だが、森井執行役員は、パナソニックのブランド戦略の現状に強い危機感を持っている。
「残念ながら、パナソニックのブランドは、強くなりきれていない。世の中の流れに、事業やブランドが整合性を取れていなかった」と振り返り、「その理由は、会社全体が内向きであったため」と自己反省する。
森井執行役員は、2020年2月に、パナソニックグループに入社。それ以前は、回転ずしのあきんどスシローや、格安航空会社のPeach Aviationでマーケティング部門を統括。PwCコンサルティングでマーケティングディレクターとしての経験を持つ。「パナソニックグループに、最先端のマーケティング手法を投入でき、メソドロジーを事業会社にも展開できる」と、自らの役割を示す。
マーケティングのプロの視点から、これまでのパナソニックブランドの弱点を、「社会の動き、トレンドをキャッチアップできなかった」と指摘し、「GAFAに代表されるas a service型ビジネスモデルが台頭したことで、サービスを消費する顧客が増加したものの、それに対してパナソニックブランドがアジャストできていないことという課題がある。また、デジタル化とパーソナライゼーションの波に乗り遅れたという反省がある。また、環境に対する訴求はいち早く行ったが、ESGの流れに対して乗り遅れたこと。そして、グローバルブランディングでも遅れを取っていた」と手厳しい。
続けて、「コーポレートアイデンティティを主張しすぎ、顧客との関係性をブランドに反映することへの変化を怠った。行動や多様化した価値観にも対応できず、データを活用せずに、勘や経験に頼るブランド戦略や宣伝広告戦略を行っていた」とする。
パナソニックのブランドに関する調査を行うと、「信頼がある」、「伝統がある」、「安心感がある」という評価が高いという。だが、その一方で、20代以下の男女での認知度は53%に留まるという実態がある。「信頼や伝統、安心というイメージを持っていないという前に、パナソニックに対する認知度がない」と危機感を持つ。
「いまのパナソニックには、スマホやゲーム、オーディオ・ビジュアルなどの若年層向けの製品が少ないため、若い人たちの認知度が低くてもビジネスには大きな影響がない。だが、10年先には、パナソニックの家電製品を購入する主要層になる。パナソニックグループの事業の多くを占めるBtoBにおいても、30代で意思決定層に入ってくるという今後の社会の流れを考えれば、パナソニックというブランドが、純粋想起(Evoked Set)できないと、指名入札や検討、交渉の対象にならないことが危惧される。特定商品の認知は短期間であげやいすが、企業ブランドの認知をあげるには時間がかかる。少なくても2年かかると言われている。いまから手を打たないと間に合わない」と語る。
これはグローバルでも、ほぼ同じ状況だという。「中国やアジアにおいて、若年層の認知度はそれほど低くはないが、欧米では、日本同様に若年層の認知度が低い。これは喫緊の課題である」とする。
パナソニックグループの売上高や人員構成では、海外比率が40~45%を占める。だが、ブランドコミュニケーション予算の9割は日本に使われていたという。「移転価格税制の問題もあり、グローバルでのブランド支援ができにくい構造になっていた。しかも、パナソニックグループでは、これを過大に捉えすぎ、最低限のブランド維持活動に限定していたところがあった。グローバルポートフォリオを考えながら、エリアに応じたブランド戦略を策定し、現地に提案すべきであり、そこに舵を切っている。今後は、現地との議論も活発化させる」とする。
パナソニックホールディングスでは、ブランド戦略のゴールに向けて、具体的なKPIを設定しているという。
パーパスとなる「幸せの、チカラに。」の浸透率や、グループ長期環境ビジョンである「Panasonic GREEN IMPACT」の浸透率とともに、それらから得られるブランド認知度などを指標に設定している。
「ブランド認知を高めることで、好意度を向上させることができ、それによって人々の記憶ネットワークを強化でき、純粋想起(Evoked Set)率の向上につなげることができる。純粋想起を高めると、選択確率が上昇し、市場シェアが高まることになる。それにより、売れる確率がさらに高まり、結果として、売上げが上昇する。純粋想起を高めることまでがブランド戦略であり、それ以降は事業会社の役割になる」と位置づけた。
パナソニック ホールディングスでは、「経営基本方針の社内外認知と共感の獲得」、「パナソニックグループのお役立ち(パーパスブランディング)」、「将来の競争力への前振り(アスピレーション)」、「環境への取組み(Panasonic GREEN IMPACT)」、「インターナルブランディング」の5つを基本施策方針に掲げ、さまざまなステークホルダーとの関係性を強化し、顧客との関係性そのものをブランディングに位置づけるとともに、事業会社の下支えをするための取り組みを強化。従業員が誇りを持って働ける会社になることをゴールにするという。
一方、ブランド戦略の観点から、環境に対する取り組みについても説明した。パナソニックグループでは1月に、グループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を発表。2050年に向けた具体的な数値目標として、現時点での全世界のCO2総排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指すことを発表している。
「削減貢献量に対しては、基準が明確ではないという指摘もあるが、製造業にとっては、重要な考え方である。供給される電力が再生可能エネルギーに転換することで、GHG(温室効果ガス)プロトコルのスコープ1~3は解決してしまう。だが、パナソニックグループでは、削減貢献量を用いて、製造業のアクションそのものによって、CO2排出量を削減していくという方針を打ち出した。この考え方を、他の製造業や政府、メディアと連携し、日本発の環境貢献モデルとし、世界標準プロトコルに定着させるという狙いがある」と述べた。
また、「考え方だけでなく、具体的なアクションとして取り組んでいくことが大切であり、その狙いをPanasonic GREEN IMPACTの最後のACTに込めた。その取り組みを、ブランドという観点からも発信していくことになる」と語る。そして、「創業者である松下幸之助は、約100年前から、いまSDGsで語られていることに言及してきた。新たな考えを作るのではなく、原点に戻りながら、社会で語られている文脈に置き換えることが大事である」と語る。
ここでも、ブランド戦略の転換を図る。「パナソニックグループでは、これまでにもSDGsに対するメッセージを発信し、テレビCMも行ってきた」と前置きし、「SDGsに取り組んでいる姿勢を示すという点では価値があるが、発信内容がSDGsのNPO団体のようなメッセージになっていた。SDGsは事業のなかに練り込んで、事業会社がアクションとして示したり、製品という市場に投入したりするものである。理念先行、コンセプト先行に終始していたと反省している。それを変えていくことになる」とする。
今後、環境の観点から、パナソニックグループが、どんな発信をしていくのかが楽しみだ。
なお、2025年に開催される大阪・関西万博のパナソニックグループパビリオンでは、デジタルとリアルをシームレスに融合した展示を行うことを改めて強調。万博までの開催期間までの間、パナソニックセンター東京などを活用して、リアル&デジタルのPoCを行い、それらの成果をもとにノウハウを活用して、出展内容を決定していく考えも示した。
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