試行錯誤が続いた低価格プランは「勝者なき戦い」--携帯業界が苦しんだ2021年を振り返る - (page 2)

スマートフォンでも高まる「低価格」の人気

 携帯料金の引き下げが注目された2021年だが、実は引き下げが進んだのは携帯料金だけではない。2021年はスマートフォンの低価格志向の強まりも大きなトレンドとなっている。

 そのことを示していたのが、1つに2万円台のローエンドスマートフォンが急増したことだ。そこには政府によるスマートフォンの値引き規制に加え、ソフトバンクが販売したシャオミの「Redmi Note 9T」など海外メーカーが低価格攻勢を仕掛けてきた影響もあるのだが、より大きく影響しているのが、シニアがスマートフォンに買い換える動きが進んでいることだ。

 その背景にあるのは3Gのサービス終了が近づいていること。現在3G端末を使い続けているシニアを、4Gや5Gに移行させる「巻き取り」を携帯各社が急加速しており、巻き取り用の低価格なスマートフォンのラインアップを携帯3社が強化したことから、シニアの支持が強い国内メーカーがローエンド端末を強化したことで急増につながったのだ。

 実際、ソニーはドコモ向けに提供した2万円台の5G非対応スマートフォン「Xperia Ace II」の販売好調などにより、一部調査で国内スマートフォン出荷台数2位に急浮上。FCNTは2万円台の「arrows We」で前身の富士通時代を含め8年ぶりにKDDIへのスマートフォン供給を実現、京セラに至っては「あんしんスマホ」で初めてドコモへのスマートフォン供給を実現するなど、ローエンド端末の需要の高まりが市場の大きな変化につながっている様子を見て取ることができるだろう。

NTTドコモから販売されたソニーの「Xperia Ace II」は、5G非対応でコンパクトなローエンド端末だが、2万2000円という安さで高い人気を獲得した
NTTドコモから販売されたソニーの「Xperia Ace II」は、5G非対応でコンパクトなローエンド端末だが、2万2000円という安さで高い人気を獲得した

 その一方で、2021年はカメラに1インチのイメージセンサーを搭載した「AQUOS R6」「Xperia PRO-I」や、ライカカメラが全面監修した「LEITZ PHONE 1」、さらにはバルミューダがスマートフォン市場に初参入した「BALMUDA Phone」など、高額ながらも従来にない価値を提供するスマートフォンが相次いで登場し、注目を集めた。スマートフォン市場の極端な二極化が進んだ1年ともいえるかもしれない。

高級コンパクトカメラが搭載する、1インチイメージセンサーを採用したスマートフォンが2021年には急増。その先駆けとなったのがシャープの「AQUOS R6」だ
高級コンパクトカメラが搭載する、1インチイメージセンサーを採用したスマートフォンが2021年には急増。その先駆けとなったのがシャープの「AQUOS R6」だ

デフレと多くの問題をもたらした菅政権--岸田政権の影響は?

 2020年に続いて菅政権の影響を強く受けた携帯電話市場。料金引き下げを菅政権の成果として高く評価する向きは多いようだが、その一方で5Gの拡大やBeyond 5Gに向けた研究開発など、業界の成長に向けた積極的な取り組みを菅政権下で見ることはできなかった。成長なき価格の下落はデフレ以外の何者でもなく、決して評価できるものではないと筆者は考える。

 しかも菅政権を巡っては、2月に東北新社に勤める菅氏の長男から総務省幹部が接待を受けていた問題が発覚。その後、日本電信電話(NTT)による総務省幹部への高額接待までもが明らかになるなど、利害関係のある事業者との不透明な関係が指摘されるに至っている。

 とりわけNTTを巡っては、これまでNTTグループの分離分割を進めていた政府がドコモの完全子会社化を認める一方、ドコモがahamoをメインブランドの料金プランとして提供したことを菅氏が高く評価するなど、ここ最近政府との関係の良さが目立っていた。それゆえ、一連の接待問題に関する調査が終わる10月まで、NTTはドコモの完全子会社化で目論んでいたグループ再編を思うように進められない事態に陥ることとなった。

NTTドコモは10月25日にNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの子会社化を発表したが、その実現はNTTによる高額接待問題の影響で予定より大幅に遅れることとなった
NTTドコモは10月25日にNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの子会社化を発表したが、その実現はNTTによる高額接待問題の影響で予定より大幅に遅れることとなった

 ただ、菅氏は一連の接待問題だけでなく、東京五輪の開催や新型コロナウイルスを巡る対応などで支持を大きく落としたこともあってか、自民党総裁選への不出馬を表明。9月30日の任期をもって首相を退任している。その後、業界に対する菅氏の影響力は急低下しているようで、料金関連の動向も落ち着きを見せつつあるようだ。

 一方で、今後は10月から新たに就任した岸田文雄首相の政策が大きく影響してくることとなるが、携帯電話業界に影響を与えそうなものとしては「デジタル田園都市国家構想」が挙げられるだろう。これは地方のデジタル実装に力を入れ、地方と都市部との差を縮めて地方活性化を推進するというものだ。

 そこで重要になってくるのが5Gのネットワークインフラである。2021年には携帯3社が5Gのみの機器で構成されたスタンドアローン(SA)運用を一部で開始しており、今後SA運用へと切り替えが進めばコンシューマーだけでなく、法人での5G利用が加速すると見られている。それだけに岸田政権下では、少子高齢化が著しい地方での5Gネットワーク整備を重視し、企業や自治体でのデジタル利用を加速することを目論むものと考えられる。

 実際、12月17日に総務省が公表した、5G向けの新たな周波数帯となる2.3GHz帯の割り当て指針の案を見ると、離島や山村など条件不利地域や、5Gの整備が遅れている地域での整備がより進んでいることが比較審査の項目の1つとして設けられており、早速デジタル田園都市国家構想が大きく影響している様子が見えてくる。だが、携帯電話会社側は、投資効率が高い都市部のインフラ整備を重視する意向が強いだけに、2022年は地方のエリア整備に関する方向性を巡る議論が増える可能性が高いといえそうだ。

総務省公表資料より。2.3GHz帯の免許割り当て審査には岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」が反映され、5G整備が遅れている地方での整備状況を重視する方針を打ち出している
総務省公表資料より。2.3GHz帯の免許割り当て審査には岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」が反映され、5G整備が遅れている地方での整備状況を重視する方針を打ち出している

 そしてもう1つ、通信行政を見据える上で忘れてはいけないのは、周波数の割り当てをオークション方式で決める「周波数オークション」の導入だ。総務省は10月より「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」を開催し、周波数オークションの本格導入に向けた議論を進めており、2022年7月には一定の結論を出す予定だ。

 周波数オークションは審査の透明性や、新たな収入源の確保など行政側に大きなメリットがある一方、携帯電話会社にはオークションによる落札価格の高騰で収益を低下させる可能性を高めるなど、デメリットが多い仕組みでもある。そのため、導入にあたってはドコモが賛同を示す一方、楽天モバイルが反発するなど携帯各社の対応は大きく割れており、2022年に本格化する議論の行く末は大きな注目を集めることとなりそうだ。

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