「不採用になった人材」こそ、一番大切にすべき理由--「採用CX」の極意とは?

草深生馬(RECCOO COO兼CHRO)2021年11月10日 09時00分
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 この連載「元グーグルの人事が解説--どんな企業でも実践できる『新卒採用』の極意」では、グーグルで新卒採用を担当していた筆者が、企業がそれぞれの採用プロセスにおいて、どのように自社にあった「才能」を獲得・育成していけばいいのかを具体案を交えてご紹介していきます。

パーパス採用で最重要なのは「Candidate Experience」

 前回は、企業の社会的な存在意義を表す「パーパス」を中心にした採用活動について考察しました。ジェネレーションZの台頭により、特に若い世代を惹きつける要素として、企業の社会的なレピュテーション(評判)が重要性を増しています。

 また、投資家による企業評価の基準も、事業の社会貢献性に強い関心が集まるように変化してきました。このような社会変化を踏まえ、若く優秀な人材を惹きつけるためには、企業のパーパスをはっきりと表明すること、そして個人の持つパーパスと企業のそれを通じ合わせる採用が必要です。

 では、パーパス採用の実現のために企業は何をすればよいのでしょうか。端的に言うと、「パーパスに基づいた、一貫性のあるCandidate Experience(=候補者体験)を提供すること」に尽きます。そんな採用におけるCX(Candidate Experience)という考え方について、その重要性と具体的な活用方法を今回と次回の2回に分けてご紹介したいと思います。

「採用CX(Candidate Experience)」とは何か?

 そもそも採用CXとはどういうものでしょうか。プロダクト開発におけるUser Experience(=ユーザー体験)を略した「UX」という言葉はご存知の方も多いかと思います。採用CXとは採用における「候補者のUX」であると理解していただくと、イメージしやすいかもしれません。

 初めて企業を認知するところから、応募、選考、内定、入社とフェーズが移る中で、企業と候補者が触れ合う「タッチポイント」は無数に存在します。そのタッチポイントごとの体験を演出し、候補者の満足度を高めることが採用CXの目的です。今や、採用に関わる人間全員が意識すべきスタンダードと言えるでしょう。

キャプション

 当連載でもたびたび触れてきましたが、採用において企業はもはや「選ぶ側」ではなく、「選ばれる側」であることを改めて認識する必要があります。SNSやクチコミサービスの発達は、採用活動の透明化を促進しました。検索エンジンを使えば、さまざまな企業の選考情報が手に入ります。

 たとえば、適性検査の内容や面接の回数、面接官との具体的な会話内容まで。企業が選考中のタッチポイントにおいて少しでも不誠実な対応をすれば、たちまちインターネットを通じて評判が伝播し、応募者の減少や選考辞退の増加、ひいては企業ブランドそのものの毀損を引き起こします。

 逆に、選考中の体験次第では企業の新しいファンを作ることもできます。そして、これこそが採用CXの強化で目指すべきゴールです。一括送信ではない個別のメール連絡、候補者個々のキャリアに寄り添うリクルーター、面接官による真摯なQ&A対応など、こういった小さな体験が積み重なって、採用CXはできあがります。そしてそれらポジティブな体験がSNSなどで伝播すれば、それらが広報の役割を果たし、ポジティブな評判を作り上がることもできます。そういった評判を理由に、応募にいたる候補者も増えることでしょう。

グーグルの「不合格でも受けてよかったと思える選考」

 私が新卒採用を担当していたグーグルで大切にされていたのは「不合格になっても、受けてよかったと思える選考」の実現でした。グーグルでは、選考に参加した方々へランダムにアンケート調査を実施しており、その満足度はリクルーターにとってはとても大切な指標です。

 選考に合格された方の場合、期待通りの結果に至っているわけですから、自然と選考の満足度は高くなります。ですから、むしろ特に意識されていたのは、選考不合格となった方からのアンケート結果でした。不本意な結果に終わっているわけですから、なかなか満足感を得てもらうのは難しい。だからこそ、合格者と同じくらい誠実で適切な対応を心掛け、「ファン化」を目指します。

 そして、その背景には「将来の採用候補者を惹きつける」という重要な意図があります。不合格になったとはいえ、選考に参加してくれている時点で、その候補者は企業に強い関心を持つ大切な候補者です。また、選考の終盤にまで進んだ候補者であれば、「あと一歩で合格だった、非常にポテンシャルの高い候補者」であると言えるでしょう。

 もし、こういった高ポテンシャルの候補者が、選考を通してファンになり、2〜3年のうちに再度選考に応募してくれるようなサイクルができあがったら、素晴らしいと思いませんか。実際、グーグルでは新卒採用に応募してくれた候補者が、その数年後に中途採用枠で再応募し、入社に至るといったケースも珍しくはありませんでした。

採用CXはどんな会社でも効果を発揮する

 採用CXを整えることで、候補者の「ファン化」を促進する意義は上記の通りですが、それにはあらゆるタッチポイントで一貫性のある強いメッセージを発信し続けることが大切です。では、どんなメッセージを伝えたらよいのでしょうか。

 私は「企業のパーパス」こそが伝えるべきメッセージであると考えています。前回詳述した通りですが、社会における存在意義を言語化した「企業のパーパス」は、そう簡単に変わるものではありません。また、個人にとっての「人生のパーパス」も同様です。だからこそ、パーパスという根源的な想いにおいて通じ合うことが、最も安定した強固な絆を生むわけです。

 「その企業はどのような社会的な使命に向かっているのか」「それに対して候補者の想いはどう重なるのか」このすり合わせを演出することが採用CXで成すべきことなのです。

 さらに強調したいのが、伝えるべきメッセージとしての「パーパス」と、その伝え方である「採用CX」を整えさえすれば、ブランドや企業規模に関係なく、あらゆる企業で候補者のアトラクト(惹きつけ)に絶大な効果を発揮する点です。まず運用において意識すべきことは「メッセージの一貫性」です。あらゆるタッチポイントで伝えるメッセージを「企業のパーパス」に統一することで、言葉遣いは多少違えど、選考の初めから終わりまで候補者は一貫した企業の想いを感じ続けることができます。

 イベントのテーマ、リクルーターから受ける質問、面接官が語るキャリアビジョンなど、そこかしこで「企業のパーパスに根ざした想い」を発信することで、候補者は納得感を持って企業理解を深め、共感を抱くことができるのです。

 その上で採用に関わる人全員が意識したいのが、「候補者に寄り添い、独自の想いや考えを引き出す努力」です。個々人がそれぞれ違ったパーパスを持っていることは当たり前なので、企業のパーパスを押し付けることなく、お互いのパーパスの交差点を見つける姿勢が求められます。

 候補者は、採用試験に合格した後は、社員として一緒に働く仲間となります。だからこそ本気で向き合い、候補者自身以上に候補者のことを考え、熱意を持って語り合わなければ、パーパスが通じ合うほど深い関係は築けません。なんとなく上辺だけで心地良い「採用CX」に終わってしまうことでしょう。

単なる「お客様扱い」とは決定的に違う「採用CX」

 CXとだけ聞くと「Customer Experience(=顧客体験)」を想起する方も多いかと思いますが、それと採用CXとでは大きく異なる点があります。それは「候補者との関係の作り方」です。顧客体験の最大化を目指す場合、基本的に「心地の良いサービスを提供することでファン獲得を目指す」ことが大きな目的になると思います。

 しかし私は、採用CXにおいては「心地の良い体験の提供」だけでは足りないと考えています。理由は上述の通り「合格後は社員として一緒に働く仲間となる人物」であることです。採用はほんの入口にすぎず、入社してからこそが本当の始まりですから、その見極めをすべき採用活動は、ある程度の「お互いの覚悟を決める」フェーズであると言えます。

 時に、候補者にとっては耳の痛いフィードバックを返すことで成長を促したり、あえて緊張感のある時間を用意する必要も出てくるでしょう。素敵な候補者に出会い、その人のキャリアを支援することで今後の成長を願うのであれば、採用の時点からその関係性を作ることをためらうべきではありません。

 ここを勘違いして、ただ心地よいサービスを提供するだけの人事になってしまうと、入社後のモチベーションが維持できず、期待値ギャップを理由に早期離職するなど、候補者にとっても企業にとっても不幸な結末に繋がりかねません。

 逆に、人事や社員がしっかりと候補者と向き合い、会社の個性をパーパスに乗せて伝え続けることができれば、入社に至った候補者はモチベーションも高く、積極的・自律的に仕事に取り組んでくれることでしょう(詳細は第4回参照)。

 ここまで、採用プロセスにおける「Candidate Experience」の考え方が重要である理由や、企業のパーパスとの関係性、実現のための心構えについてご説明してきました。続く第6回では、より具体例に踏み込んでご説明します。私なりに考える、採用CXを設計する際に重要な5つのステップと、実践的な採用CXの活用事例をご紹介します。

草深 生馬(くさぶか・いくま)

株式会社RECCOO COO兼CHRO

1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやプレゼンテーションを実施。

2020年5月より、株式会社RECCOOのCOO兼CHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は経営層の1人として自社事業の伸長に取り組みつつ、企業の中期経営計画を達成するための「採用・組織戦略」についてのアドバイザリーやコンサルテーションをクライアントへ提供している。

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