語となるが、このブランドスローガンを紹介するサイトは、38カ国語で展開する予定だという。パナソニックグループでは、「幸せの、チカラに。」によるテレビCMもスタートしている。
「幸せの、チカラに。」を象徴するモチーフとして、ボタニカルを採用。出演者の人選は、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を反映しており、さらに、7つの事業会社のモチーフを花で表現し、それぞれに色を変え、それぞれの事業の独立性や自主責任経営の姿勢も盛り込んでいる。
一方で、2022年4月以降、7つの事業会社は、それぞれにパーパスやビジョン、メッセージなどを発信している。
現在、パナソニックグループは、持株会社のパソナニックホールディングスの傘下に、パナソニック(通称・新パナソニック)のほか、パナソニックオートモーティブシステムズ、パナソニックエンターテインメント&コミュニケーション、パナソニックハウジングソリューションズ、パナソニックコネクト、パナソニックインダストリー、パナソニックエナジーの7つの事業会社がある。
たとえば、パナソニックグループ全体では、「幸せの、チカラに。」をメッセージにしているが、家電事業などを行う新パナソニックでは「Make New」を打ち出し、BtoB事業を行うパナソニックコネクトは、「現場から社会を動かし 未来へつなぐ」をパーパスに掲げている。
また、これまではパナソニックブルーによる統一感を大切にしていたが、それぞれの事業会社が独自にカラーを打ち出している点も大きな変化だ。たとえば、車載用電池や蓄電池などの事業を行うパナソニックエナジーでは、環境を意識して、グリーンを基調にした訴求を行っている。
森井執行役員は、「7つの事業会社が発信するメッセージがバラバラだ、という批判があることも知っている」としながら、「たとえば、これまでは、パナソニックブルーを徹底してきたが、それが、世の中が求めていることとずれているのであれば、撤廃しても構わないと考えた。パナソニック エナジーの事業の価値観に沿っているのがグリーンであれば、それを前提にすればいい。パナソニックブルーを押しつけるのではなく、事業会社ごとにステークホルダーとの関係性を構築する上で、最適なものを選べるようにした。同様に、7つの事業会社のメッセージが混在してもいいと考えている」とする。
この状態を「統率の取れたバラバラ」と表現し、「野放図なバラバラではない」とも語る。
4月以降、各事業会社のなかにブランド担当役員を新設。月1回、会議を行い、ブランド戦略の観点での役割分担や、シナジー創出に向けた検討を行っているという。
「ブランド戦略は、経営戦略の重要なエレメントのひとつである。最低限のガバナンスを利かせることは大切である。事業会社に個性あるメッセージを出してもらうことを前提に、お互いが納得した上で、グループとしてのブランド戦略を推進している。そのために、連携を密にしている」とする。
森井執行役員は、ブランド戦略の基本的な考え方を「土地」と「家」で表現する。パナソニックホールディングスの役割は、経営基本方針をベースにした「土地」の価値をあげ、パナソニックのブランドを魅力的なものにすることである。パーパスや環境といったあらゆる事業の共通の価値観をしっかりと伝えることになるという。
その上に魅力的な「家」を建てるのが、自主責任経営による7つの事業会社の役割だ。競争力を担保するためのブランド戦略を行い、専鋭化を促進することになる。これが組み合わさることで効果を最大化できるというわけだ。
なお、「幸せの、チカラに。」のテレビCMは、まずはパーパスのコンセプトを示す内容としたが、下期以降は、各事業における、「幸せの、チカラに。」への取り組みを具体的に示す内容になるという。
さらに、パナソニックグループの24万人の社員一人ひとりが、どうしたら、「お客様の幸せのチカラになれるのか」を考える取り組みもグローバルで行っていくという。
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