「採用CXの設計」が大成功している企業の秘密--2つのタッチポイントの相乗効果を狙う

草深生馬(RECCOO COO兼CHRO)2022年01月13日 09時00分
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 この連載「元Googleの人事が解説--どんな企業でも実践できる『新卒採用』の極意」では、グーグルで新卒採用を担当していた筆者が、企業がそれぞれの採用プロセスにおいて、どのように自社にあった「才能」を獲得・育成していけばいいのかを具体案を交えてご紹介していきます。

採用プロセスの中で一番効果が大きいタッチポイントは?

 第5回第6回と続いて「採用CX」というテーマで連載して参りましたが、いよいよ今回が最も具体的な事例紹介となります。これまでに、採用活動の透明化が進んだマーケットでこそ効果的な「採用CX」について、採用プロセス全体を「一本のストーリー」に見立てることの意義や、タッチポイントごとの体験を最大化するための観点、中でも「People」の魅力整理の重要性についてご説明しました。

 これらを踏まえて、今回はさらに具体的にいくつかのタッチポイントを取り上げて、採用CXを意識して設計した事例をご紹介します。新卒採用プロセスは認知から入社にいたるまで、足掛け2年以上にもなる非常に長いプロセスです。まず、どこから手をつけるのが効果的なのでしょうか。

 私は「初期接点」そして「面接」が、特にインパクトが大きいタッチポイントだと考えています。

「人事的に面白い」は学生に通用しないという前提に立とう

 まず初期接点についてですが、ここでは「人事や社員など人を介して候補者と触れ合う最初の瞬間」と理解してください。そして、この瞬間をどれだけ意図的にデザインできるかが、その後のプロセスにも大きな影響をおよぼします。

 改めて言うまでもなく、マーケティングの観点で採用を考えた場合、採用ターゲットである候補者たちの目線に立って、そのニーズに応えるべく企画を用意するのは当たり前の思考です。ただ、実際さまざまな企業から採用について相談を受けると、驚くほど多くの企業が、実は「会社や人事の目線」でしか物事を検討できていないことがわかります。

 たとえば、ターゲット学生たちがどんな情報ソースを利用しているのか、自社に対する期待値はどのようなものなのか、競合する企業たちは彼らにどんなコミュニケーションを取っているのか、こういった生々しい情報を集められているでしょうか。学生たちと毎日のように会話できているでしょうか。こういった新鮮なインサイトを持たないままに、人事的によさそうな企画を作ったところで、残念ながら肝心の候補者の心には届かず、自己満足的なコンテンツに終わってしまうでしょう。

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 理由は単純で、「印象に残らない」からです。情報に溢れた昨今の採用マーケットでは、学生の期待に適切に応えられていない企画の場合、よほど奇抜なコンテンツでない限り、学生を振り向かせることはできません。

 そもそもの前提として「人事の面白い」と「学生の面白い」は全く違うと思った方がよいでしょう。勝手な思い込みや何となくの感覚を排除して、学生のリアルをしっかりと把握することで、印象を残す演出ができるようになるのです。

「2つのタッチポイント」を連携させると相乗効果が生まれる

 印象と言えば、やはり「第一印象」が強烈です。その瞬間に、いかに意図した通りの感情や感想を抱いてもらえるか。これが初期接点を演出することの狙いです。

 1つの事例をご紹介します。たとえば、製造から物流まで手がけるとある国内大手企業A社では、採用プロセスの初期において大勢の学生に向けて実施するイベントと、採用プロセスが進んでから絞り込まれたターゲット学生に向けて実施するイベントでは、提供するコンテンツを大きく変えているそうです。

 そもそもの話、学生はそのイベントが、「面白そう」もしくは「参加すると得になりそう」という場合にしか振り向いてくれません。A社の場合、本来伝えたい強みはそのユニークなビジネスモデルにあります。ただ、いきなり複雑なビジネスモデルを説明したところで、採用初期段階の学生の心には残りづらいものです。そこで、初期接点では「強い関心を喚起すること」に徹底して注力しています。

 実際に、大人数が参加し、参加学生の属性もバラバラな状態の採用初期段階のイベントでは、「人」を前面に押し出した明るいコミュニケーションに徹し、クイズなどの参加型でキャッチーな企画で、学生の関心にフックをかけます。すると、その初期接点での印象は「A社の名前は消費者としての観点で知ってはいたけど、『働く』という別の観点も楽しそうだな。もう少し深く知ってみたいかも」といったふうに演出されます。

 この印象を踏まえて、次のステップとして「事業の面白さを徹底的に訴求する」インターンシップを提供しているのです。初期接点であえて事業に触れず、自社への関心を高めることに注力したからこそ、続くインターンへの参加率は非常に高くなり、「もう少し深く知ってみたいかも」と考えている学生に対して、最大の魅力である「ビジネスモデル」をぶつけるわけですから、学生の満足度も自ずと高くなるという仕掛けです。

 まさに、タッチポイント間の連携によって、相乗的に効果が生まれているよい例だと思います。

やはり「面接」は採用CXのインパクトが大きい重要フェーズ

 もうひとつ、採用CXでインパクトが大きい「面接」についてご紹介します。

 これまで、面接は企業が学生を見極めるための時間としてしか活用されてきませんでした。ただ昨今、学生と企業のパワーバランスは大きく変わり、今や企業は「選ばれる側」でもあることを強く認識しなければなりません。そして面接は学生にとって、やはり緊張感のある特別な時間です。学生が「企業を見極める」だけでなく、それ以上に意義深い時間を過ごすことができれば、採用CXの観点では非常にインパクトが大きいタッチポイントであると言えます。

 先述の通りですが、顧客体験と候補者体験では「候補者との関係の作り方」が大きく異なります。

 顧客体験では「気持ちのよいやりとりを通して、ファンになってもらうこと」が重要です。一方で、候補者体験では、候補者は「将来は共に働く仲間となる」点が特徴的で、だからこそ合否を検討する「面接」という場では、特に本気で向き合い、互いの覚悟を確かめる必要があります。本気であればこそ、時にさらなる成長を期待してシビアなフィードバックを返すことも重要です。

 また、強い帰属意識やコミットメントを引き出すために、あえて緊張感のある時間を演出する必要が出てくることもあります。要は、気持ちのよいやりとりをして、気分よく面接を終えてもらうことが、面接の採用CXでは決してないと言うことです。学生の側も、よくあるやりとりしかなかった面接では、志望意欲を向上させることはないでしょう。

就活ノウハウで凝り固まった学生の思考をほぐす質問

 言わずもがなですが、学生も相当数の面接を受けていますから、かなり正確に面接官たちのことを見極めています。仕事として決まりきったことしかこなさない面接と、本気で相手に興味を抱き、熱意を持ってやりとりしている面接では、学生の満足度は全く異なります。企業間の比較も容易ですから、採用ブランドにも直接影響するでしょう。事実、面接の評判がよいことを理由に応募が増えている会社も存在します。

 学生に新しい気づきを与え、有意義な面接を提供するには、まず面接官やリクルーターの役割をしっかり見直す必要があります。就活ノウハウで凝り固まった学生の思考をほぐし、その人にしかない個性を見出すことがその役割のはずです。表面的なやりとりを続けるのではなく、本気で候補者のことを理解しようと努力する面接を提供してほしいと思います。

 また当然ながら、どんな質問を投げかけるかは、非常に重要です。学生からすれば、面接での典型的な質問は完全に答えを準備していますから、定型的な質問を尋ねればそれはそれはスムーズな返事がくるでしょう。重要なのは、そこから何段も深く掘り下げることです。学生も思わず考え込んでしまうくらい深く、その学生の原点になっている体験を解き明かす質問をすることで、やっと互いの理解が深まっていくのです。

内定受諾率を高める最終面接前のちょっとした工夫

 さらに、タッチポイント同士を「線」で捉えるなら、面接直後のプロセス、たとえば内定通知までを想定して「学生の心理変化」を演出するような採用CXは効果的です。例として、最終面接前のちょっとした工夫で内定受諾率を高められるコミュニケーションをひとつご紹介します。

状況:自分がリクルーターとして長期伴走してきた学生がこれから最終面接に臨む。すでに学生は複数の内定を持っており、自社も含めてどこも横並びで決め手に欠ける状態。逆に、自社としてはすぐにでもオファーを出したい高評価学生。

 上記の場合、私なら面接前にあえて緊張感のある情報を渡す場合があります。たとえば最終面接の合格率が低いこと、結果通知までかなり時間がかかることなどです。その上で「合格率が低いのはしょうがないのだから、むしろ思い切って自己表現しておいで!」といったふうに奮起を促します。もちろん学生は少なからずショックを受けたり、落ち込んだりしてしまうかもしれません。なぜ、わざわざ緊張させるようなことを伝えるのか。

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 ポイントは「自社からの評価がとても高い学生である」という部分です。おそらく最終面接も合格するだろうという見込みのもと、あえて合格率が低いことだけを強調すれば、合格のサプライズがより大きくなります。また、結果通知を猛烈に急げば、時間がかかるはずのプロセスを早めてまで内定を出してくれたと、企業側の強い期待や覚悟が伝わるでしょう。結果として、競合の中で多少なりとも強い印象を残すことができ、内定受諾に近づくかもしれません。

 上記の例は、リクルーターと学生の間の信頼関係が強固であることや、自社の魅力を存分に伝える努力がなされた上で本人がそれを咀嚼できていることが大前提です。こうした下準備や関係構築なしに、表面的なコミュニケーションに終始してしまっていては、完全に逆効果であることに注意してください。

不採用者への「お祈りメール」も採用CXの重要な手段

 また、少し角度の違う採用CX設計の例を、最後にひとつだけご紹介させていただきます。それは私がグーグルにおいて特に注力していた「選考不合格者」へのコミュニケーションです。

 前回“Googleの「不合格でも受けてよかったと思える選考」”でも触れた通りですが、選考合格者にとっては期待通りの結果ですので、選考の満足度も高くなりがちです。一方、不本意な結果に終わってしまった不合格者の満足度を高めることはなかなか難しいと言えます。

 ただ、不合格になったとはいえ、選考に参加してくれている時点で、その候補者は企業に強い関心を持つ大切な将来の採用候補者です。また、選考終盤にまで進んだ方であれば、「あと一歩で合格だった、非常にポテンシャルの高い候補者」であるとも言えるでしょう。だからこそ、不合格の方々にもファンになってもらえるような取り組みは、向こう数年にわたって効果を発揮する重要な採用CXなのです。

 それを意識して書いた不合格者への不合格通知(いわゆるお祈りメール)が、Twitter で話題になり、いくつかの媒体でも取り上げていただいたことがあります。文面において意識したことは、「これで終わりではなく、まだまだチャンスがある」と思ってもらうことでした。話題になったのは結果論ですが、多くの人がそのメールの意図に共感してくださったことは嬉しかったですし、採用CXの考え方はやはり効果的であると確信した瞬間でもありました(文面に興味のある方は、紹介してくれているブログがありますので「Google お祈りメール」などで検索してみてください)。

採用CXの積み重ねが組織を強くする

 長くなりましたが、採用CXの設計において大切にすべき考え方や、実際の活用事例などをまとめさせていただきました。学生に個性があるのと同様に、企業にも個性があります。そして、それを伝える手段としても採用CXという考え方は有効です。

 「候補者にとって、企業のどんな特徴をどんなふうに伝えれば、心を通わせられるのだろう」と思索し、学生らしさと企業らしさが重なり合う体験を提供できるようになればと願います。そうすることで初めて、企業にとって本当の意味で優秀で、採用すべき人材と巡り合うことができますし、そういう採用の積み重ねこそが、組織を強くしていくのだと思います。

草深 生馬(くさぶか・いくま)

株式会社RECCOO COO兼CHRO

1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやプレゼンテーションを実施。

2020年5月より、株式会社RECCOOのCOO兼CHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は経営層の1人として自社事業の伸長に取り組みつつ、企業の中期経営計画を達成するための「採用・組織戦略」についてのアドバイザリーやコンサルテーションをクライアントへ提供している。

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