Elon Musk氏はメディア事業についてどの程度知っているのだろうか。同氏はTwitterを440億ドルで買収することで合意に至った。同社の現在の経営陣よりもうまい収益化プランを持っていると示唆したようなものだが、これまでの同氏の言動からみて、それはありそうにない。
多才なMusk氏は、Tesla、SpaceX、そしてかつてはPayPalのトップとして、成功する企業を構築する指導者としての能力を証明してきた。だが、これらの企業はメディア事業ではない。メディア事業はこれらの企業とは異なる業種であり、その市場は収益も質も低下しつつある。
メディア業界のビジネスモデルは流動的だ。広告を収益基盤にする以上、信頼できる持続可能なモデルは存在しない。この20年間で減退してきていることは間違いなさそうだ。
広告業界は、インターネット上のあらゆる場所で消費者を直接、繰り返しターゲティングできる技術を獲得したことにより、メディアパブリッシャーの中抜きに成功した。The New York Timesオンライン版の裕福な読者層をどこまでも追跡できるのであれば、高い広告料を同紙に払って広告を掲載してもらう理由はない。
一方、広告主は物議を醸すコンテンツやフェイクニュース、詐欺サイトに広告が表示されることは望んでいない。Twitterは、物議を醸すコンテンツを排除し、問題を起こすユーザーをプラットフォームやタイムラインから締め出そうとしてきた。それにより、広告主の懸念はある程度鎮まった。
しかし、Musk氏はTwitterによるこうしたコンテンツ削除やユーザーのアカウント凍結に批判的だ。Musk氏がTwitterのオーナーになれば、物議を醸すコンテンツやユーザーを容認するようなルール変更があるかもしれない。
広告主はそのような変更は好まず、Twitterから離れていく可能性がある。また、言論の自由に関するMusk氏のビジョンは、有害なコンテンツの公開を禁じる欧州連合(EU)の規制に沿わない可能性が高く、違反すれば高額な罰金を科せられるかもしれない。
Musk氏には、有料サブスクリプションサービスを提供するという選択肢もある。そうすれば、広告主からのサポートは必要なく、広告主が求める社会的および道徳的基準に準拠する必要もない。
だが、そうなるとTwitterははるかに小規模になるだろう。なぜなら、過激派の意見が自由に共有される場になってしまい、大多数のユーザーにとって魅力的ではなくなる可能性があるからだ。
Musk氏は実行可能な収益戦略を立てる必要がある。ただ、Twitterに似た新たなサービスを立ち上げるのではなく、Twitterを買収したのは正しいアプローチだ。Twitterのようなブランドを新たに立ち上げるには何年もかかるだろうし、失敗のリスクも高い。定評のあるブランドを買収する方がはるかに得策だ。
Amazonの共同創業者、Jeff Bezos氏も同じ戦略をとった。同氏は2013年に2億5000万ドルでThe Washington Postを買収した。
同じ年に、eBayの共同創業者で富豪のPierre Omidyar氏は、新たなビジネスとして、メディアベンチャーFirst Look Mediaを立ち上げた。同氏の戦略は、著名なジャーナリストをオンラインメディアベンチャーに招き入れるというものだった。ジャーナリストには既に読者がついているので、既存のメディアに割増料金を支払う必要はないと踏んだのだ。
だが、メディアベンチャーをゼロから構築する方法も分からず苦労したFirst Look Mediaでは、この戦略はうまく機能しなかった。その悲惨な顛末は、Wikipedia(英語)で紹介されている。
Musk氏が定評あるメディアブランドを買収したのは正しいアプローチではあったが、Twitterのための新たな戦略についての説明が欠けている。
もっとも、Twitterを上場廃止することで四半期財務報告義務から解放されるため、Musk氏率いる経営陣には、より長期的な収益目標を計画できるというメリットがある。
ウォール街の厳しい監視は上場企業の株価に影響し、経営陣はそれに縛られてビジネスで短期的な焦点しか持てなくなる。上場廃止によってTwitterの経営陣はより自由になり、主要な数字を明らかにする必要がなくなる。
言論の自由は、社会的責任を伴わないものでは決してない。それは、Twitterが苦労して学んだ教訓だ。Musk氏もこの教訓を学ぶ必要があるだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」