Appleはこれまで、「iPhone」の頭脳となるチップの性能が、「Mac」シリーズでも役割を十分に果たせるほど強力であることを示してきた。そして先日の「Worldwide Developers Conference(WWDC)」では、デザインを一新した新型「MacBook Air」を発表し、これに搭載される第2世代の自社製チップ「M2」でも、複数の点でさらなる機能向上を実現している。モバイル製品向けのチップがコンピューターに搭載され、大いに話題を呼んでいるこの流れは、Qualcommにとっても願ってもない状況だろう。同社も高性能のノート型PC向けにモバイルベースの次世代チップセットを開発しており、Appleに負けないビッグヒットを狙っているからだ。
Qualcommの最高経営責任者(CEO)であるCristiano Amon氏は先週、米CNETとのインタビューでこう断言した。「CPUについて、当社はPCの性能向上をリードする立場を目指している。以上だ」
だがここで唯一の問題点が浮上する。これらの超高速プロセッサーを実際に目にするのは、早くても2023年末になるということだ。
ハイエンドスマートフォン向けチップのメーカーとして最も知られるQualcommは実際、Appleよりはるかに長期にわたり「Snapdragon」シリーズでモバイルベースのプロセッサーを供給してきた。例えば、Microsoftの「Surface Pro X」は初の「M1」搭載マシンが登場する1年近く前には、すでに世に出ていた。
しかしQualcommは今、Armアーキテクチャー向けの高性能チップが専門の企業、NUVIAの買収の一環として設計されたチップに大きな期待を寄せている。Armはスマートフォンから「iPad」まで、多くのデバイスに採用されているアーキテクチャーだ。Amon氏は、NUVIAのチップについて、既存のSnapdragonプロセッサー製品と比較して突出した性能を持つと評価したうえで、今後はCPUやGPU、人工知能(AI)用ニューラルプロセッシング向けの高性能計算(HPC)に特化した製品になると述べた。
Qualcommが2021年に買収したNUVIAは、GoogleやArm、Appleの出身者で、チップ開発の経験豊富なベテラン技術者らが創業した企業だ。
2021年6月にQualcommのCEOに就任したAmon氏は、筆者とのインタビューで、NUVIAについての考えや拡張現実(AR)とメタバースの未来、今後の経済の見通し、サプライチェーンがボトルネックとなっている状況への対応などについて語った。
Amon氏は、サプライチェーンの制約が厳しくなる中で、提携しているファウンドリーと共に生産能力の増強をめざして投資を行い、なおかつ供給元の多様化に取り組んできたと述べた。Qualcommが取った措置は実を結び始めており、2022年末ないし2023年初めまでには需給バランスが改善すると見込んでいるという。
Amon氏は、経済の方向性は予測が難しいと述べながらも、悲観的な心理が多数を占めていることは認めた。経済が低迷する可能性はあるが、Qualcommは、中核となるスマートフォン事業にとどまらず、ヘルスケアから自動車業界までの多様な業界への製品供給に活路を見いだしつつある。
Qualcommの事業に影響を及ぼしうる要素として挙げられるのが、最大の顧客の1つであるAppleを失う事態だ。Qualcommは2021年に示したガイダンスの中で、Apple製デバイス向けのモデムのシェアが2023年までに20%に低下し、その後は1桁台になるとの見通しを示している。
一方でAmon氏は、Qualcommは引き続き成長しており、Appleが自社のモデムを利用するかどうかは自分が決められることではないとし、「彼らは私たちの連絡先も居場所も知っている(必要があれば向こうから連絡をしてくるだろう)」と言う。
5月に開催されたGoogle I/Oの最後にGoogleは、リアルタイムで言語翻訳ができる拡張現実(AR)グラスを紹介した。この紹介は巧みに制作された動画によるもので、一般向けに公開される時期は不明だった。
ただし、サイエンスフィクションの番組で目にするような薄型で洗練されたARグラスの登場はまだ先のことかもしれない。
「5年後くらいには現実的なARグラスを実現できるだろう。見通しの立たない技術的な課題があるというわけではない」とAmon氏は言う。
そして、もっと早く登場する可能性のあるARグラスは、最初は大量ではないにせよ、実現しつつあり、重要な意味を持つだろうとしている。
仮想現実(VR)については、「Meta Quest」ヘッドセットの普及に伴ってクリティカルマスに達しつつある。現実世界にデジタルの画像を重ねるARはまだ普及し始めたところだが、Amon氏はVRよりも拡大すると発言している。
こうしたVRやARグラスは、昨今テクノロジー分野のバズワードとなっているメタバースに欠かせないものとなるだろう。メタバースは他者とつながるための手段であり、Amon氏に言わせれば「使い道は無限だ」。
なお、Amon氏は「誰もがメタバースで生活するようになるのは、企業向けに拡大してからだろう」とも語っている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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