パナソニックグループは、DEI(Diversity, Equity and Inclusion)に関する取り組みについて説明。そのなかで、注目を集める同社の選択型週休3日制の狙いについても触れた。
パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCHRO(チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー)、DEI推進担当の三島茂樹氏は、「国内のグループ社員6万人を対象に実施することになるが、導入の意思決定は事業会社ごとに行う。就労に対する価値観が多様化するなかで、仕事への貢献をより一層高めるために、社外副業や地域ボランティア、自己学習などに挑戦する時間の創出を目的として導入するものである」とし、「パナソニック ホールディングスとパナソニックオペレーショナルエクセレンスにおいては先行して、2022年度の早いタイミングでの試行導入を目指す。2社あわせて約5000人が対象となり、現在、部門や職種を募っているところである」と述べた。
また、「選択型週休3日制の詳細は検討段階であるが、1日の所定労働時間は変更せずに、月間の所定労働時間を減らす方向になる。これが給与にどんな影響を与えるかについては、労使協議を行っていくことになる。給与を制限することが目的ではない。従業員一人ひとりへの影響を精査し、丁寧に制度を設計していく」とした。
選択型週休3日制は、2022年1月に、パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏が発表。従業員のウェルビーイングへの取り組みとして、ワークライフバランスの実現に向けた制度や仕組みの見直しを実施。その具体的施策のひとつにあげていた。
パナソニックグループでは、選択型週休3日制の導入とともに、ホームオフィス制度(仮称)を導入することも発表しており、これについては、「生産性の維持や向上に加えて、社員が自らが描くキャリアを実現していく上で、出産や育児、介護、配偶者の転勤といったライフイベントがキャリア形成の障害とならないように、従来以上に、時間や場所の制約を無くした、より多様で、柔軟な働き方を選択できることを目指して導入する」と述べた。
従業員の暮らしと仕事の調和を図ることで、多様性を活かし、グループ全体の競争力を強化する狙いがあるとしている。
パナソニックグループは、2022年4月に持ち株会社制へ移行し、事業会社による自主責任経営へと転換。多様な人材がそれぞれの力を最大限発揮できる最も働きがいのある会社を目指すとともに、多様な意見や気づきを集め、より質の高い意思決定を迅速に行える会社への変革を目指し、「一人ひとりが活きる経営」を実践する方針を打ち出している。
この実現に向けて、「DEIの推進」とともに、「自律したキャリア形成」、「向き合う業界に応じた最適な制度・仕組みの構築」を重視。今回のDEIに関する説明会は、それらの観点から新たな取り組みなどについて触れた。
パナソニックホールディングスの三島グループCHROは、「『事業は人なり』という言葉に表される通り、事業競争力の原動力は人である。パナソニックグループは、24万人の多様な個性と能力を持つ人材が集う企業である。一人ひとりが活きる経営を実践することが、多様な社会へのお役立ちを果たし続けるための必要条件であると考えている」とする。
説明のなかでは、創業者である松下幸之助氏が常々「素直な心」の大切さを語っており、「先入観などに捉われていると、対立や誤解、憎しみが生まれる。素直な心で物事をありのままに見れば、真実の姿を正しく捉えることができる」と発言していたことを紹介。さらに、一人ひとりが生まれながらに持っている個性や才能といった天分を活かしきることを説き、それぞれの個性を活かし、知恵を集める「衆知経営」の重要性も唱えていたことも示しながら、「一人ひとりが幸せに働き、仕事を通じて成長することを、創業者は心から願っており、そこにはダイバーシティとインクルージョンの心が息づいていた」と述べた。そして、「これに、エクイティによる一人ひとりの個性に応じた公平性の追求という概念を加え、DEIを人が活きる経営の必要条件に捉えた。公平性の観点から、既存の制度、仕組みについても見直しを進めている」と語った。
「DEIの推進」では、「新たな時代に向け、人の心の垣根を無くしていくことが、パナソニックグループのDEIポリシーである」とし、社内にグループDEI推進委員会を設置し、グループ横断で対処すべきDEI課題への共通認識づくりや、課題を解決するグループ共通の取り組みについて継続的に対話を行い、主要なアクションを決定して、推進する取り組みを行っていることを紹介。さらに、楠見グループCEOも出席する形で開催したグループDEIフォーラムなどにより、DEIをグループの文化として醸成するためのきっかけづくりの各種活動を行っていることも紹介した。
DEI推進の具体的な取り組みでは、「トップコミットメント」、「インクルーシブな職場環境づくり」、「一人ひとりへのサポート」の3点をあげた。
「トップコミットメント」に関しては、「2022年度にフォーカスするのは、トップの意志を発信し続けることである」とし、「2010年度にD&Iのポリシーを制定したが、これがグループのなかにカルチャーとして定着するまでには至っていない。事業会社の社長がDEIポリシーを発信していくことが必要である。さらに、社内に閉じるのではなく、社外にも発信していく必要がある」とした。
「インクルーシブな職場環境づくり」においては、2022年度は、社員がアンコンシャスバイアスに気がつくための活動に注力するとし、アンコンシャスバイアストレーニングを年間6万人の社員が受講する環境を作ったり、約110人の社員が、アンコンシャスバイアス社内アンバサダーの認定を取得したりといった実績を生んでいることを紹介した。
アンコンシャスバイアスは、誰もが持っている無意識の思い込みのことを指し、小さな子供がいる社員は出張が難しいといった先入観が、社員の成長機会を奪ったり、個性が発揮できない原因になっていたりするものだ。
「社員一人ひとりがアンコンシャスバイアスに気づき、意識変容や行動変容につなげることが、DEI推進の根幹になる」とした。
「一人ひとりへのサポート」としては、従業員一律ではなく、一人ひとりの個性に向き合う取り組みを行う姿勢をみせた。ここでは、年次有給休暇の取得促進、リモートワーク制度やフレックス勤務の浸透、育児休業や休暇取得の促進などに取り組んでいる。また、自己都合による離職率は1.8%に抑えられており、「ワークライフバランスを実現する制度や仕組みが一定程度整えられたと認識している」と述べた。
また、女性の管理職比率では、「年々上昇しているものの、継続的な取り組みが必要である」と前置きし、女性活躍に向けたキャリアストレッチセミナーや、女性社員による自発的なコミュニティ活動を実施していることを紹介。「社員の女性比率は約20%であり、女性登用を増やすには距離がある。今後は、事業会社ごとに定量、定性の指標を作っていくことになる。だが、数値目標を置くとそれが目的化してしまう。現場の変革や新たなカルチャーとして定着させることが大切である」などとした。
パナソニックグループにおける2021年度の女性管理職数は607人、女性管理職比率は4.8%、女性役付者比率は8.4%となっている。なお、パナソニックホールディングスでは、2030年に女性役員比率を30%以上にすることを目指すという。
さらに、障碍者雇用率を高める活動も進めており、聴覚障碍者への情報保障、障碍者への教育コンテンツの展開、障害に関するワークサポート相談室の設置、コミュニティ活動の強化、バリアフリー環境の整備などに取り組んでいる。
加えて、LGBTQについての理解を深める活動を実施。同性パートナーに対しても配偶者に準じた制度を適用するといったことも開始している。
2つめの「自律したキャリア形成」では、「社員と会社の新たな関係性を築き、社員が挑戦する機会を提供し、それを最大限支援していくことを目指す」とし、2019年からは、A Better Dialogueと呼ぶ仕組みを用いて、上司と社員による対話の「質」と「量」を高め、一人ひとりの成長や挑戦を支援。1対1の対話に加えて、「キャリア・能力開発」「目標管理」「コンピテンシーレビュー」の3つの仕組みでキャリア形成を支援するという。
また、グループ内公募を通じて、社員の意欲や経験、スキルに基づいた自律的なキャリア形成制度や、社内で複数の仕事を行う複業制度を実施している。
従業員意識調査では、「社員エンゲージメント」に対する肯定回答率が66%、社員を活かす環境への肯定回答率は64%となっており、「最高水準になるにはまだ距離がある。これらは今後の重要指標として捉えていくことになる」とした。
3つめの「向き合う業界に応じた最適な制度・仕組みの構築」については、「事業会社においては、向き合う業界、顧客、競合に対して最適な事業競争力を強化するための体制を構築する。必要な人材獲得、パフォーマンス向上、報酬評価制度、組織開発、人材開発の推進は、事業会社が行うことになる」としたほか、「パナソニックホールディングスは、グループ共通の人事戦略を実施。パナソニックオペレーショナルエクセレンスは、事業会社の戦略実行の効率化や高度化を支援する」とした。
また、パナソニックホールディングスとパナソニックオペレーショナルエクセレンスにおける取り組みを紹介。「職位の役割を明文化し、個人の属性やバックグラウンドに捉われない役割ベースの人材マネジメントの実現に取り組んでいる。役割定義書を社内に公開し、社内公募、採用、人材育成、評価、登用・任命、後継者育成などの人材マネジメントをリンクさせ、社員一人ひとりの主体的なキャリア開発を促進していく」と述べた。
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