東京五輪に合わせ華々しいスタートを切るはずだった5Gは、新型コロナウイルスが直撃して一気に失速。その一方で、携帯電話料金引き下げを訴えてきた菅義偉氏が内閣総理大臣に就任したことで料金引き下げ圧力は一層強まり、NTTがNTTドコモの子会社化を打ち出したことで競争環境も劇的に変わりつつある。コロナ禍と政治に振り回され続けた携帯電話業界の2020年を振り返りたい。
2020年初頭、新型コロナウイルスの感染がここまで拡大すると予想した人がどれだけいただろうか。それだけ2020年は世界的に新型コロナウイルスの影響を強く受け、停滞が続いた1年といえるだろう。その影響は日本の携帯電話業界にも非常に大きなマイナスの影響をもたらした。なぜなら、国内で新型コロナウイルスの感染が急拡大した3月は、携帯大手3社が5Gの商用サービスを開始する時期でもあったからだ。
次世代のモバイル通信規格であり、社会を大きく変える可能性があるとして非常に大きな注目を集めてきた5Gだが、日本は東京五輪に合わせて商用サービスを開始する計画を立てていた。そのため、2019年にサービスを開始した米国や中国、韓国など、主要な国々と比べて出遅れていることを問題視する声が少なからずあった。
それだけに国内の携帯電話事業者は、2020年の5G立ち上げに向けて入念に準備を進め、東京五輪の開催に合わせて5Gを活用したイベントを多数開催するなどして、国内外に向けて大々的にアピールする計画を立てていた。しかし、その目論見は、新型コロナウイルスの感染拡大とその後発令された緊急事態宣言によってすべて覆されてしまった。
実際、コロナ禍で3社の5Gの発表会は急遽オンラインに移行、楽天モバイルに至っては海外でのロックダウンが影響し、6月のサービス開始予定を9月末に延期している。それに加えて東京五輪をはじめとした5Gのアピールの場となるはずのイベントもすべて中止や延期、あるいはオンライン開催へと変更になり、思うように5Gをアピールできなくなってしまったのだ。
その結果、2020年の5Gは“点”といっても過言ではないほど狭いエリアと、軒並み10万円を超える5G対応スマートフォンの高額さだけが目立ち、とりわけ消費者からの関心は急速に失せてしまったといえる。考えられる限り最悪のスタートを切ってしまったといっても過言ではないだろう。
ただし、明るい材料がないわけでもない。携帯大手3社の5Gインフラ整備は計画通り進んでおり、2021年には5Gエリアの面展開が本格化する予定だ。KDDIとソフトバンクは4Gの周波数帯も活用して2022年3月までに人口カバー率90%の達成を見込んでおり、5G向けに割り当てられた周波数帯でのエリア整備にこだわるドコモも、5Gらしい高速大容量通信ができる“瞬速5G”の人口カバー率を、2022年3月までに55%にまで広げるとしている。
5Gに対応するスマートフォンについても、低価格端末向けの5Gチップセットが徐々に増えてきており、2021年には3万円台の5Gスマートフォンが登場すると見られている。また、日本で人気の高いアップルのスマートフォン新機種「iPhone 12」シリーズが、4機種すべて5Gに対応したことも、5Gの普及を進めるのに大きく貢献しているといえよう。
そうしたことから2021年は、日本にとって5Gをリスタートする年になるともいえる。延期となった東京五輪の開催と合わせ、5Gが明るい話題をもたらすことを期待したいものだ。
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